東京P2M研究部会
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歴史を変えたラグビー日本代表のこと
~空前のラグビーブームに思うこと~

水ing株式会社 内田 淳二 [プロフィール] :4月号

 筆者は、高校時代にラグビーを始めて以来、ラグビーというスポーツの魅力に取りつかれた者として現下の空前のラグビーブームを本当にうれしく思うものですが、これをブームで終わらせることなく、しっかりと根付かせ2019年のラグビーワールドカップ(以降WCP)日本開催につなげて行く気運を盛り上げて行きたいと念じています。今回は、昨年ロンドンで行われたWCP第8回大会で歴史を変えたラグビー日本代表(以降ジャパン)のことをP2M的に振り返らせていただきます。

【はじめに】
 2015.9.19は、ジャパンが世界のラグビー史上で長く語り伝えられるであろう快挙を成し遂げた日と言われています。これは、WCPに過去7回連続して出場し、1勝(24戦1勝2分21敗: 表1 参照)しか出来ていなかったジャパンが、ロンドンで行われたWCP第8回大会で世界屈指の強豪国・南アフリカ代表を相手に驚愕の大逆転劇を演じて見せたことを世界中が称賛してくれていることによるものです。
 試合終了間際29-32と追い込まれていたジャパンが、ノッコンやオフサイドといった反則を犯せば即、試合終了の笛が鳴るところ、攻撃に次ぐ攻撃を重ね、遂には相手の反則を誘いペナルテイキックを得ました。ショット(ゴールキック)で同点が確実に狙えるところを敢えてスクラムを選択し、再び反則を犯すことなく連続攻撃を仕掛け見事に敵陣ゴール左隅にトライし、34-32で勝利した瞬間は、“神実況”と呼ばれる動画サイトで100万回に迫る視聴が記録されているのをご覧になった方も多いことと思います。
 本稿では、ジャパンの偉業を振り返り2019、2020、そして2020以降の日本は、ラグビーを国の文化として育んで行ける国になって欲しいという思いを綴りました。

【ありのままの姿】
 ラグビー日本代表をジャパンと呼ぶようになったのは、1968年にニュージーランドに遠征しオールブラックスジュニアを破る大金星を挙げたチームを率いた早稲田OBの大西鐡之佑氏の次の言葉から来ていると言われています。
  「いいか、君らは日本を代表して戦うんだ!
   よって親しみを込めてこれから『ジャパン』と呼ぶことにする。」
 全日本とか日本代表という寄せ集めチームのイメージでは、真にチームとしての力を発揮できず各国代表に太刀打ち出来ないことを察した大西氏の慧眼は流石でした。チームの意味を真に理解した選手達による快挙は、その後1971年のイングランド代表を日本に迎えての名勝負 注1 につながるものでした。当時高校に入学して初めて楕円球に触れた私自身も、ラグビー日本代表を身近に感じることの出来る呼称として愛着を感じていたことを思い出します。大西ジャパンが掲げた有名な「接近・展開・連続」戦法は、WCP2015でのエデイ-ジャパンの「ジャパンウェイ」と呼ばれる攻撃重視の戦法に受け継がれており大西マジックと呼ばれていました。
 この後もジャパンの快進撃が続くと思われましたが、国内では早稲田と明治を中心とする学生ラグビーが全盛を迎え、社会人も新日鉄釜石の7連覇(1978~84)、神戸製鋼の7連覇(1988~94)などで国内ラグビーが盛り上がり、世界を相手に戦う土壌に上がることを考えなくても良い時代が長く続いた為、世界ラグビーが1995を境にどんどんプロ化して行くのを他所眼にジャパンのチーム力は低迷を余儀なくされて来ました。
 表1にジャパンのWCPでの戦績を上げておきましたが、ジャパンは第1回大会から連続8回、アジア代表枠の予選を勝ち抜いて出場を果たしていますが、残念ながら前回大会までの勝利は、早稲田OBで伝説の名選手宿沢広朗氏が監督であった1991大会でアフリカ代表のジンバブエから上げた一勝のみでした。世界がプロ化した1995に行われた南アフリカ大会でのニュージーランド・オールブラックスに145点を献上して敗れた試合は、「ブルームフォンテーンの悪夢」としてラグビー関係者の間で語り継がれ、世界との差を如実に物語るものだったと受け止められています。
 注1:1971年ラグビー母国イングランド代表が初来日し、大阪花園、東京秩父宮でジャパンと対戦し17-29、3-6のスコアで闘い世界中で高い評価を受けた日本ラグビー史に残る名勝負。

