P2Mクラブ
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産学連携による社会ニーズを踏まえた高度人材育成
~PBL活用による社会課題解決のシステム開発事例~

佐藤 義男 株式会社ピーエム・アラインメント : 10月号

1.要旨
 8月の「P2Mクラブ」講演で伝えた次の内容を解説します。
  1. (1) 当社が参加し産学連携で行われたenPiT(文部科学省、成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成)プログラムは実践的IT教育のコアであり、社会ニーズを踏まえた高度人材育成に寄与した。
  2. (2) PBLを活用したシステム開発は、実社会の課題に利活用して実践的であり、企業は「人への投資」の実践に参考にすべきだ。

2. enPiTプログラムとは
 情報技術を高度に活用して、社会の具体的な課題を解決することのできる人材を育成するために、PBL等の実践的な情報教育を新たに学部生に対して推進・普及させる。このため、社会的要請が強い4つの分野(ビッグデータ・AI分野、セキュリティ分野、組込みシステム分野、ビジネスシステムデザイン分野)を対象に実際の課題に基づく実践的な教育を推進する。
 学部3~4年生が主な対象であり、これまで6101名(2020年度は800名)の修了生を輩出した。

 本プログラムのフレームワークは次のとおりです。
enPiTプログラムのフレームワーク

 このうち、ビックデータ・AI分野(AiBiC)の概要は次のとおりです。
  1. (1)育成する人材像
    いわゆるビッグデータの分析手法、新しいビジネス分野の創出といった社会の具体的な課題を、クラウド技術を活用し解決できる人材。
  2. (2)教育の概要
  • 基礎知識学習(クラウドコンピューティングの基礎、クラウド環境の利用技術、アジャイルなどのクラウドを支えるソフトウェア開発方法論)を習得。
  • 短期集中合宿
    クラウド環境を利用したアプリケーション開発を事例に、大規模データ処理、プロジェクトマネジメントなど、チームでの開発を体験。
  • 分散PBL
    チームでアプリケーション・情報システムの分散開発、クラウドを利用したビジネスモデル提案を実施。
  1. (3)PBLテーマ例
    クラウドシステムの利活用の観点から次のPBLテーマを設定した。
  • 実際のコンビニ販売データを使ったビッグデータ分析。
  1. (4)実施体制
    39校、51企業の教育ネットワークを形成して実施した。
  • 中核拠点:大阪大学
  • 連携校(9校):東京大学、東京工業大学、お茶の水大学、千葉大学、など。
  • 参加校(29校):関西大学、京都産業大学、近畿大学、九州産業大学、公立はこだて未来大学、香川大学、早稲田大学、東海大学、など。
  • 連携企業数(51社)
  • 参加教員数(107名)

3.  PBLの重要性
  1. (1)PBLとは
    Project Based Learning(プロジェクト型学習)またはProblem Based Learning(問題解決型学習)の略称。
  2. (2)通常の教育手法との違い
    教科等の本質的な学びを踏まえた主体的で対話のある深い学びを「アクティブ・ラーニング」と言います。文部科学省が推進しています。
    このアクティブ・ラーニングを可能にするのが「PBL」(プロジェクト型学習)です。PBLは、主体的な行動力や積極性を身に付ける上で効果を有する。
    通常の教育手法との違いは、「課題の解決を目的とする(総合力志向)」、「チームの力によって課題を解決する」、「受講者の自主性・自律性を重んじる」です。
  3. (3)IT分野におけるPBL(プロジェクト型学習)の適用例
  • チームで一つの開発テーマに取り組み、目標とするシステムやソフトウェアを完成させるような教育形態。
  • AiBiC関西では、PBLを活用してチーム活動によるスーパーの商品自動発注システムを開発した。

4.AiBiC関西での実践教育
  1. (1)基礎知識学習(5月)
  • ファシリテーション(チーム作業の進め方を学ぶ)。
  • 講義(基礎的な知識についての座学・演習)
    クラウド(6月)、ビックデータ(7月)、AI(8月)
  • 企業セミナー(連携企業によるセミナー&ワークショップ開催)
    本プログラムでは、連携企業セミナーとして日本IBMがAI、NTTデータがクラウド、
    当社がPBL基礎を担当した。
  1. (2)夏季集中講義(9月)
  • チームでのPBL実施(プロジェクトを組み、スーパーの商品自動発注システム開発)
  1. (3)発展学習(9月、10月)
  • 合宿形式で、夏季集中で行った内容をさらに発展分散PBLを実施。
  1. (4)成果発表会
  • 各チームが開発したシステムのコンペを実施。
  1. (5)以下に、PBLの実施例(スーパーの商品自動発注システムの開発)を示す。
  1. A.4商品(チーズ、納豆、つみれ、食パン)の発注を行う。
  2. B.利用できる売上データは5年分あり、1から4年目の売上データを利用する。
  3. C.機械学習をして需要予測モデルを作成し、5年目を予測するシステムを開発する。
  4. D.シミュレーション結果から在庫-需要の一致度合、プレゼンテーション等で優秀チームを表彰。

