東京P2M研究部会
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誰もが必須の高齢社会における人生設計マネジメント

東京P2M研究会 梶原 定: 9月号

はじめに
 現在、日本は、世界で最も高齢化が進んだ国となり、「前例のない高齢化社会」が到来することとなった。これによって、高齢者を取り巻く状況は、急速に大きく変化し、従来の「支えられる高齢者」のイメージは実態と乖離が生じてきている。 日本は、現在世界一の長寿国(「平均寿命」男性79.5歳、女性 86.3歳)となり、この数字は年々伸び続けている。 一方、寿命を延ばすだけでなく、いかに健康で生活できるかという、「健康寿命」(心身ともに自立し、健康的に生活出来る期間)は、男性70.4歳、女性73.6歳にも関心が高まっている。 厚生労働省の発表によると平均寿命と健康寿命の差異は、男性 9.1歳、女性 12.7歳。 この間に病気をかかえ、晩年は、寝たきりでの介護が必要となり、不自由な生活を過ごさなければならないことが分かる。さらに、医療・介護問題は、団塊世代(戦後の第一ベビーブーム期(1947~1949)ないし、その前後に生まれた世代)に代表される戦後生まれ世代が高齢期を迎えることにより、今後の高齢者像が一層変化していくことも考えられる。

今後の小子高齢化に備え、「前例のない高齢社会」を全ての国民が安心していきいきと暮らしていける活力あるものとしていくためには、高齢化の状況や、高齢者を取り巻く経済社会情勢の変化を踏まえた、介護問題、医療費や家計への影響などが懸念され、新たな高齢社会対策を検討することが必要となっている。

(1) 小子高齢化社会がもたらす問題・課題とは何か?

・ 進む少子高齢化
 小子高齢化が引き起こす医療・介護制度が、足元から揺らいでいる。 最大の原因は、出生率の低下による小子化と超高齢化が引き起こす、人口のアンバランスであり、高齢者が増え続けると、社会保障給付費(介護・医療・年金)もまた、大きく増加する。

65歳以上の高齢者一人を、支える現役世代(20歳から64歳)は、年々、減少しており、
昭和35(1960)年では、現役世代 11.2人が、高齢者1人を支え、
平成22(2010)年では、現役世代 2.8人が、高齢者1人を、支えていたが、
平成37(2025)年には、現役世代 1.8人が、高齢者1人を支えることになると試算されている。

・ 医療・介護の社会保障給付費の増加
 厚生労働省の試算では、
平成24(2012)年の社会保障給付費は、約110兆円で、団塊の世代が75歳を迎える
平成37(2025)年には、これが、約149兆円に膨らみ、毎年、約3兆円程増え続ける見込みである。

分野別にみると、平成24(2012)年から平成37(2025)年では、
介護が、約8兆円から約20兆円に、
医療が、約35兆円から約54兆円に、
年金は、約67兆円から約75兆円に、社会保障給付費として必要と試算されている。

また、分野別の伸び率は、それぞれ、介護が約2.4倍、医療が約1.5倍で、年金の1.1倍を、大きく上回っており、介護、医療を、どう効率化していくかが、大きな課題となっている。団塊の世代が75歳をむかえ、医療・介護の膨脹にかかる平成37(2025)年まで、残された時間は、あと12年と、少なく、これらの社会保障給付費をどのように、確保するか、積み残しの大きな問題・課題となっている。

(2) 高齢者を取り巻く環境

・ 家族の支える力の低下
 高齢者の家族と世帯の状況をみると、高齢者のみの世帯が増え、家族のつながりが希薄になっていく一方で、支えとする人は依然として家族のものが多い。 高齢者のいる世帯に占める高齢者のみの世帯の割合は、昭和55(1980)年では26.9%であったが、平成13(2001)年には47.2%、平成18(2006)年には51.9%と過半数を超えるなど、高齢者のみの世帯が増加し、3世代同居が減少するなど、家族の支える力が低下している。

一人暮らしの高齢者の高齢者人口に占める割合を男女別にみると、昭和55(1980)年に男性4.3%、女性11.2%であったのが、平成17(2005)年には男性9.7%、女性19.0%となっており、男性高齢者の10人に1人が、女性高齢者は, さらに多く5人に1人が一人暮らしであり、今後も一人暮らしの高齢者は一層増加するものと考えられる。

・ 要介護者の急増と介護者の状況
 高齢者人口が増加するに伴い、要介護者数は急激に増加している。 65歳以上の要介護認定者数をみると、
平成12(2000)年では、2,471千人であったが、
平成17(2005)年には、4,175千人と69%増加している。

 前期高齢者(65歳~74歳)と後期高齢者(75歳以上)では、要支援・要介護の認定を受けたものの割合は、
前期高齢者では4.8%であるが、
後期高齢者では29.6%と、さらに大きく増えている。

 また、世帯構造の変化によって、65歳以上の要介護者等と同居している主な介護者のうち、60歳以上の介護者である世帯が55.9%を占めるなど、介護の半数が老老介護(家庭の事情などにより高齢者が高齢者の介護をせざるをえない状況)となっている。 特に、家族と同居している場合の介護者の内訳も、男性家族が介護している割合が16.6%であるのに対し、女性家族が介護している割合は49.5%と、依然として女性が大きな役割を担っていることが分かる。

・ 要介護が必要になった原因は、性別で異なる
 要介護になった主な原因は、男性は「脳血管疾患」が多く、女性は「高齢による衰弱」、「関節疾患」、「骨折・転倒」、「認知症」が男性に比べて多い。 これは、単に性別によるものだけではなく、若い頃からの生活習慣の違いなども影響していると考えられている。

(3) 超高齢化社会において取り組むべき課題

・ 高齢者は支えられるものというイメージ
 65歳以上を高齢者と規定し、「支えられる人」と位置づける考え方は、高齢者の実態にそぐわなくなっている。
健康な高齢者は、増加傾向にあり、65歳以上の高齢者の多くが、現役で活躍し、又地域の活性化に貢献している現実を踏まえると、従来の高齢者イメージを見直し、新しい高齢者観や価値観を作り出し、今後、生じてくる様々な問題・課題を解決していくためにも、高齢者が、活躍できる社会であることが重要となっている。

おわりに
 日本は、世界で最も高齢化が進んだ国となり、「前例のない高齢社会」が到来することとなった。さらに、団塊の世代に代表される戦後生まれ世代が、高齢期を迎える2025年(平成37)年を、念頭にいれ、世界一の長寿国社会の将来のあるべき姿(全体像)を想定し、段階的に実地すべき改革目標を、定め、時間軸に沿って、実現していくことが必要となっている。

小子高齢化が急速に進む、現状を踏まえると、社会保障制度等の改革は、待ったなしの課題・取り組みであり、今後の状況を見守っていきたい。

長寿社会の到来は、高齢者に限らず、すべての世代の人々が、新たな社会を生き抜くことを意味しており、それぞれが、人生100年時代を想定し、一人一人が、自分自身の人生設計をし、マネジメントすることが重要になっている。

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