関西例会部会
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第138回 関西例会レポート (講演3)

PMAJ関西 KP 喜野 聖 : 1月号

開催日時: 2017年11月18日(土) 15:45~17:00
開催場所: マイドームおおさか 第3会議室
テーマ: 「14 歳でホームレス問題に出会って、19 歳で起業して」
 ~誰もが何度でもやり直せる社会を目指して~
講師: 川口 加奈 氏 認定NPO法人Homedoor 理事長
参加者数: 32名

講演概要:

 認定NPO法人Homedoorは、誰もが何度でもやり直せる社会を目指し、2010年に活動を開始された。自己責任論が根強い日本では、一度、ホームレス状態に陥ると、路上から脱出できる手段は限られおりホームレスのまま生涯を終える人も後を絶たない。そんなホームレス問題に立ち向かわれて、ますます進化している活動を中心に講演いただいた。

講演内容:

1.ホームレス問題に目覚めてから起業まで
 14歳、中学2年生の頃、通学経路で乗り換えをしている大阪)新今宮駅付近の釜ヶ崎地区のことを知った。両親友達から行くなと言われる地域だった。どうして行くなと言われたのか興味がありインターネットで調べだした。ホームレスの人が多く、日雇い労働者の街、結核の罹患率が高い街と記載されていた。マザーテレサが来た街と国際的に有名な地域だったんだとびっくりした。そこでは、毎日炊出しが行われ、ボランティアの募集があることが分かった。
 親に内緒で炊出しに参加した。炊出しではおにぎりを作り、提供するおにぎりより多い人数のおっちゃんが並んでいる。全員に渡るはずもない状況で、3時間並んでおにぎり1個もらえるかどうかである。「孫みたいな年齢のあなたから、ホームレスの人の命の綱であるおにぎりを貰うおっちゃん達が受け取る気持ちを考えて渡してね」と言われた。どんな気持ちで渡したら良いの? おっちゃんに聞いてみた「もっと勉強してたらこんなんにならんかったんちがうん?」、すると「バカいえ、家に勉強机なんかなかった」「勉強なんかさせてもらえへんかった」と怒られた。びっくりした。
 勉強出来る環境になかった人たち、貧困家庭で育った人に貧困の連鎖がある。家族からの虐待で相談に来る人も多い、大学を出ても病気や介護離職でホームレス状態になる可能性があると知った。
 炊出しに参加するまで勝手にホームレスについてイメージして決めつけていた。自業自得で本人の努力が足りないと勝手に思っていた。何が出来るだろうと考えていた時、路上で寝ているホームレスの人に対して残虐な事件が複数発生していることを知った。事件を起こした少年と自分は何が違うのかを考えた。ホームレスの正しい情報を知っているか・知らないかの違いがあると気付いた。
 日に日にホームレスの人の事が気にかかるようになった。自分が何もしなかったらどうなるかを考え、自分が動いてみることにした。校内で発表したり、新聞を配ったり、自分が出来る範囲で啓蒙活動をしつつ、友達に同体験をしてもらい活動の輪を広げていった。
 そのような活動中、高校2年でボランティアの親善大使になり世界大会に参加した。海外ボランティアのスケールの大きな活動に驚き、また、「あなたは社会に良さそうな事をしたいだけではないの?社会を変えたいの?」と聞かれ考えさせられた。
 夜回り活動(夜に動けないおっちゃんにお弁当を配る活動)で、ある事件があった。
 「路上脱出したい」と相談してくれたおっちゃんに安請け合いして仕事を探すと約束したが、その次に会うことが出来ず自殺したことを知った。もう一度やり直したいと思っていたのに、やり直せなかったおっちゃんが居たことが心に残った。おっちゃんがあすこに行けば何とかなる場所を作りたい、大学2年の時にHomedoorを立ち上げた。

2.Homedoorの活動
 Homedoor設立に当たり、「ニーズの代弁者たれ」と言われた。
 ホームレスから抜け出すための①路上からの出口作り、ホームレスにならない②路上への入口封じ、そして③啓発活動を行っている。

