PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(66)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :9月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

5 喜怒哀楽
●夢工学式エンタテイメント論~夢の実現と成功をめざす人のために~
 (特)日本プロジェクト・マネジメント協会は、その機関誌「PMAJジャーナル」の「特集47号(2013)」として「エンタテイメントPM」を取り上げ、筆者に「エンタテイメント論」の寄稿を求めた。

 その要請に基づき寄稿したものが下記の論文である。これを今月号としたい。しかし毎月の連載記事より長文になったが、これは、まさしく本稿のテーマそのものであり、重要な内容を総括的に紹介したものである。是非、最後まで読んで欲しい。

PMAJジャーナル47号

●お礼 (本文 開始)
 本協会・ジャーナル編集長・岩下幸功様から「エンタテイメントPM(フロンティアを求めて)」への投稿のご依頼を承りました。また同氏のご支援を受け、オンラインジャーナル「PMプロの知恵コーナー」で「エンタテイメント論」を毎月連載せて頂いております。

 本連載のそれは、本稿の標題の「夢工学式エンタテイメント論」と同じ内容のもので、「夢工学式」が正確な名称でございます。本連載は、前・編集長・渡辺貢成様のご依頼で始めさせて頂きました。その際、大変お世話になりました。本紙面をお借りして、岩下様、渡辺様に厚く御礼申し上げます。なお以下の文章を簡潔且つ正確に表現するため「敬称・敬語」を割愛致しました。この非礼を平にお許し下さい。

●エンタテイメントPM (フロンティアを求めて) の課題提起
 この課題提起に応えるには、以下の問に答える必要がある。それは、① 筆者自身が「エンタテイメント」を云々し、議論できるだけの「エンタテイメント・ビジネス(事業)」の実務経験を持っているのか? ② この議論の出発点である「エンタテイメント」とは、そもそも何のことか? ③ 「エンタテイメント」は、国、自治体、企業、大学、研究機関、そして個人が取り組む様々な「プロジェクト」にそもそも関係があるのか? ④ 「エンタテイメント」は、プロジェクトの発想(思考)~計画(企画、開発)~建設(計画の基盤形成)~運営(人事、組織、物的・知的生産、 販売、経理等)の各マネジメントに役立つのか? ⑤ 「エンタテイメント」は、日本の未来のフロンティアを切り開く力になり得るのか? である。

●筆者の実務経験とは?
 筆者は、過去、「産官学」の3分野で様々な実務を経験した。その中から「エンタテイメント事業」に関わった部分を抽出すると、① 新日本製鉄(株)勤務時代、MCAユニバーサル・スタジオ・ツアー・プロジェクトの日本初の計画 & 開発、② (株)セガ勤務時代、ジョイポリスの第1号館の開園(社長了解で命名)と全国多店舗展開の実現、③ 岐阜県理事時代と新潟県参与時代、バーチャル & リアル水族館、昭和村などの実現、④ 幾つかの大学の教授等(官職兼務)としてエンタテイメントに関する講義とその研究であった。    現在も、「産官学」の3分野の仕事を同時に遂行している。また東京都内のジャズ・ライブハウスでジャズ演奏活動(ピアノ担当)を約20年前から現在まで続けてきた。今後も、この観客直接接触のエンタテイメントを続ける予定である。

●エンタテイメントとは?
 エンタテイメントとは、一般的に娯楽、気晴らし、歓待、余興、演芸など意味する。またその語源や使われ方は、「気持ち鼓舞説」、「人との遭遇説」、「言語伝承変化説」など様々な説がある(参照:筆者の本連載)。

 古今東西の多くの人々は、エンタテイメントに相当するコトをどの様に表現し、どの様に使おうとも、各種・各様の「遊び」を基に、楽しく、明るく、時に感動を分かち合って、自らの「夢」と共に生きてきただろう。この最も楽しい人間活動を生み出す「エンタテイメント」を娯楽、歓待、余興などと云う「狭い概念」で捉えることに疑問を持っている。

 日本にはエンタテイメントを「歌舞音曲」と軽視し、芸人を軽蔑し、川原乞食と蔑視する偏見が依然として実在する。それにしても、「芸もなく、常識もなく、責任感もないお笑い芸人」が日本の殆どのジャンルのTV番組に我がもの顔で登場する。これを許すTV局とスポンサー企業には「疑問」を通り越して「怒り」すら覚える。彼等は「公器であるTV電波」を乱用し、「金儲け」の道具に使っている。しかもお笑い芸人も、TV局も、スポンサー企業もエンタテイメントのカケラも理解していない。

 筆者は、エンタテイメントを研究すればするほど、その「幅」の広さと「奥」の深さを認識した。偏見を排除し、怒りを抑え、エンタテイメントを「より広い、より高次の概念」として捉えるべきと考えている。

