東京P2M研究部会
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契約管理
- Fairness -

イーストタスク株式会社 渡部 寿春 [プロフィール] :6月号

 今回は、プロジェクト活動の中で度々問題になる請負と派遣の業務適正化について考えます。P2Mガイドブックでは、第3部プロジェクトマネジメント第10章調達マネジメントで契約形態を次のように記述しています。

「契約形態は個々の機材や役務に応じて異なることがあるので、それぞれの利点・欠点を考慮して最適の契約形態を採用する必要がある。」

契約管理
 調達における契約管理とは、納入者が契約に基づいて業務を遂行していることを監視し、その成果物が契約上の要求事項を満たすよう管理し成果に対し適正な対価を支払うこと。契約管理には、法的な側面や経理的な側面が伴うため、必要に応じて機能組織としての法務部門や経理部門の協力が不可欠である。契約管理は契約に至る前のプロセス、即ち、入札書類の作成段階から始まり、成果物の引渡し後もその保証期間が満了するまで継続する。また、ソフトウェアの場合は契約上の権利関係により著作権の帰属先が決まる。

 契約後における契約条件の変更・材料の仕様変更や役務内容の変更は、契約上それらがプロジェクトのスケジュール、契約金額、品質にどのような影響を与えるのかを常に管理しておく必要がある。広義では、品質管理、納期管理、予算管理を含む。

 IT分野のプロジェクトでは、発注企業内での常駐作業と言われる業務が多く行われています。これらは、システム開発や業務調査・検討、プロジェクトなどを支援する役務サービスです。この業務を行う上で昨今、強く意識されているのが委託契約(請負)と派遣契約の違いです。

「労働者派遣」と「請負」の違い
労働者派遣
労働者派遣

請負
請負

 派遣契約は、派遣元企業が社員を雇用し派遣先の指揮命令に応じて作業を行う契約形態です。委託契約(請負)は委託先会社と発注会社が契約を行い、発注会社の担当者は委託先の責任者に対してのみ依頼が可能です。その配下で働く社員や再委託先に対する依頼、指揮・命令は偽装請負となり違法行為です。偽装請負などの労働者供給事業は、人身売買や強制労働、中間搾取などの弊害があるとして禁じられています。労働局への告発により職安法44条違反(労働者供給事業の禁止)の適用で委託先と発注会社に対し是正指導が行われることもあります。

 しかし、同室内で発注企業、請負企業、再委託企業が共に作業を行い、各担当者が役割を分担しているため、発注企業の担当者は委託先の責任者を通さず直接配下の担当者と話した方が早いために、話しかけてしまいます。この話が、業務と全く無関係な世間話であれば法的には問題ありませんが、業務に関する話の場合は依頼に当たるため違法となります。又、発注企業の担当者は、委託先に対する教育、能力評価は出来ません。要員の選定に干渉することも出来ません。役務サービスの契約事項に対する評価以外は違法となります。当然のことなのですが、日本には適正化が十分でないところも多くあります。

 日本の商慣行では発注者上位の考え方が根強く残っていて、企業系列の縛りもあります。本来であれば、発注企業が個人を含め、直接小規模事業者と委託契約を行い、自社の責任でプロジェクト管理を行えば、偽装請負の問題は起こりません。元請け企業にお任せで人材を集め、管理責任を負わせるために仕事がやり難くなります。

 グローバル化が進み、米国や欧州のスタッフと直接コミュニケーションを図り作業を行う場面が増えました。海外でも同様の問題があるかと言えば否です。米国や欧州のスタッフに請負と派遣の法的な留意事項を説明しても理解してもらえません。日本だけの問題なのです。欧米でも常駐型の役務サービスはあります。しかし、日本とは違い、一般的な契約形態はタイム & マテリアル方式(T&M)です。

 米国や欧州では、フリーランスを含め小規模事業者と直接契約を行う部署を設けて、作業時間と要した資材や経費を実績ベースで支払います。バリエーションはありますが、委託する仕事の範囲やスケジュール、そして人件費単価などを契約で定めた上で、請ける側は概算見積を提出します。作業に着手したら契約で定めた期間毎に請求を行います。日本のように請負や派遣などの契約形態で指揮命令権が決まることはありません。自社の社員、契約社員、ベンダーの社員、フリーランスたちの専門性に応じた最適なプロジェクト体制が組まれて、自然と指揮命令関係が決まります。最初の1ヶ月は要員の適正を見てどんどん入替えを行いベストに近づいたところでキックオフとなります。

 T&Mの契約はフレキシブルです。プロジェクトの遂行責任は発注側です。日本のIT業界には、人月単価を積み上げ作業工数を掛け合わせて契約価格を決める慣行があります。これだと時間のかかる仕事の遅い人の方が高い金額を得ることになります。T&Mでは、個々人の契約単価に差が生まれます。それが報酬に直結するので、市場価値を高めるために研修や資格取得に励むようになります。経験の幅を広げるために低い報酬で新しい仕事に挑戦することも出来ます。独立する人も増えるため、会社は社員を留めるために優遇処置を講ずるようになります。グローバル化のためには、「Fairnessに基づく商慣行の変革が必要」と感じる今日、この頃です。
                           
以上

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