2.1 路上からの出口作り
 日本ではホームレスになると抜け出せなくなる。家があればホームレスではないが、3万円の家を借りるためには12万円のお金が必要である。家が無いとお金が必要で、基本外食で、仕事のために家財道具をロッカーに預ける必要がありお金がかかる。身なりを整えるために洗濯が必要でお金が貯まらない。仕事につくには仕事に通う交通費や、給料をもらえるまでの生活費が必要で、お金が必要になる。賃貸を借りるためには、連絡手段がありかつ住民票が必要でその手続きのため住所が必要となる。このような負のスパイラルから脱出する仕組みが必要である。
 Homedoorではおっちゃん達が今までの路上暮らしで身に付けた缶集め等で活用している自転車を自ら修理する技術を活用した仕事を考えた。自転車シェアHUBchariを立ち上げた。HUBchariは大阪での自転車問題を解決する施策であり、おっちゃん達が支援される立場から支援する立場になれる仕組みである。複数個所にHUBchariの自転車を置き、使いたい人が拠点間をつかえる仕組みである。しかし、この立上げも最初は上手くいかず、行政に相談してもたらい回しに、企業の軒先をお願いしに300社程度に飛び込み営業するも支援されず、最後に1週間だけの期間限定でお願いして試行を実施した。幸いにもこの試行が好評でマスコミ(ワ-ルドビジネスサテライト、朝日新聞等)で広報され本格活動が実現した。水色のエプロン・帽子でおっちゃん4人が働き始めた。
 出だしはお客が無く、おっちゃんに心配されるほどだったが、ある日おっちゃんが廃材で看板を作ってくれた。そのやる気に後押しされ赤字覚悟で拠点作りを推進し、拠点毎に手作り看板が増えていった。もう一度やり直そうという気持ちのおっちゃんが多く、ポテンシャルも高く、大阪市内に数十か所拠点が出来てきている。
 HUBchariだけでなく、現在は清掃や駐輪管理などの仕事で月30名の雇用が出来るようになった。今までで180名がお金をためて部屋を持って路上脱出に成功している。
 また、日常を過ごす場所を解放し、自炊が出来る生活支援の場所「ほっと&ハウス」を開設した。ここでは就業支援の活動をしており、人前で話す体験や調理実習などの活動も開始している。家を借りるときの生活物資の支援や、医療とつなげる訪問診療、身だしなみのため美容学校と協力したカットモデルなど、色々な取り組みをしている。
 2016年から「ホムハウス」と名付けた3部屋の住所提供を始めている。もっと増やして20部屋にしていきたいと思う。
 また、ホームレスの方に夜回り活動の中でお弁当とHomedoorのチラシを配り路上脱出希望をつのっている。

2.2 路上への入口封じ
 日本ではお金が無くなったらネットカフェに行き、ご飯は食べなくても仮眠をとって身なりを整える人が多い。路上生活になる入口封じの活動では、ネットカフェでのチラシの配布・インターネット検索でキーワードを入れるとすぐにHomedoorと表示できるような活動を行い、まず相談に来てもらえるように、知ってもらえるように努力をしている。そしてボランティア相談員が対応しながら、路上生活にならないような支援を続けている。

2.3 啓蒙活動
 講演などを積極的に実施し、ホームレスの現状やHomedoorの活動を紹介している。この活動で少しでもサポータを増やしていきたいと考えている。

3.これからの活動
 12年間活動を続けているモチベーションは「知ったからには知ったなりの責任がある」何が出来るのかを続けてきただけである。14歳で知ったホームレス問題に取り組み、誰もが何度でもやり直せる社会を目指してこれからも活動していきたいと思っている。日本は敗者に厳しい国であるが、失敗しても、どんなことがあっても、立ち直り挑戦できる社会作りをしていきたい。

4.Homedoorからのお願い
 Homedoorではサポータを募集している。
 ①講演会を開催してください。もっともっと知ってほしいので講演をさせてください。 ②寄付をお願いします。Homedoorは認定NPO法人に認定されたため、寄付者へ40%の税制優遇を受けていただけます。20部屋の住居提供には1000人のサポータが必要で少しでも継続的な寄付をお願いします。

5.最後に
 聞く人の心をひきつける説明で自らの体験や今の活動を伝えていただきました。講演者は自己プロデュース力もあり、素晴らしいと感じました。ホームレス問題への取り組みでしたが、誰もがやり直せる社会を作りたいという言葉が心に響きました。ふとしたきっかけで誰でもがホームレス状態になる可能性があると、自分の生活ではどうだろうと考えてみるきっかけになりました。知ったからには何かサポートが出来ないか、私も考えていきたいと思います。
 アンケートでも多くの良いメッセージを頂き、参加者全員から「大変満足」「満足」との回答をいただくなど、充実した内容の講演でした。

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