図書紹介
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狼花 新宿鮫IX
(大沢在昌著、光文社発行、2008年10月25日、初版1刷、451ページ、1,000円+税)

デニマルさん:1月号

この本の新宿鮫と言うよりは、著者の大沢氏の作品と出会って20年以上が経つ。確か、最初に読んだのが「東京騎士団」(1985年、徳間書店)と記憶する。その後、数々の探偵シリーズ物を書いている。佐久間公シリーズ(80年代、双葉ノベル)、アルバイト探偵シリーズ(80年代後半、廣済堂ブルーブック)があって、今回の新宿鮫シリーズ(1990年代、光文社)と続いている。この新宿鮫は、著者をベストセラー作家にさせた代表作である。それも最初の新宿鮫(1990年)で、日本推理作家協会賞と吉川英治文学新人賞を受賞している。更に、「無形人間 新宿鮫IV」(1993年)で第110回直木賞、今回紹介の「狼花 新宿鮫IX」(2006年)で日本冒険小説協会大賞も受賞している。著者は、ハードボイルドの推理作家で、斬新な題材をテーマに小気味のよいテンポで展開されるストーリィに読者は惹きこまれる。毎回登場する上司の課長と鑑識課員の藪、恋人・晶との絡みが話を盛り上げている。

新宿鮫   ―― ある警察官 ――
新宿鮫は、主人公の渾名であり、国家公務員T種に合格して警察庁に入ったキャリアの警察官である。しかし、警視庁内部の意見対立に巻き込まれて、新宿署の生活安全課に飛ばされ、組織から外された一匹狼的存在である。名前は、鮫島警部(年齢不詳)。新宿という場所柄、事件がヤクザ絡みとなる。使命感と正義感に燃える鮫島警部は、安易な妥協や裏取引を許さない捜査から、ヤクザから鮫のように恐れられているので「新宿鮫」である。

縦の糸  ―― 警察と組織 ――
警察と軍隊は、縦の命令が絶対の組織である。主人公は、一番下っ端の巡査から数えて3ランク上の警部である。その上は、警視、警視正からトップの警視総監まで9ランクある。今回の事件(麻薬強奪、密売、殺人)の責任者が、本庁(警視庁)から同期の香田警視正がやって来る。この本庁と所轄(地方警察署)との縦の糸が、捜査に微妙な関係を生む。そんな中で、上司の桃井課長と鑑識課の藪が、影で捜査協力して事件解決を助けている。

横の糸  ―― 犯罪とヤクザ ――
このシリーズの横糸は、事件と人間関係である。事件は、殆んどヤクザのシノギ(資金稼ぎ)を巡る組織的抗争(縄張り争い)である。今回も麻薬の販売に関わるトラブルである。著者がこだわる正義(国家治安・警察とヤクザの関係)から、国内ヤクザや外国人ヤクザをどう取締るかの葛藤も触れている。もう一つ主人公を巡る横の糸は、15歳年下の恋人「青木晶」(ロックバンドのボーカル)との会話や少しの濡れ場がストーリィを和らげている。

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