PMプロの知恵コーナー
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PMプロフェッショナルへの歩み―20

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 その後も懲罰委員会による社員の監査は引き続き厳しく進めました。事例を挙げると
―背任・横領
―業務放棄(業務中での陰に隠れての惰眠等)
―派遣業務の偽報告(特に外国への)
―テロリストへの協力
 このように規律のゆるみに関する報告がCIAから筆者にきましたが調達部長の懲戒処分の影響もあり以前に比較し徐々に改善されてきました。
 しかし、このような時に規律委員会の実行責任者である人事統括部長が暴漢に襲われたという報告が筆者の自宅にありました。急ぎ車を呼び入院先の病院に駆けつけました。
 病院に着いた時、警察官や会社の人たちによって血だらけの統括部長と彼の運転手が救急車から担架で病院に運ばれてきたところでした。そして、すぐに手術とのことで本人には会えませんでした。彼の運転手は比較的軽症でしたが足を撃たれ、病院の中で大きな風呂桶のような台に血だらけになって横になっていました。足には包帯が巻かれ、その包帯も血で真っ赤になっていました。
 病院にて警察官や担当者にこの事件の状況を聞いたところ、人事統括部長は自宅への帰宅途中であり、乗っていた車を止められ、運転手ともどもフロントガラス越しに拳銃で撃たれたとのことでした。
 また、事件の状況が落ち着き、人事統括部長の症状を医者に聞いたところ、銃弾は2発撃ちこまれ、1発は運転手に、もう一発は統括部長の胸にあたり、運よくこれが胸ポケットにさしていたペンにあたり跳弾となって、顎に当たったとのことでした。このため、命に別条がないこともわかり一安心、本件のいきさつをCEOにも 電話で説明し自宅に帰りました。
 自宅に帰りながら「何故、彼が撃たれたのだろう??・・この忙しい中でさらに面倒なことが起きてしまい、その善後策をどうしたらよいか?・・」一晩中、考えてその夜は眠ることもできませんでした。
 翌朝、早速CEOの部屋に出向き状況を説明するとともに、寝ながら考えた対策について話をしました。
 そして、本件に関してはその後の警察や関係者の話では昨今の国内での内戦にかかわる軍の人間(脱走兵の金がらみの暗殺者)が絡んでいるとのうわさもあり、この事件の重大さに鑑み、当面、この問題の解決を懲罰委員会の優先事項として位置づけました。
 筆者は本事件のきっかけは社内の問題に起因していると思っていました。その理由はこれまで懲罰委員会によるかなり厳しい処分やこの案件にかかわった人事部に恨みを持ち、その代表である人事統括部長がターゲットとなったと想定しました。
 そのため、本件は筆者がこの委員会の代表となり、退官した警察署長をアドバイザーとして雇い、さらにセキュリティーの問題もあるので軍の退役准将も雇い、専用オフィスを作り、常に相談できるような体制をとりました。
 その後も脅迫めいた電話が頻繁に筆者にも来るようになり女房とともに眠れない夜を過ごすことになりました。そのため、運用局長に指示を出し、電話局での逆探知も密に行うように指示しました。
 この一連の対策により、容疑者の発見と逮捕につながりました。
 この容疑者は国会議員の私設秘書のような人であり、逮捕後の警察署内の尋問についてもいろいろと政治的圧力があり、さらに上位の警察庁捜査部門の扱いとなりました。この犯人は契約殺人の元締めだったようでした。警察からの情報ではこの人間は秘密射撃訓練所を持ち脱走兵を含み多くの殺し屋を雇っているといった大物のようです。
 しかし、警察からはこれにてすべて決着したわけでなく、尋問の中の話では殺しの実行犯は“まだ殺しの契約を完成させていない”とのことで今後も十分注意するようにとの忠告がありました。
 しかし、この問題の発端は社員に対する懲罰委員会の活動にあり、社員との関係に関しても何らかの手を打たなければと思いました。社員の不満も組合問題もこの会社が民営化により日本の企業に牛耳られているという意識からの反発によることが彼らの深層心理にあると以前から感じていました。
 すなわち、上からの規律引き締めや日本的マネジメントの在り方が彼らにとっては無言の圧力となっているのではと感じるようになりました。
 そこで秘書や気心の知れた部下に“我々はこの会社をよくするために懸命に改革をしてより良い会社にするために頑張っているのに協力してくれる人も少なく、なぜ抵抗するのか?”と聞いたら、“日本人は日本のシステムが最良と思い、押し付けがましく感じ、それが彼らの精神的抵抗心に植え付けられているのかも”と言うことでした。筆者はこれまでの彼らとの付き合いで“日本の業務遂行方法を押し付けたりしていることも確かにあるな!”と考えていました。そのような時に社員の一人から秘書を通して“私は日本で空手の段位を持っているのでぜひ日本の武道である空手をこの会社に普及したい”との話が来ました。多分この社員は筆者も空手の有段者であることをどこかで聞きつけてきたのだと思います。筆者も「一般的に外国人は日本の武道を単なる格闘技ではなく、礼節や精神性、自己研鑽を重んじる“人間形成の道”として捉えている」と言われていることを思い出し、この思考がスリランカ人にも通じるかどうか面白いから試してみようと思いました。そこで彼に組合幹部達と相談し、彼らがその気になっているなら1週間後に彼らを筆者の部屋に一緒に連れて来なさいと言いました。
 その後、彼は数人の組合幹部を連れて筆者の事務所に来ました。組合員たちの意見では組合員の多くが興味を持っているとの話で “ぜひ”とのことで、筆者も彼らの本気度を理解し、空手の指導をすることにしました。
 その後、黒帯を持っている数人の現地人指導員と筆者とともに、会社の上下の身分関係なしに日本風の厳しい訓練で汗をかきました。さらに、6か月もたたないうちに100人を超す所帯となり、社内のイベントなども開催できるようになり、社員の前で空手の技や演武を披露するようになりました。
 この活動により、日本人社員に対するローカル社員の意識がなんとなく変化してきたように感じ、同時に筆者に対する態度も以前のような緊張したものではなくなり、筆者の部屋に気さくに相談に来るようになりました。
 特に顕著な変化は毎年開催される労使交渉です。以前は組合員の会社側に対する不信感もあり筆者がこの会社に派遣された頃はCEO が部屋に逃げ込み雪隠詰になったこともあり、かなり厳しい労使関係であったようでした。今回は全くそのようなこともなく、会議前の組合員入室挨拶も道場と同じような礼儀正しく、会社側役員の前に座り、静かに会社側提案も受け入れ、会社側が行ってきたこれまでの厳しい社員に対する監査や懲戒処分に関しても大きなクレームもなく静かに終わることができました。