【あるべき姿】
 世界のプロ化に対処するべく2002年にトップリーグが発足し、2019年には前述したWCP第9回大会を日本で行うことが決まりました。世界レベルのラグビーを目指す試みが、ラグビー界総出で様々なフィールドで進行中です。
 ジャパンのメンバーには、日本でプレーすることを選んだ多くの外国人が選出されていることに賛否両論あるようですが、世界ルールでの国代表の資格を日本代表に当てはめれば、
  1、日本で生まれること
  2、父、母、祖父母の一人が日本人であること
  3、日本に3年以上住んでいること
  4、他の国の代表経験がないこと
 どれか一つでも満たすことで日本代表すなわちジャパンのメンバーとなれるので、世界中のトップ選手を集めてチームを作ることが出来るようになっています。筆者は、この制度はプロ化がもたらした必然の流れと受け止めています。これを拒み国籍主義に固執するならば、世界レベルで試合をする機会を逃してしまい「弱いジャパン」に逆戻りし、強豪国に伍して行くだけの力を蓄えて行くことが出来ないと思うからです。
 コアなファンに支えられてジャパンは成長して来ましたが、歴史を変えた2015.9.19を境に多くの日本人がラグビーの面白さを知ることになり、多くのメデイアがラグビーを取り上げてくれるようになりました。2019WCP日本開催の成功の鍵として、JRFU:日本ラグビーフットボール協会は4つの柱を掲げています。
 以下、ラグビーワールドカップ2019大会ビジョン-成功に導くための4つの柱-より引用
  1.「強い日本」で世界の人々をオモテナシしよう
  2.すべての人が楽しめる大会にしよう
  3.ラグビーの精神を伝えよう
  4.アジアにおけるグロ-バルスポーツにしよう

  ラグビー精神とは、
  1.本気でぶつかる
  2.恐れず前へ
  3.闘う相手へのレスペクト

  の3つでラグビー選手にとっての不文律です。
 これからの発展が期待されている東南アジアにおいてもラグビーを広めようという機運が盛りあがっていますので、アジア初のWCP開催の意義は、これまでになく大きなものとなっています。

【最後に】
 今年はブラジルのリオでオリンピックがあります。7人制ラグビーがオリンピック種目に加わり世界を相手にメダル獲得を目指す日本チームは男女それぞれ厳しい予選を勝ち抜いてアジアの代表の座を得て出場することが決まっています。オリンピックは、国籍主義を取っていますので選手は全員、日本人ですが、男子15人制が成し遂げたような快挙が期待されています。このために賭ける選手達の努力や意気込みは、おそらく想像を絶するものだと思います。
 また15人制ラグビーでは、世界最高峰リーグであるスーパーラグビーにも日本からサンウルブズという素敵なネーミングを持つチームが参戦し、日本、シンガポール、南アフリカを転戦するチャレンジを開始しました。
 空前のブームをブームで終わらせることなくアジアで初めてのラグビーWCPの成功につなげて行くため、ありのままの姿とあるべき姿のギャップを埋めるために成すべきことは、協会が掲げた4つの柱を日本中で共有しラグビー精神を活かして事に当たることでしょう。
 2019ラグビーWCPを成功させ、自信を持って2020年の東京オリンピックを迎えられる日本でありたいという思いを皆様と共有できれば幸甚です。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

以上

【参考資料】
[1] エデイ-・ジョーンズとの対話
 ~コーチングとは「信じること」~
生島 淳 著2015.8.30
[2] 「変えることが難しいことを変える」 岩淵健輔 著2015.9.20
[3] 「なんのために勝つのか」 広瀬俊朗 著2015.12.24
[4] 「五郎丸日記」 小松成美 著2016.1.1
[5] 新・スクラム
 ~進化する「1cm」をめぐる攻防~
松瀬 学 著2016.1.4
[6] ラグビーを最高に面白く見る方法 博学こだわりクラブ 編2016.1.5

1:ワールドカップでの戦績(ウィキペデイア:ラグビー日本代表より転載)
大会 開催年 開催国 戦績 対戦記録 監督・ヘッド
コーチ
第1回 1987年 ニュージーランド・オーストラリア  3戦3敗
18-21 アメリカ
7-60 イングランド
23-42 オーストラリア
 宮地克美
第2回 1991年  イングランド  3戦1勝2敗
9-47 スコットランド
16-32 アイルランド
52-8 ジンバブエ
 宿沢弘朗
第3回 1995年  南アフリカ  3戦3敗
10-57 ウェールズ
28-50 アイルランド
17-145 ニュージーランド
 小藪 修
第4回 1999年  ウェールズ  3戦3敗
9-43 サモア
15-64 ウェールズ
12-33 アルゼンチン
 平尾誠二
第5回 2003年  オーストラリア  4戦4敗
11-32 スコットランド
29-51 フランス
13-41 フィジー
26-39 アメリカ
 向井昭吾
第6回 2007年  フランス  4戦1分3敗
3-91 オーストラリア
31-35 フィジー
18-72 ウェールズ
12-12 カナダ
 ジョン・
 カーワン
第7回 2011年  ニュージーランド  4戦1分3敗
21-47 フランス
7-83 ニュージーランド
18-31 トンガ
23-23 カナダ
第8回 2015年  イングランド  4戦3勝1敗
34-32 南アフリカ
10-45 スコットランド
26-5 サモア
28-18 アメリカ
 エデイ-・
 ジョーンズ
通算:28戦/4勝2分け22敗

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