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『第312回月例講演会』報告
田邉 克文 : 4月号
【データ】
| 開催日: |
2026年2月27日(金) |
| テーマ: |
「 SDGsのウエディングケーキモデルから考える持続する社会 」
~自らの運命を切り拓くための鍵となる情報提供~
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| 講師: |
岡崎 博之 氏
持続する社会を希求する人 |
◆ はじめに
SDGsの「ウエディングケーキモデル」は、人類を含めた地球上の生命全体が、自然の恵みという土台に支えられていることを教えてくれる。人類誕生以来社会はこの土台がもたらす恵みを最大限に享受してきた。特に産業革命以降において、人類はそれまで以上にこの土台から大量の恵みを得て快適さと利便性を得ることに成功した。その裏で同時に土台がやせ細るという問題が静かに確実に進行していた。
講演では、私たちの社会が直面している状況を歴史的な観点を含めて見つめ直し、持続する社会とは何かを紐解き、自らの運命を切り拓くためのプログラム・プロジェクトの鍵となる視点についてお話いただいた。
講演内容
1. 「1000年持続する社会」を考える理由
産業革命以降、人類は化石燃料(石炭・石油)を基盤とした経済成長を遂げ、かつてない豊かさを享受してきたが、このまま社会生活と経済活動を続けたとき、自然環境の上に成り立つ社会は持続可能なのか。
本講演の核心は、10年や100年という短中期的なスパンではなく、「1000年持続する社会」を想定することにある。100年程度であれば科学技術による課題解決が可能かもしれないが、1000年というタイムスケールでは、エネルギー保存則などの物理法則や資源の枯渇といった、科学技術では超えられない制約があると考えられる。そしてその科学技術による解決は困難と見なされている点にある。
2. SDGsの構造的理解 : ウエディングケーキモデルについて
国連は2015年に、17の目標を有するSDGsの枠組みを提示した。そして2016年にストックホルム・レジリエンス・センターが17の目標を「生物圏(土台)」「社会圏」「経済圏」の3層に分類し、生物圏が社会圏、そして経済圏を支えるという相互依存関係を視覚化した「ウエディングケーキモデル」を提唱している。
- 生物圏(土台): 海、陸、水、気候などの自然環境。
- 社会圏(中間層): 人々の生活、教育、平和。
- 経済圏(最上層): 経済成長、技術革新。
このモデルは、生物圏を土台とし、その上に社会圏、さらにその上に経済圏が成り立つ三層構造を示している。すなわち、環境が崩れれば社会も経済も成立しないという依存関係を可視化したものである。
3. 社会を支える土台 (純一次生産とエネルギー)
社会を支える根本的要素として「食糧(体内エネルギー)」「淡水」「燃料(体外エネルギー)」がある。
純一次生産とは、植物の正味の光合成生産を示している。
産業革命で石炭を使うまでは、人間を含めた地球上の全ての生物の食糧と人間社会のエネルギー消費を賄っていた。今も人間の食糧は純一次生産すなわち光合成によって生み出されている。
しかし、産業革命以降、地下に蓄積された化石燃料やウラン燃料といったエネルギー資源が大規模に利用されるようになり、社会は飛躍的な成長を遂げた。農業においても、機械化や化学肥料の導入などにより、生産性は飛躍的に向上したが、その背後には大量の化石燃料投入がある。純一次生産は有限であり、地球上の生物すべての生存を支える基盤である。陸地の約半分が人間活動によって占有されている現状は、他の生物の取り分を減少させていることを意味する。
4. 科学技術による持続への挑戦の限界
エネルギーの物理的な枯渇の制約をなくすための科学技術的な取り組みがなされている。
- 再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電:設備には寿命があり、維持管理、そして設備を更新しなければならない。これまでのエネルギー使用量を賄おうとすると、純一次生産を大きく阻害する)
- バイオマス燃料(栽培し収穫するためのエネルギー投入と燃料製造工程におけるエネルギー投入が必要になる、海外から燃料を輸入する場合は輸送に係るエネルギーが必要)
- 合成燃料(水素製造と二酸化炭素分解から始まる、そこにエネルギー投入が必要)
上記のように科学技術の取り組みがなされているが、いずれも純一次生産に影響を及ぼし、更にエネルギー使用量を増大させているのが実情である。
5. 持続する社会のためには
持続可能な社会を考える上で、過去の事例は重要な示唆を与えてくれる。
- 失敗の例(イースター島): 文明の発達に伴う人口増加、森林伐採、環境劣化により、純一次生産が社会を支えられなくなり、閉鎖系の中で崩壊の道を辿った。
- 成功の例(江戸時代): 日本の江戸時代は、化石燃料に頼らず、純一次生産の範囲内で運営された持続社会だった。(純一次生産の壁を克服した)
江戸時代の持続的循環の具体例:
- 食べ残しや排泄物を肥料として再利用する。
- 雨水を家事や農業に活用し、焚き火の灰まで洗剤として利用する。
- 衣服や陶器を修繕し、次世代へ受け継ぐ。
- 徹底した森林管理(留山制度)による資源保護。
このような循環型社会の構築により、約3,000万人の人口を長期にわたり安定して支えた。当時の就業者の80%が農業に従事していた事実は、エネルギーを化石燃料に頼らない一つの解を示している。
6.1000年持続する社会への提案(まとめ)
現代社会は地下資源に依存した成長構造の上に成立しているが、それらは永続的ではない。地下資源は延命措置にはなり得ても、1000年後まで続く保証はない。ゆえに、意識の変革と制度設計の再構築が求められる。
SDGsでは「スキーム(枠組み)」「システム(実行体制)」「サービス(持続の仕組み)」として捉え直し、段階的に社会を転換していくプログラムが提案されており、2030年という具体的目標を掲げるSDGsは、その第一歩となるであろう。
◆執筆者所感
1000年先を見た講師の視線はとても新鮮に感じられました。毎日のように新聞やテレビ等多くのメディアでSDGs関連の話題は尽きませんが、今回ご講演の中で取り上げられた過去に経験した事例を参考に、全世界的に具体的な活動に繋げられたらよいと思います。一方で、スケールが壮大でかつ難解な課題であるため、理想は世界中の人々が手を取り合い1000年後の社会や人類の存続について共に考え続けていくことが必要だと思いました。
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