 筆者がこの会社に派遣された当初は労働側と経営側との間の各種利害関係そして社員側の規律のゆるみがかなりありました。これまで公務員であった社員が民営化によって全く異なったシステムの中で他国による支配下での民間企業となってそれぞれ社員もかなり迷ったことと思います。このような中で技術者である筆者がこれまで経験のない労務、人事、総務、法務といった企業の下支えとなる役務の責任者となりました。筆者の経歴とは全く異なった仕事でかなり当初は途方にくれました。
 しかし、PMプロフェショナル18にて説明のエンジ会社で学習したケプナートリゴ法という思考方法を利用した以下に示した手順により多くの課題を発見し、その対策をとった結果、筆者の与えられた責務をここまで何とかやることができたと思います。
  1. ① 状況観察
  2. ② 状況分析及びその分析
  3. ③ 状況から見ての課題定義
  4. ④ 課題解決への対策
 この方法は「与えられた課題(ミッション)」をあらゆる角度から分析し、そこにある問題やニーズを抽出し、プロジェクト及び技術要件の設定および具体化を行う手法であり、これが筆者の今回の役務にも応用できたことの確信がもてました。
 この仕事は筆者のPMプロフェショナルへの歩みの観点から見ても、課題解決型プロジェクにもそして今回のような企業経営にもそしてプロジェクト実行段階における課題の解決にも利用できることもわかり、筆者にとっても大きな経験となりPMプロフェショナルへとしてワンランク上に進むことができたようです。
 尚、この民営化事業における筆者の後半での仕事はさらに役務が追加されODAにかかわる通信設備建設事業を進めている建設事業部も筆者の役務に追加され、さらに忙しい毎日となりました。
 翌年はいよいよSLT(スリランカテレコム)とN社の民営化に関する提携の最終年となりますが、筆者は2年半前に前CEO の依頼によりSLT に派遣され、CAO(総務、人事、労務.調達、法務)としての執行の責任者となり、上記に示すように状況観察からこの会社の課題を見つけその対策を行ってきました。この2年間はいろいろ問題がありましたが無事に過ごすことができました。
 なお、銃撃に会った人事統括部長はまだ安全な状況でないため、N社と相談し、N社シンガポール事務所にて、完全に事件の解明が済むまで、面倒を見てもらうべき了解を得てSLTのセキュリティー部隊や警察にお願いして、厳重な警戒のもとで空港まで送りました。
 筆者としてはこれで一応の決着がついたということで本件については少し気が楽になりました。その後も筆者は、彼の様子を見るために何度かシンガポールに出かけました。

 今月号はここまでとします。

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