PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(169)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●歌手や楽器演奏家が負う「集客責任」
 前号の最後で「説明したい」としながら説明しなかった事がある。申し分けない。謝罪する。本号で詳しく説明する。また「筆者の原稿枚数が毎月多い。読者は気楽に、簡単に読めなくなるだろう」と予想し、「今後は減らす」と書いた。今月号から「3~4枚」程度にするので読み続けて欲しい。

 さて本稿の読者はジャズ歌手や筆者の様なジャズ演奏家の勤務状況などに興味はないだろう。しかし今暫く我慢して読んで欲しい。読者は友人や家族などとレストランで食事する際にジャズの歌や楽器演奏を聞くだろう。彼らは美しい、楽しい音楽を提供するが、その陰で厳しい、辛い仕事を低収入で頑張っている。此の事を思い出し、もしも可能なら彼らを励まして上げて欲しい。

 標題の「集客責任」は、米国、欧州、そして中国では店側に在る。他の国も同じ様だ。しかし出演する歌手や楽器演奏者に「客集めの責任」を負わせる国は日本だけである。

出典:集客
出典:集客
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 筆者が何故、中国の出演事情を知っているのか? 実は筆者が中国の某大学(北京)の客座教授(客員教授)をしている関係から知ったためである。筆者は同大学で「夢工学」などを教える。講義後の夕方、北京市内の中国の伝統芸能を聞かせる飲食店に夕食を兼ねて飲みに行く。同大学には胡弓や中国琴などを演奏する「中国伝統芸能学生クラブ」がある。プロ並みの技量を持つクラブの学生達は、北京市内のアチコチの飲食店でアルバイト出演している。「川勝先生、出演していますので是非遊びに来て欲しい」と彼らから頼まれる。遊びに行った先の店の経営者や専業プロ出演者などから中国での演奏家の実情を自然に聞く事になる。米国とほぼ同じであった。

 余談であるが、筆者は同大学から「夢工学」の講義の要請を今も受ける。しかし忙しくて、北京に行くのが面倒。「日本に来て欲しい。川勝が教えるので学んで帰り、学生達に教えて欲しい」と「ズルイ対応」をする。これが同大学の教授や準教授にとって「嬉しい対応」に変質する。

 彼らは日本に出張が可能となり、見聞を広げられる。筆者は教授達に夢工学などを教えねばならないが、彼らが来日する前に「教えるべき内容」の資料を全て彼らに送る。来日した彼らに教える事は、①彼らの質問に答える事、②彼らの意見に対応する事だけになる。彼らの出張目的は早期に達成され、筆者の責任も果たされる。かくして随分と余った時間を彼らは自由に使い、買い物や東京見物、京都見物などを満喫できる。その結果、彼らは「川勝先生、川勝先生」と筆者に尊敬と感謝と友情の念を示し、筆者を今も同大学の客座教授にしている。

●歌手や楽器演奏家への店側の「違法行為」
 日本のジャズ・ライブハウスに限らず、ロック・ライブハウスなどでも、歌手や演奏者は、集客責任を負わされている。おまけに店側は出演者が客から稼いだ「ミュージック・チャージ」の一定率を控除し、残りを彼らに支払う。まさに「チップ」の上前をかすめ取るのである(30%ぐらい)。

 もし出演者がこの事を不満として店側に要求しても、「出演条件は予め開示した」と云う事でどうにもならない。しかしこの不満を提示した日を境に、その人物は嫌われ、その店で二度と出演できなくなる。そもそも「兼業プロ出演者」は生活に困らないので此の様な不満を言わない。しかし「専業プロ出演者」は一瞬にして減収となり、生活に困る。

 立場が弱い被雇用者が働いた対価の一部を雇用者がかすめ取ると、幾ら契約をしていても、民法上の権利侵害の違法行為となる。また労働基準法の違反行為となる。日本の多くの都市にある「労働監督基準署」は、大手や中堅の企業の違法行為に目を光らせている。しかし中小企業より更に小さな個人会社の「ジャズライブハウス」には関心すら持たない。一方ジャズ歌手やジャズ楽器演奏者は、労働監督基準署の意義も、存在も知らないのである。

出典:労働監督基準署
出典:労働監督基準署
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 筆者は、コロナ危機が過ぎれば、ジャズ・トリオと歌手の編成でピアノを弾き、出演を再開する予定である。筆者のバンドメンバーはたまたま「兼業プロ出演者」で構成されている。筆者の本業は経営コンサルタント、他のメンバーの本業は会社経営者、歯医者、システム開発者などである。仕事柄、多くの人と接する。その中にジャズ好きな人物が数多くいる。彼らに我々のバンドの出演予定を知らせ、日程さえ合えば、彼らは店に来てくれる。かくして集客の苦労はない。

