「例会第300回記念大会」報告①
例会部会長 枝窪 肇 : 4月号
【データ】
開催日時: |
2025年2月28日(金) 16:00~17:00 |
テーマ: |
株式会社ジゴワッツ これまでとこれからと 起業の一例 |
講師: |
柴田 知輝 氏/株式会社ジゴワッツ 代表取締役 |
日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。
PMAJ例会部会では、2月28日に例会第300回記念大会を開催しました。当日、会場およびオンラインでご参加いただいた皆さまにはあらためて御礼申し上げます。
当日は2名の講師をお招きし、それぞれ1時間ずつご講演いただきました。ここではそのうち1人目の講演についてレポートいたします。
~はじめに~
講師の柴田様は、電気自動車(EV)用普通充電器を手がける株式会社ジゴワッツで代表取締役に就かれておいでですが、会社の創業のきっかけとなった学生時代のEVとの出会いや人とのつながり、そして起業後の実際について、ご自身の体験を中心にお話しいただきました。以下、要点を抜粋して紹介させていただきます。
~講演概要~
- 事業概要
株式会社ジゴワッツはEV充電器のワンストップカンパニーです。
EV用充電器ビジネスにおいて、充電器の設計製造から、システム開発、設置工事、充電料金の徴収まで、一気通貫で行う唯一の企業です。
製品の一つであるEllaという充電器は、日本で走っている全てのEVをこれで充電することが可能です。サイズは恐らく世界で最小サイズの充電器ですが、1時間の充電で20km走行できる程度の充電が可能です。インターネット接続してリモートで操作することもできます。
1時間の充電で50km程度の走行が可能になる、産業用モデルもあります。これは主に宅配便のヤードなどの業務利用の場で使われています。
課金認証アプリや、多数台制御・最適化充電などができるマネジメントシステムもご用意しています。
- 創業のきっかけ
まず、創業の2014年から、大学に入学した2005年までさかのぼります。
2005年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部に入りました。そこで、知的財産権とビジネスモデルというPFU殿の寄付講座を受講し、最終課題である「特許を使ってビジネスを考える」という授業が大変面白かったので、この講義の単位を取得した後も、その講義を受講していろいろなアイディアを出しました。
一例として、イラスト入りQRコード(QRコードの機能は損なわずに、色を用いることでQRコードが示すもののイメージを伝えることができる)の特許出願をし、優秀賞を受賞しました。
2008年にi-MiEVの試作車に試乗する機会があり、そこで、充電についての課題があることを知り、充電設備のある場所をマップ化して相互に貸し合えば良いのではないかと考え、エコパワーマップという充電器ネットワーク構築のアイディアをビジネスコンテストに応募しました。具体的には情報KIOSK端末に電源供給口を作りそれを各所に設置すること、充電時に充電器と車が必ず接触する(線でつながる)ことから、車の情報を収集したりユーザーが欲しい情報を提供したりするビジネスプランを考えました。
このビジネスプランを以てビジネスコンテストに臨んだのですが、コンテスト最終審査会の前日に充電器のデモ機を遅くまで制作していたら当日寝坊してしまい、審査会が終わる時刻にようやく会場に到着するという失態を犯しました。発表は聞いてもらえたのですが、間に合えば良かったのに残念でしたね、ということになりました。ここで賞を逃したことが悔しくて、未だに充電器のビジネスをやっている、続けていられる、というのが私のルーツです。
大学卒業の頃にはマンガをダウンロードするビジネスを起業しており、儲かってはいなかったもののもう少しビジネスは続けたい、しかし、それ一本では不安があるということで、2009年に京都大学の大学院に進学しました。ここでは、家庭内の電力を直流にしてオンデマンド化する研究をしており、インターネットプロトコルを研究するような研究室に入ったのですが、データの流れと電機の流れのルーティングを同じように考え、プラグに挿したら、これはどういった機器なのかをネットワークで通信し、最適な給電をするという、いわばスマートグリッドの家庭内版のような仕組みを作っていました。この時にハードウェア開発にも携わるようになりました。
こうした経験を携えて、大学時代にお世話になったPFU殿にお誘いいただき、2011年に入社しました。ですが、東日本大震災による電気不足で計画停電などがある中で、EVの充電はビジネスとして成り立たないと判断したPFU殿は充電器ビジネスから撤退することとなりました。私は充電器ビジネスがやりたかったので、ここでPFU殿を退社し、2014年に株式会社ジゴワッツを創業しました。
- ジゴワッツの10年
今でこそEVの話題はよく耳にするようになりましたが、10年前は充電器は売れていませんでした。そんな中で、MAMORIOという落とし物・忘れ物防止タグ、TOYOTAのi-ROADというトライク型EV専用の充電器:スマイルロックコンセント、本日最初に紹介したEllaをリリースしました。その後も充電器ビジネス以外でROBOTS.COFFEEをオープンしました。ROBOTS.COFFEEはコロナ禍の影響もあり、1店舗で終了しましたが、その後、街中にTesla社の車を見かけるようになった頃に、現在の主力機である産業用モデルをリリースし、現在に至ります。
世界の車の販売台数に占めるEVの販売台数は、株式会社ジゴワッツが創業した2014年は0.4%であったものが2022年には13.0%、2024年には二十数パーセントと急上昇しています。ただし、我われが挑んでいる日本国内では昨年ではまだ2%程度であり、これからといったところだと考えています。国内普及が進んでいないのは、今販売されているEVが家庭用の軽自動車が主流であり、まだまだ社用車として購入されているような車種に展開されていないことも一因だと考えます。ここが変われば日本でも車の電動化が進むのではないかと思います。
現在株式会社ジゴワッツで扱っている製品としては、Ella、産業用モデルの他に、他社ブランドで展開しているOEM製品、自動車用のスマートロックであるバーチャルキーなどがあり、導入事例も着実に増えています。
- これから
国外市場にける中期目標として、2028年までに日本以外の最低5か国で充電器及び充電器基板ならびにソフトウェアの販売を開始します。今年になって、インド市場とベトナム市場での提携が決まりました。
Ellaの小ささが求められる国もあれば、それには全く興味を示さない国があるなど、国ごとの要求を調べながら、今後の展開を進めていこうと考えています。
- ~筆者所感~
今回の講演を聴いて、講師の柴田様の発想力がそもそも人と違い、更にはそれを活かせる場所に自らの身を置き、力を余すことなく発揮していると感じました。
やはり起業して成功を収める方は違うな、とまざまざと思い知らされたご講演となりました。
株式会社ジゴワッツが取り組んでおられることは、単なるモノづくりではなく、それを使う他企業やユーザーを巻き込んだビジネスの全体像としてのコトづくりであると思います。第300回という記念すべき回に相応しいご講演をいただけましたことに、講師の柴田様には、心より感謝申し上げます。
ご講演の資料は協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」の月例会開催資料(http://www.pmaj.or.jp/library/regular.html)にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。
なお、我われと共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上
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