図書紹介
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残穢 (ざんえ)
(小野不由美著、新潮社、2012年7月20日発行、初版、335ページ、1,600円+税)

デニマルさん: 9月号

今回紹介の本には、幾つかの話題性がある。その一つがタイトルの残穢であろうか。漢字が読めない、意味が分からない。漢字検定試験に出てきそうな語句で、残穢(ざんえ)と読む。穢れとあるので、宗教的な罪と災いに関係していることが想像出来る。そして第26回山本周五郎賞の受賞作品と宣伝されてある。俗に「山周賞」と言われている賞であるが、26回目にもなる。この賞は、物語性に優れた大衆文学の小説を対象として選考されている。因みに、第1回が山田太一著「異人たちの夏」で、2回目が吉本ばなな著「TUGUMI」で、6回目の1993年に宮部みゆき著「火車」がある。2008年には、今野敏著「果断 隠蔽捜査2」と伊坂幸太郎著「ゴールデンスランバー」となって、今回紹介の本となる。この本は、題名からも分かる様にミステリ-ともホラーともとれる内容である。山周賞でホラー的という点も興味がある。著者のベストセラー本の「屍鬼」(しき)が、1999年の山周賞と日本推理作家協会賞の候補作であった。著者は、「十二国記」の悪霊シリーズや、現在発売中の「丕緒の鳥」等で今ホットな作家である。

残穢 (ざんえ)   ―― ことの始まりは死穢? ――
残穢とは、「残りものやけがれたもの。体内に生じるかす。」(日本国語大辞典)とあったが、広辞苑には掲載されていない。穢れとは、仏教や神道の観念で不潔・不浄等の清浄でない、汚れた悪しき状態である。特に、非日常的な死は穢れの対象となるが、中でも怨みを伴う死は「穢れ」となるという。この本では、マンションでの怪奇現象を調べる過程での話である。だからここでの残穢とは、死穢(しえ、葬式用語で死の穢れ)から始まっている。

触穢 (そくえ)  ―― 穢れは伝染する? ――
触穢とは、神道上の不浄とされる穢(死穢・弔喪(ちょうそう)・産穢・月経などのけがれ)に接触して汚染することである。この考え方は日本古来のもので、触穢は伝染するといわれている。だから穢は、お清めやお祓い等で伝染を防ぐ習わしがある。この本では、マンションが建てられた50年前、その土地で一家殴殺放火事件が起きていたり、精神病患者が座敷牢に監禁されていたり、子供が次々と自殺した一家もあり、穢が伝染・拡大していた。

残渣 (ざんさ)  ―― その後のお話? ――
残渣であるが、この漢字も難しく、「濾過(ろか)したあとなどに残ったかす」(大辞泉)の意味で、この本の最終章のタイトルである。マンションでの奇怪現象(畳を擦る音、赤ん坊の泣き声、床下を這いまわる気配)は、現在どうなっているか。またマンションを転居した家族は、その後どうなっているか。その結末は、読んでのお楽しみである。昔から家を建てる時に地鎮祭をするが、土地の神に許しを乞う儀式はそれなりの意味があるようだ。


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