今月のひとこと
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 披展(ひてん) 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :4月号

 週間天気予報では暖かい日が続くといっていたにもかかわらず、きっちりと花冷えの日が紛れ込んできます。日頃、異常気象だとか温暖化だとか口走っているせいか、お約束どおりの花冷え到来を嬉しく感じてしまいます。もちろん、そんな日には燗酒を楽しまねばなりません。昨年の秋に100円ショップで見つけた「自立するじょうご」という商品名のじょうご(漏斗)のおかげで、手軽に燗酒を楽しんでいます。剣菱酒造白樫社長が関西PMセミナーでの講演で紹介された剣菱1合瓶は容器ごと電子レンジで燗ができるのですが、この漏斗との相性が見事なのです。空いた1合瓶に漏斗を載せてお酒(もっぱら剣菱ですが、ときおり他の銘柄も・・)を注ぐのですが、透明な瓶なので多く入れ過ぎて溢れさすこともありません。レンジ使用は、お燗のつけ方としては邪道かもしれませんが、レンチン1分の魅力には勝てません。

<自立するじょうご>
漏斗の注ぎ口の周囲にスカートを穿かせたデザインなので、漏斗を立てた時に倒れないようになっている。
高さ5cm、上部口径6cm
液体洗剤やオイルの詰め替えが本来の用途?
自立するじょうご

 数か月前のある会合で、経営思想家として著名な先生が執筆された書籍が参加者に配付されました。喜んで読み始めたのですが、全く内容を読み解くことができず、まえがきの途中で本を置いてしまいました。ずっとそのままにしていたのですが、机の脇にチラチラ目につくので、知らない熟語が出てきたらPC検索して読み進めてみるかと再度挑戦してみました。数行おきに検索しなければなりませんでしたが、数ページは進めました。今度も、文全体の意味は今一つですが、いいことが書いてあるような気がしてきました。
 例えば「披展」という言葉が使われています。初めて見る熟語です。調べると「ひてん」と読み、「ひらき、ひろげる」という意味だそうです。本のテーマの一つである「変革」に繋がるような気がして嬉しくなったのですが、文としての意味までは読み取れません。しかたなく、AIに頼ることにしました。
 「披展」が含まれる一文についてAIに現代語訳するようを指示して読み直すと、ようやく「社内だけに留まらず、広く社会に向けて考えろ」という意味を含んだ文であることが理解できました。ただ、原文は文章に威厳があるように感じられ、何かを主張しようとしているようにも思えたので、さらに、原文の格調性を維持するよう指示しました。今度は、「会社の姿勢として、社会貢献が必須」だとの主張が現れてきて、ようやく納得できました。しかしながら、原文に比べて倍以上の長さになってしまいました。

 学生時代は、文章の作り方など考えたこともなかったのですが、社会人になって、誰にでも理解できるような言い回しにしなければならないと指導され、自分でも努めてきました。今回、偶然読むことになった「深い考察」が載っているような本には何度か出会ったことがあるように思いますが、いつも直ぐに投げ出していました。AIを使えるということを知っていなければ、しっかり読んでみようという気にはならなかったと思います。初めて、「深い考察」がどんなものなのかを、ちょっとだけですが、垣間見たような気がします。誰にでも通じる文章を使って「深い考察」を表現するためには倍以上の分量の記述が必要になったという事実は、驚きでした。文章の作り方を意識するようになって以来、どうして学者や思想家の方々は難しい文章を書くのだろうと、長い間、疑問に思っていました。「誰にでも理解できるような言い回し」を考えるのは、「深い考察」には邪魔なのでした。少なくとも、考察の成果物である論文が、倍以上の長さになってしまいます。

 今月号では、ジャーナルの編集を担当する編集子の読解力が軟弱であることを暴露してしまいました。寄稿されている方々は、決してそのようなことはありません。豊富な経験と深い洞察に基づく記事をお寄せいただいていますので、読者の皆さんには安心してお読みいただけます。
以上

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