PBLの実施例

 PBL活用による本システム開発は、実社会の課題である発注業務に利活用している点で、実践的なPBL課題と言えます。

5.企業の社会課題の解決アプローチ
 今、企業はSDGs(持続可能な開発目標)をやらないと生き残れない。企業を含む多様なステークホルダーが連携してSDGs実現すれば、日本の経験・ノウハウを世界にアピールできるのです。
 SDGsの達成は、社会課題の解決と企業の成長がセットであるべきである。このSDGs達成に、プログラム&プロジェクトマネジメントは欠かせない。PMプロフェッショナルは対応すべきです。

 ここでは、2つのSDGs実現アプローチ(例)を紹介します。
5.1 SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」実現のアプローチ(例)
  1. (1)予防接種(乳幼児ワクチン、新型コロナウイルスのワクチン)
    種類が多く、接種ミスが発生しやすい(接種間隔の誤りが最も多い)課題がある。
  • ITを活用した「予防接種実施判定システム」の導入(兵庫県)がある。
  • 健康相談などは、自治体で実施。
  1. (2)介護
    介護は、高齢者を介護・見守り、生きがいを感じることができる社会です。しかし、介護は人手不足が深刻です。厚生労働省は、ITを活用して現場負担を軽くする実証事業を2022年度内に始める方針を示した。これはロボットやセンサーを使い、少ない介護者でも質を維持しながらサービスを提供できる仕組みを、探るものです。
    しかし、現状はどうでしょう?在宅・介護施設でのデジタル化技術やロボット活用
    介護ロボットは、大手以外はほとんど進んでいない。また、ロボット単体での利用はまだ現実的ではないのです。なぜなら介護は「温かみ」を重視するためです。
    今は、支援タイプのロボット利用に留まっているのが現状です。
    また介護関係では、次の対応が見られます。
  • 在宅・介護施設での支援(「ケアカルテ」、「眠りスキャン」など)。
  • 見守り介護支援(入居者の異常・予兆をセンサーで検知し介護スタッフの生産性向上を支援)。
  • 介護ロボット(支援タイプ)。
  • 医療・介護現場向け「シフト管理システム」。

5.2 SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」実現のアプローチ(例)
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、4月に世界の平均気温の上昇を1.5度以内に抑える方策をまとめた。今、世界のエネルギー産業は岐路にたっているのです。
 一方、二酸化炭素削減はエンジニアリング会社や製造業の企業にはチャンスでもある。企業は、SDGs達成に貢献するためには、「カーボンニュートラル」や「再生可能エネルギー」の提供が必須となる。

 次に、IPCCの方策と実現アプローチ例を示します。
  1. (1)温暖化を1.5度に抑えるには、再生可能あるいは二酸化炭素回収・貯留付きの化石燃料などによる二酸化炭素削減が必要。
  • 産油国UAEが再生可能エネルギーの活用と水素製造に取り組む。
  • 日揮は、LNGプラント拡張工事を受注。
  1. (2)低排出電力を動力源とする電気自動車は、陸上輸送について最大の脱炭素ポテンシャルを提供しうる。
  • トヨタは、EV生産拡大に舵を切った(2030年までの電動化投資を発表)。
  • ENEOSがEV充電網の整備を進める。

 最後に、講演後のディスカッションでは、次のような活発な意見が出されたので、紹介します。
  1. (1)子供たち(中学・高校生)向けに「優しく面白く」PMを教えるには?
  • 企業の人が社会人の立場で、色々なことを教えている(福岡の例)。九州PM研究部会もエントリーしている。
  • 芝浦工大付属中学校では、3日間コースでPM講座をやっており、「紙飛行機制作のワークショップ」を盛り込んだ実践的演習が好評だ。
  • 子供たちにPBLを使って問題能力を身につけさせたい。この分野にPMAJは貢献できるのではないか。

  1. (2)PMAJは日本の「PMを育てる場」になるべきでは?
  • 日本の中にPMをしっかり教えるという大きな方針なり、体制が必要だ。
  • PMAJもPBLを取り込んで実践的なPMの啓蒙普及に繋げることが重要だ。

  1. (3)P2Mではビジネスアナリシスの部分が弱く「プログラムデザイン」からスタートする。これがプログラム以前の「ビジネスとの関係」の意識が弱い原因ではないか?
  • P2Mガイドブックでは、経営戦略に基づきプログラムをデザインし、現場のプロジェクトに展開すると明記しているが、具体的事例が不足して十分伝えられていない。
  • 日本が発展していくには、単なる問題解決のためではなく、全体のビジネスを創り出すためにPMを活かすことを訴求すべきであり、P2Mプロモーションにも工夫が必要だ。
以上

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