 エンタテイメントとは、「遊び」を核として、理解し合い(左脳の理性機能発揮)し、感じ合う(右脳の感性機能発揮)、相互反復のコミュニケーション活動であると定義した。

 この「遊び」とは、子供の「遊び」だけでなく、大人の「遊び」も意味する。それは理解できる、納得できる「理性的充足」を求める,、自由で大胆な精神的活動又は肉体的活動である。と同時に面白く、感動できる「感性的充足」を求める、自由で、大胆な精神的活動又は肉体的活動でもある。

●黄金の三角ピラミッド
 「遊び」は、「新しい美」を創造する「芸術」の活動の中で最も大きく、深く実存する。「エンタテイメント」の実相を知れば、芸術と同じ線上に位置するものであることを誰しも気付くだろう。更に「新しい知」を創造する「科学」、「新しい技」を創造する「工学」、「新しい価値」を創造する「事業(ビジネス)」の夫々の活動にも広く、深く関わる。

 子供は寝食を忘れて無我夢中で遊ぶ。しかし大人になるにつれて遊びへの情熱を失う。人類の歴史に偉大な功績を残した芸術家、科学者、工学者、事業家は、新しい美、知、技、価値を創造する時、「遊び」が極めて重要な役割を果たしたことを異口同音に語っている。彼等は、子供の様に「遊び」の世界を飛翔した人物であった。

 科学と工学と事業は、相互に影響し合い、対等の立場にある。事業は、芸術から「美」を、科学から「知」を、工学から「技」を得て、新しい「価値」を生み出す。その価値で社会から「富」を得る。得た富は、芸術、科学、工学に還元され、それぞれの活動を支える。日本では国や自治体による「科学技術強化政策」はあまり実効を生んでいない。その原因は、その政策と同等・同質・同額の「新事業開発強化政策」を同時に実施していないためである。

 芸術は、科学、工学、事業の活動を刺激し、鼓舞し、成功に導く特別の存在である。と同時に我々の生活に楽しみ、喜び、潤いを与える最も高次で最高位の存在である。エンタテイメントも同じ位置に存在する。欧米社会の公式レセプションでは、芸術家は、科学者よりも、工学者よりも、事業家よりも、他の人物よりも高い位置に座る。

 筆者は、この芸術、科学、工学、事業の4者の関係を「黄金の三角ピラミッド」と命名し、立体化した。これは、我々の「夢」を実現し、成功させる「パワー」を、「悪夢」を事前に予防し、排除する「パワー」をそれぞれ内蔵している(説明割愛)。従ってこれは、「日本のあるべき国の姿」を現している様に思えてならない。

黄金三角ピラミッド

●夢工学式エンタテイメント論の構築
 日本の多くの大学に於いて「ホスピタリティー学」が教えられている。しかしエンタテイメントそれ自体を真正面から「学問」として扱う学者や大学は、筆者の知る限り、存在しない。

 筆者は、一人でも多くの人がエンタテイメントの「重要性」、「必要性」、「有効性」、「活用性」を理解すると共に、自らの「夢」を実現させ、成功させ、同時に「夢」を潰され、「悪夢」に遭遇しないことを願って、夢工学と悪夢工学に準拠し、「夢工学式エンタテイメント論」を構築した。

 「エンタテイメント」は、国、自治体、企業、大学、研究機関、そして個人が取り組む様々な「プロジェクト」に関係があるのか? 「エンタテイメント」は、プロジェクトの発想(思考)~計画(企画、開発)~建設(計画の基盤形成)~運営(人事、組織、物的・知的生産、 販売、経理等)の各マネジメントに役立つのか? 「エンタテイメント」は、日本の未来のフロンティアを切り開く力になり得るのか?
 
 この「問い」に対する「答え」は、いずれも「YES」である。「エンタテイメント」をプロジェクト・マネジメントの研究対象、実践対象、そして普及対象にすることを強く主張したい。

●夢工学式エンタテイメント論(本論)の活用
 本論を国、企業、大学などが取り組むプロジェクトに如何に活用するかを説明したい。しかし紙面の制約があるため、2~3の例示に留める。なお本論は、個人の活動にも十分活用できることを付記したい。

(1) エンタテイメント組織体
 これは、映画会社、TV局、ゲーム制作会社、プロスポーツ団体などを意味する。この組織体は、映画製作、TV放映、ゲームソフト提供、プロスポーツ中継等の事業活動を行う。その活動に於いては、楽しい、面白い、感動などの「感性」に訴えることを最重視する。しかし日本の映画、TV番組、スポーツ中継などの「コンテンツ」では、薄っぺらな面白さしかなく、楽しくなく、涙を流して笑えるものが少ない。また「ためになるもの」も少ない。その結果、観衆に受けず、事業採算性を悪化させ、事業者や関係者が苦悩している。

 本論は、この解決策の1つとしてある事を以前から提言している。それは、「感性」だけに頼らず、理解、納得、合点、合理などの「理性」にも頼ることである。具体的に換言すれば、「涙を流して笑わせる」ためには、「面白さ」の追及(感性への訴え)だけでなく、「なるほど(理解)」、「その通り(納得)」、「身につまされる(合点)」などの追及(理性への訴え)を同時にすることである。

