関西例会部会
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第167回関西例会 報告

PMAJ関西KP 守能 昇治 : 3月号

開催日時: 2025年1月31日(金) 19:00~20:30 (懇親会~21:00)
開催場所: オンライン開催
テーマ: 「「データ分析人材育成プロジェクト」
~お金や数字のトラブルをゼロにし、働く人を笑顔に!~」
スピーカー: 弓塲 啓司 ( ゆみば けいじ ) 氏
三恵ビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役
一般社団法人国際コンピュータ利用監査教育協会 代表理事

1. 概要
 講師は、公認会計士として、30年以上にわたり、ミスを減らし業務を効率化することに主眼に、監査実務でコンピュータ利用監査技法(データ分析)を実践されてきた方である。そして、現在は、「データ分析人材育成プロジェクト」に取り組んでいて、生の情報を正確に集めて分析し、監査やプロジェクトの現場に大きな改善をもたらし、お金や数字のトラブルを無くして、働く人を笑顔にすることを目指している。
 これまでのプロジェクトの経験を踏まえて、失敗を通じて得られた教訓、そしてプロジェクトに関わる人が特に重要と思われる素養について、P2Mのフレームワークとマッピングさせながら、講演された。

2.データ分析人材育成プロジェクト
1) 大きな課題と解決策

 社会における大きな課題として、長時間労働、ストレス、キャリアおよび利益の喪失がある。この原因の一つは、データ集計・加工を手作業で行っていることである。その解決策としては、手作業から自動化への移行であり、そのことにより、働く人にとっては、作業効率が上がり、ストレスが減るなどの効果がある。企業にとっては、利益が上がり、仕事の質が向上する効果がある。社会全体にとって、労働生産性が向上するなどの効果がある。一方、自動化するには、データ分析スキル(分析シナリオの作成、処理手順の作成、プログラムの開発)が必要である。

2) データ分析人材の育成を通じて実現したい社会
 データ分析スキルを身に着けた人材を育成することは、監査品質の向上につながり、不祥事の発見・防止にもつながり、国民経済の健全な発展に寄与すると考えている。社会全体では、データ分析人材の就業機会の創出につながり、労働生産性が向上することから、国民の豊かで安定した幸福な人生が実現する。

3) 3つのプロジェクト
 「データ分析人材育成プログラム」は、次の3つのプロジェクトで構成されている。
  1. ① データ分析ができる人を作るために、”THUMGY Data”というプログラムの知識がなくても自動化できるソフトを開発し、機能充実を図っている。機能充実の方向性は、AI技術を導入して、”THUMGY Data”にインポートしたデータから分析シナリオを推奨する機能や、データ処理手順を自動作成する機能を考えている。
  2. ② データ分析スキルの見える化をするために、データ分析検定(仮称)を創設する計画である。
  3. ③ 働く人の収入を増やすために、企業とデータ分析検定認定者をマッチングするサービスを計画している。

4) データ分析人材育成プロジェクトから得られた教訓
 ”THUMGY Data”の開発では、エンジニアの退職、オフショア開発先の解散危機等に直面した。そこで、講師は、オフショア開発先と交渉し、今後自らが直接マネジメントすることで、引き続き委託することとなった。実現したい社会に対する想いが伝わらなければ、プロジェクトはうまくいかないことを痛感したとのことで、「想いが一番」という教訓を得た。

3.これまで経験してきた主なプロジェクト
 
 講師は、1996年以来、システム構築等において、14本のプロジェクトに取り組んできた。具体的には、合併に伴うシステム構築、合併後のシステムの切り替え、eラーニング導入等であり、修羅場のなかで、「一人でできることは限られるので、仕事はチームで行う」、「プロジェクトの成否はリーダー次第」、「お客様は神様ではない」などの教訓を得た。なかでも、コロナ禍によって、監査ソフト操作の集合研修ができなくなった際に、オンラインでも研修の質を維持するために、手元で受講者の画面が見える状態を確保できるシステムを構築することができた。「窮すれば通ず」という教訓を得た。

4. おわりに
 
 P2Mでは、成果を生み出してきたプログラム・プロジェクトマネジャーの共通する行動特性を、実践力の能力要素として、10のタクソノミーで示している。
 統合思考 戦略思考 価値判断 計画行動 実行行動
 統制・調整 リーダーシップ 人間関係 成果追求 個人姿勢

 講師はそのなかでも、プロジェクトに関わる人が特に重要と思われる素養として、以下の5つをあげられた。
 ① リーダーシップ ② 行動 ③ 個人姿勢 ④ 価値判断 ⑤ 成果追求
 最重要は、リーダーシップであり、管理するのではなく、想いを持つことであることを強調され、講演を締めくくられた。

感想
 自らの長年のプロジェクト経験やそこで得られた教訓を、P2Mのフレームワークとマッピングしながら、紹介いただいた。講演にあたり、P2Mの体系を理解していただいたことに敬意を表したい。
 質問では、「リーダーシップ」に関することが続いた。「P2M標準ガイドブック 改訂4版」の「人材マネジメント」では、「リーダーシップを獲得し伸ばすには、経験からの学びが有効である。成長を促す経験の種類として、修羅場があげられる。修羅場に身を置くことで、一皮むけたと言われるリーダーシップの覚醒が起きる」とある。
 弓塲代表も、修羅場を多く経験されたとのことであり、そのことにより、プロジェクトにおけるリーダーシップの重要性を強く感じているのだと思った。
 全体を通じて、弓塲代表の「データ分析人材の育成を通じて実現したい社会」への想いが人材育成プログラムの原動力になっているのだと強く感じる講演であった。

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