図書紹介
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「1Q84(イチ・キュウ・ハチ・ヨン) Book1 & 2」
(村上春樹著、新潮社、2009年5月30日発行、Book2第3刷、Book1:554ページ、 Book2:501ページ、Book1&2共に1,800円+税)

デニマルさん:8月号

現在、この本は最も話題性が高く、今年の小説部門でベストセラーNo.1といわれている。どうしてそんなに話題を呼んでいるのであろうか。先ず、出版社の上手い販売戦略にのせられた点がある。今年2月に「最新長編小説、初夏に発売」と宣伝したが、どんな内容の本なのか一切公表しなかった。著者の作品で「ノルウェイの森」(1987年)は、過去に上下巻で430万部も売った実績がある。それに最近では、「海辺のカフカ」(2002年)以来の小説である。こうして読者の飢餓意識を駆り立てての発売である。だから発売2週間で100万部を突破し、6月末で150万部の売上となり、純文学作品としては、前例のないことと新聞がかきたてている。更に著者は、今年2月の自らのエルサレム賞の受賞式で、イスラエル首相の前で毅然とガザ地区侵攻を非難するスピーチをして世界の注目を集めた話もある。

1Q84とは何か   ―― 1984年との違いを見分けるもの ――
1984年とは、ジョージ・オーウェルの小説を指している。この小説は、35年先の近未来社会を想定して書いた。1Q84は、現実の1984年との対比で書いている。だから発音は同じでも文字にすると明確な違いが出る。現実の社会とミステリアスな仮想社会を空想だけでなく、過去の生活対比から区分している。警察官の制服や拳銃が変わった点に気付いて「月が二つ」に見える。その時点から読者を現実社会から遊離した1Q84の世界に引きずり込む。

女主人公(青豆)を繋ぐもの  ―― オカルト集団との関わり ――
スポーツジム・インストラクターの「青豆」は、冒頭巧みな技で殺人を犯す。この本はミステリー小説かと思いながら読み進む。次の章は、別の主人公である小説家志望の予備校講師の話となる。その後、二人の主人公のストーリが交互に展開される。先の「二つの月」が見える時点で怪奇な事件が起きる。その背景に目に見えない糸で繋がれたオカルト集団との関りが明らかになってくる。誰がどこで繋がっていくのかは読んでのお楽しみである。

もう一人の主人公(天吾)を繋ぐもの  ―― 小説を書いた女子高生の秘密 ――
別の主人公「天吾」は、女子高生の小説を密かにリライトして新人文学賞を受賞させる。その小説は「空気さなぎ」というミステリアスなものである。女子高生は自らの体験を小説にしている。その「空気さなぎ」は、ある特殊環境でしか誕生しないと書いている。この女子高生とオカルト集団とは深い繋がりがあり、「青豆」と「天吾」を繋ぐ糸も徐々に鮮明になって接近する。宗教と暴力と男女の愛が錯綜する村上ワールドの長編小説である。

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