 歌う事や演奏する事が「本業」の「専業プロ出演者」は大変である。夜遅くまで出演しても稼ぎが低い。それを補うため昼間、建設現場での危険な肉体労働や生産工場での単純な作業労働をして、昼も、夜も働く。彼らは新しい客を集める事など不可能である。いつも同じ客しか集客できない。店側は「専業プロ出演者」が如何に「優れた歌唱力」や「凄い演奏力」を持っていても、彼らへの関心は薄い。歌唱力や演奏力が「専業プロ出演者」よりやや劣っていても、店側は多くの客を確実に集めてくれる「兼業プロ出演者」を最も高く評価し、大事に扱う。

●TVキャスターとTV出演者への「番組シナリオ」の強制
 筆者は、今まで多くのTV番組で、半分は音楽関係、半分は非音楽関係で出演してきた。その度に、気付いた事がある。それは「番組シナリオ」に依る番組制作 & 番組放映のやり方である。

 音楽関係では筆者と筆者のバンドメンバーや合唱メンバーは楽しく出演するだけで問題になる様な事はなかった。しかし非音楽関係では、政治、経済、社会など分野での深刻な問題がテーマになる。そのためTV局、TVキャスター(番組司会者)、TV番組出演者の3者の関係をコントロールする「番組シナリオ」が重要になる。

出典 TV出演
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 NHKを除く民間のTV局はスポンサー企業からのTV広告料などを得てTV事業を維持し、番組制作 & 放映をしている。従ってTV局はスポンサー企業のイメージダウンに繋がる様なTV番組の制作や放映は絶対にしない。更にTV視聴者からのTV局への苦情、TVキャスター(番組司会者)への反応には極度に神経を使う。「視聴者の皆様のご意見に従って良い番組を作ります」というTV局の宣伝文句は「ウソ八百」である。TV局は問題が起こらない様に事前に「番組シナリオ」を作成し、その内容に従って番組を制作し、放映する制御方式を最優先としている。

 「番組シナリオ」に忠実なTVキャスター(番組司会者)や番組出演者は、TV局が一番好む人物である。彼らを最優先出演者として選択する。その結果、TVに出演する人物はいつも同じ顔ぶれになる。迫力もなく、当たり前の発言や解説しかしない。平凡で詰まらない番組に劣化する。

 また余談である。筆者は新入社員の頃から「心臓が歩いている」と陰口を叩かれたが、若造と舐められた事は一切なかった。課長や部長の頃は、それがエスカレートして「川勝だけは絶対に敵にするな。味方にしろ!」と陰でも、表でも言われる様になった。その結果、筆者は、いつも考えた様に、思った様に仕事を進められた。しかし思い返すと、社内外の上下左右の多くの人達に随分と迷惑を掛けた「クソ野郎」であった様だ。

 此の様なクソ野郎の筆者がTV局又はその関係者から頼まれ、断れず、TV出演するのである。TV局が用意した「番組シナリオ」に従う義理も、理由もなかった。まして視聴者からの反感や反論など屁とも思わなかった。自分が信じた通りに発言し、出演した。

 しかし官僚時代は、県庁三役の立場にあったので発言に注意した。けれども県民の不利益になる酷い無責任な共演者のクソ学者に発言には内心激怒し、断行反論し、相手を叩きのめした。筆者の激しい発言に有名キャスターや人気者の司会者が極度に緊張し、顔をひきつる場面を何度も見た。彼らは堪り兼ねて筆者の発言を遮る場面もあった。

 筆者の言いたい事をズケズケと云う発言に、視聴者から激しい反発や反論が殺到するといつも覚悟していた。しかしいつも「逆」であった。筆者の発言を遮ったり、筆者を攻撃する者への反発と反論が殺到した様だ。この事を番組終了後によく聞かされた。

出典 TV関係者
出典 TV関係者
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 TV局のディレクター、番組シナリオ・ライター、TVキャスター達は、何を言い出すか予想も付かない筆者に「恐怖心」をいつも抱く様だ。その結果、筆者へのTV出演の要請が減って来る。そもそも筆者からTV局にTV出演を求めた事はかつて一度もない。クソ面倒なTV出演の要請が減って「幸い」と思っている。しかしそれでも懲りずに、何故か? TV出演の依頼が今もある。

 この他にも「裏」がある(説明割愛)。こんな日本のTV界の番組に何度も何度も登場する学者や評論の連中は、TV局、司会者、視聴者に気を使い、忖度し、神経を摺り減らす。そうでもしないと「生きていけない情けない連中」にはなりたくないものだ。

 以上で筆者が説明すると約束した箇所の説明を全て書き終えたと思う? 次号から「100年時代」の生き方に関する説明し残した部分を説明し、脱線から本線に戻し、エンタテイメント論の「本質」のテーマに復帰する。
つづく

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