(2) 非エンタテイメント組織体
 これは、国、自治体、鉄鋼、自動車、通信などの企業(非エンタテイメント事業主体)、大学などを意味する。この組織体は、国民や県民への公的サービスの提供、鉄鋼製品、自動車、伝達情報などのハード & ソフトの提供、研究結果や講義の提供等の活動を行う。その活動に於いては、モノやサービスに関する合理性、納得性、品質保証性、コスト妥当性などの追及という「理性」に訴えることを最重視する。

 しかしモノやサービスが過剰に溢れる昨今、提供される国民や県民は、それだけでは満足しない、心に感じるモノ、心が共感するコト、心が通い合うコトなど「感性」に訴えるモノやサービスを期待する。彼等を満足をさせるには「エンタテイメント」の本質を理解し、それをモノやサービスと組みわせ、活用することを、非エンタテイメント組織体のトップや関係者が認識し実践することである。

 以上の事は、モノやサービスだけに限ったことではない。地方都市や東京都心の再開発にも当てはまることである。国や自治体は、この再開発のために多額の税金を使い、多くの時間、労力を投入している。一方再開発の事業主体企業は、設計事務所、建設会社などと共に膨大な投資を行い、多くの時間と労力を投下している。再開発が実現した当初は、多くの人が集まり、再開発地域の事業は儲かる。しかししばらくすると潮が引く様に客が激減し、その後、回復は難しくなる。そしてコンクリートとガラスの街、住宅、オフィス、どこも同じの全国チェーンの飲食店と物販店の街が取り残される。撤退する店舗が次第に増える。

 本論は、この解決策の1つとして以前から提言していることは、① 「エンタテイメント」の導入、② エンタテイメントのコンセプトを再開発グランド・デザインの中核に位置付けることなどである。集客にイベントがよく使われる。オリンピックもその1つである。これは「切花」で一時的効果しかない。「根」の張ったエンタテイメント常設館(例:本物のテーマパーク=本連載参照)や365日実施されるライブ・エンタテイメント施設(例:筆者が出演中のジャズ・ライブハウス)などが都市再開発の重要な成功ファクターになる。

●日本の構造的危機と近未来予測
 筆者は、20数年前から、ある事を本、雑誌等を通じて訴え続けてきた。しかしその度に厳しく批判され、無視されてきた。それは、① 日本が明治維新と戦時を除き、殆どの分野で現代史上初の「構造的危機」に直面し、今も危機から脱出来ていないこと。② もし既得権益者の排除など「革新的(革命的)」な自己変革を断行せず、「今のまま」で推移すると、日本は、確実に傾き、アジアの小国に凋落すること、③ 危機脱出だけでなく、輝かしい日本の再生と発展が不可欠、④ それには福祉・教育・医療政策より経済・産業・事業政策を最優先し、日本企業の99%を占める中小企業を活性化することなどである。

 「構造的危機」とは、政治改革、行政改革、司法改革の遅れ、1000兆円の国債発行残高と国債デフォルトの危険性、日本が世界に誇る新商品、新製品、新事業が過去20年間の不存在、世界最低の新事業起業率、大学改革の遅れと世界潮流から外れた有名大学、日本人の世界最低の英語力、社会保障制度の崩壊の危険性など(紙面制約から割愛)。

 危機脱出と再生・発展には、リストラ、コスト切り下げなどの「改善の経営」でなく、優れた「発想(思考)」と見事な「発汗(行動)」を伴う「改革の経営(ビジネス・イノベーション)」が不可欠である。その発想には、理性と感性を同時・同質に発揮させる「エンタテイメント思考と行動」が大きい役割を果たす。その思考と行動の人物が「夢」を持ち、その実現と成功のために「汗と涙と血」を流すことを厭わない又は喜んで流す時、「夢」は実現し、成功する。その時に「新しいフロンティア」が拓かれる。「夢こそ、すべて」である。

< 履歴 >
川勝良昭:
現職:経営コンサルタント、韓国ソウル特別市・名誉大使 & 諮問官、中国政法大学(北京)客座教授、PMAJ理事等。東京俱楽部(ジャズ・ライブ・ハウス)専属ジャズ・トリオ(ピアノ担当) 旧職:岐阜県理事、新潟県参与、新日本製鐵(株)及び(株)セガに勤務(テーマパーク事業部長)。岐阜県立大学、亜細亜大学、東京大学、中央大学、岐阜聖徳学園大学等の客員教授等。NTTデータ経営研究所・顧問等。

< 参考文献 >
「夢をプロジェクトとして起ち上げる法(知的冒険の旅に出よう)」
  川勝良昭 出版:ダイヤモンド社 1998年
「新プロジェクトを成功させる方法(ビジネス・リーダーのための夢工学)」
  川勝良昭 出版;日科技連 2007年
「夢と悪夢の経営戦略」
  川勝良昭 出版:亜細亜大学購買部(直販) 2010年
「夢工学式エンタテイメント論」
  川勝良昭 (特)日本プロジェクト・マネジメント協会・オンライン・ジャーナルで連載中2013年
(本文 完)

つづく

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