例会部会
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『第309回月例講演会』報告

田邉 克文 : 1月号

【データ】
開催日: 2025年11月28日(金)
テーマ: 「 品質の向上と顧客満足の獲得 」

講師: 枝窪 肇 氏 /
横河電機株式会社 横河プロダクト本部品質保証センター マネージャー

◆ はじめに
品質の維持・向上は、顧客に製品やサービスを提供する組織にとって重要である。一方で、「品質」の捉え方は「仕様として設定した機能を満たしている」という製品視点から、「顧客満足を得ること」という顧客視点に変化してきた。また、製品やサービスの提供方法も自社単独ではなく、他社製品やクラウドとの組み合わせによる提供が一般化し、品質確保は一層複雑で難しくなってきている。講演では「品質管理」および「品質保証」の本質を踏まえ、現代の品質マネジメントのあるべき姿についてお話いただきました。

講演内容
  1. 1. P2M標準ガイドブック「品質マネジメント」と品質保証/品質管理
    ガイドブックでは改訂3版と改訂4版で章立ては変わっているが、記載されている事項はあまり変わっていない。品質マネジメントについてP2M標準ガイドブックから品質保証と品質管理それぞれの定義を引用すると、
    - 品質保証とは、顧客の要求する品質が十分満たされていることを保証するために実施する一連の仕組みとその活動のことである。
    - 品質管理とは、製品やサービスが定められた品質基準に適合しているか否かを検査し、不適合があった場合は、その原因を調査し、取り除くための手段を講ずることである。
    一方で、現場経験からの考え方からみると別の顔が見えてくる。品質管理は、製品・サービスの企画、設計、開発、製造、提供、運用、保守、サービスのそれぞれのフェーズ単位で行われる品質活動。各工程の管理は品質の維持・向上のために非常に大切である。しかし、特定の工程だけで品質管理を完璧にしても、全体品質が必ずしも高まるとは限らない。品質保証は、工程ごとの品質管理が適切であることを監視するだけでなく、それら工程間の連携を含む、全体的なQMS運用が適切であることを確実にするための機能である。このように考えると、品質保証と品質管理の関係性は、品質保証はプログラムで、品質管理がプロジェクトであると言える。

  2. P2M標準ガイドブック「品質マネジメント」と品質保証/品質管理

  3. 2. 品質不正
    ここ数年でも品質不正事例は発生している。これらの不正をよく見ると、品質そのものが製造過程で誤って作られたものではなく、避けるべき方法を続けてしまったことによる不正であり、組織的な隠ぺいがされたようなコンプライアンス問題の不正が多い。 不正が起こるには3つの要因が揃った時に発生するとされた“不正のトライアングル理論“がある。
    出典:要注意
    - 動機…例:個人的な借金、失敗の隠ぺい
    - 機会…例:監視カメラの未設置、権限の不適切な委譲
    - 正当化…例:企業の利益追求、他の人もやっている

    身近な不正の例として、信号無視、私有地のショートカット、異なる作業手順などが挙げられる。
    不正防止をするためには以下のことが必要となる。
    - 動機を生ませない:ゆとりある作業スケジュール、適正な評価
    - 機会を与えない:適切な監視ルール、不正ができない環境づくり
    - 正当化させない:手順遵守による品質確保の理解、発覚時のコトの重大性の認知。

    必要なルール(手順)を整備し、実施・監視の両面で運用することで、品質の安定した成果につながる。

  4. 3. 品質とはそもそも何か
    品質の定義は視点や立場によってさまざまであるが、P2M標準ガイドブック改訂4版では「顧客の視点」で品質を定義していると読み取れる。顧客の不満を解消するためには、どの品質を改善する必要があるかを考え、そこに焦点を当てて対策することで、総合品質の向上につなげることができる。

  5. 4. 高品質を維持するために必要なプロセス間連携
    製品が顧客に提供されるまでの工程(プロセス)での品質を組み合わせたものが総合品質となる。ただし、総合品質は各プロセスの品質の単純な足し算になるわけではない。
    各プロセスが共通の顧客満足に向けて共同し連携すれば、総和以上の総合品質を作り上げることが可能となる。ISO9001では、システムアプローチを推奨しており、このアプローチによって、システムのプロセス間の相互関係及び相互依存性を管理することができ、それによって、組織の全体的なパフォーマンスを向上できると書かれている。
    プロセスを整理する具現化ツールの一つとして「タートルチャート」があり、プロセスをカメの甲羅に見立て、頭をインプット、尾をアウトプット、手足に必要な要素を記入してプロセスを図示して整理することができる。社内ではタートルチャートのテンプレート(下図)を用意して推奨しており、内部監査でも使用され各部署に浸透している。
    タートルチャートのテンプレート

  6. 5. 品質を武器にするとは
    昭和の時代、日本の製造業は手を抜かなかった結果、誰からも文句の出ないモノが当たり前につくり出され世に出ていった。一方で、海外の製造業者は安かろう・悪かろうの製品でも購入してくれる消費者を相手にしていたため、「Made in Japan」は品質の良い製品として世界に定着した。しかし、バブル崩壊後の日本は同じ作り方ができなくなり、徐々に「Made in Japan」はその強みを失っていった。「Made in Japan」は崩壊したのか?
    多くの日本企業はやり方は変えたが、日本らしさ/日本人らしさは変わっていない。
    「品質が良い=顧客の要求を満足させるモノ・コトを提供する」と考えると顧客の要求は多岐にわたっており、直観的な要求や、製品単体ではわからないような要求にも応えなければならなくなってきている。
    「Made in Japan」が言われなくなった背景にあるのは、日本人が日本人らしさを失ったからではなく、顧客の要求が多様化したことに、日本の製造業が追い付いていないからである。なぜなら、日本人は「変化を嫌う人種」であるため変えなければいけないが、なかなか変えられない。大事なのは顧客の要求をいかにして汲み取るか、それをどういうふうに実現するかが品質を武器にする際の肝となる。

  7. 6. 品質への提言(まとめ)
    - 品質管理と品質保証の関係は、プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの関係で考える。
    - 不正を起こさせないためには、顧客の要求に応えることが使命と肝に銘じ、必要な手順を整え、実行し、安定した品質を得る。
    - 総合品質を向上するためには、それぞれの行程(プロセス)ごとの品質を高めることで、関連するすべての工程に関わる全員がプロセス連携の観点で品質に責任を持つ。
    - 顧客が欲しているものは何かをきちんと踏まえ、「何を作りこむか」を柔軟に考え、実現し、提供しなくてはいけない。

  8. ◆ 執筆者所感
    講義の中では、具体的な身近な話題を例に説明いただくことで、自分ごととして考えることができ理解しやすかったです。一方、講演の中で触れられた品質不正に該当するちょっとした気のゆるみが自分自身でも身近に感じられました。悪魔のささやきではないですが、人間誰もが抱く欲望や気のゆるみに付け込んで本来やってはいけないことが重大な問題(不正)の引き金になっていることを自覚する良い機会となりました。

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