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「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (27)
―日本人がソユーズ宇宙船に乗って大丈夫か?―

宇宙航空研究開発機構客員/PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :2月号

○ 日本人宇宙飛行士をソユーズに搭乗させて大丈夫か?
図1 ソユーズ宇宙船の地球帰還経路  2008年4月、ソユーズ宇宙船が地球帰還した際、弾道飛行モードになって着陸地点から西へ400㎞も離れて着陸しました。アメリカとロシアの宇宙飛行士は無事で問題ないようでしたが、韓国人宇宙飛行士は腰をいためたようで入院しました。図1のようにソユーズ宇宙船は、ISSから分離後、3つのモジュールを切り離し、大気圏に突入、帰還船だけ高度10kmくらいからパラシュートを開いて地上に着陸することになっています。
図2 再突入の大きな重力を体験できるロシアの遠心加速器(下)とその搭乗カプセルソユーズ宇宙船は、大気圏突入での肉体への負担はスペースシャトルより大きく、宇宙船の姿勢を制御することによって4-5Gの重力ですむようにしています。しかし、弾道降下の場合は、姿勢制御ができないので8G以上かかることになります。このため、図2のように弾道降下を想定して、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターでは、18メートルのアームの先端にカプセルを装着した遠心加速器に宇宙飛行士が搭乗して、一分間約40回転して8Gのテストをしています。人間は胸から背中の方向には比較的大きな重力加速度にも耐えられるのですが、頭から足への方向にかかる重力はきついものがあります。ソユーズ宇宙船は長い間高い安全性を維持していましたが、2007年10月の帰還時に弾道飛行モードになって目標地点から340㎞北西にずれて着陸しました。その後上記の2008年にも起きまししたので2回続けて起きたことになります。
 この頃、若田宇宙飛行士のISS長期滞在が決まっており地球との往復はスペースシャトルで行うことになっていましたが、ISSで異常事態が起きた場合には、ソユーズに搭乗することになっていました。さらに、その次の長期滞在の野口宇宙飛行士は、ソユーズに搭乗して地球を往復することになっており、JAXAでは、「ソユーズ宇宙船で安全に地球帰還できるか?」を技術的に明確にする必要がでてきました。社内に調査検討チームが設置され、私もそのチーム員の一員に任命されました。

○ ロシアのカーテンは厚い
 ISSの国際協定上、ISS宇宙飛行士の地球との往復は、スペースシャトルで行うことになっていましたが、想定外の「コロンビア号」事故の影響で、米国政府がシャトルを2010年で退役させると決定したため、ISSとの往復手段はロシアのソユーズ宇宙船になりました。
 検討チームは、安全信頼性管理部を中心に外部の有識者の方々も参加して検討を開始しました。ロシアからの詳細情報が十分提示されないので、NASAに頼んで開示できる情報を集めたのですが、アメリカとロシアの間には、第3者には、開示しない条件の二国間の協定が結ばれており、必要とする情報がなかなか入手できない状況がしばらく続きました。文献や刊行書も収集しましたが、鉄のカーテンを通して見えるものは不明瞭でぼんやりしていました。突破口は、外部委員が見つけてくれたロシアのサイトでした。ソ連が崩壊する直前に結構宇宙関連の情報が西側に流れていたものでしたが、ロケットや宇宙船の製造中や組み立て中の写真や説明文がなぜか沢山でていました。どれも断片情報ではありましたが貴重な材料を提供してくれました。当然、全てロシア語でしたが、辞書を片手に調べみんなで知恵を出し合ってそれまでの調査成果を洗いざらい再検討しました。すでに入手していたアメリカからの情報と、断片情報の回路図や配線計画図、構造図など図面に書かれた形をじっと見つめ、そこから本当の姿を立体的に理解していくようにしました。写真のような模型も作り全体としての形や機能を徐々に討論しながら理解していきました。やがて暗号を解くように徐々に、我々が知りたい技術情報は具体的に何か、調べる情報の的が絞られていきました。すると、調査チームの若い方々が、インタネットでどこかにないか調べてくれて、ロシアのサイトで探りあててくれたのです。まるで、ジグソーパズルを埋めるように一つ一つのピースをどうつなげるのか、そんな検討作業でした。

○ 弾道飛行は安全なのか?
弾道飛行は安全なのか?  上記の調査から、大気圏突入では、耐熱シールドが厚くカバーされている底面が自動的に進行方向に向いて降下するように帰還モジュール形状がうまく設計されており、さらに制御システムの不具合発生要因は少ないので安全性が高いことが分かってきました。大気圏突入では、高さ10㎞でドローグシュートを展開し、これで主パラシュートを引き出して減速させます。もしこれが展開しなかった場合に備えて、主パラシュートを投棄してバックアップパラシュートを展開します。この方法は、ソユーズ1号事故の反映で、現在まで同様の事故は発生してないほど、信頼性が高いことが分かってきました。検討チームの調査結果が、どこまで合っているのかロシアに打ち合わせをしてくれるように要請しました。幸い、ISSの別の課題での会合が予定されているので、その会合に合わせて今回の調査結果打ち合わせの機会を持つことができました。この案件は小さな部屋で、1件1件、図を用いて確認しました。相手は、口頭だけで資料はなにもありません。こちらが準備した資料を基に説明すると、ソユーズ分離の仕組みをこちらが的確に把握していることを認識したようで、配線のルートが一部違っていたところで、彼らは「そこは違う。こっちだ」と指で示したので、すかさず線をいれて、「これで、正しい?」、「そのとうり」のようなやりとりで内容の確認をしていきました。さらに、調査検討作業の途中で、今回起きた弾道飛行モードの発生をさけるため、ソユーズの姿勢を若干変更してより安定化させるようなプログラムを追加するとのロシアからのdcc情報を入手しました。異常の調査の結果、backupシステムも2重以上になっており、万が一不具合が起きた時に対応する弾道飛行モードのような回避手段もあり、実際起きた不具合を改善させて飛行させ実績を積んだ安全によく配慮された頑健なシステムになっていることが分かりました。ソユーズ搭乗に特に問題はありませんでした。実運用で問題がでれば見直し改良していき、これを何回も繰り返せば安全性は増大していく。基本線は変わらず改良をしていくのがロシア方式であることを具体的に実感した調査でした。

<参考文献>
(1) 武内信夫、「ソユーズ搭乗員安全確認」、「きぼう」日本実験棟組み立て完了記念文集より、2010年、JAXA社内資料

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