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私のWBS観の今昔・・・『習い』から『見える化』へ

(有)デム研究所 城戸 俊二: [プロフィール] :8月号

 30年以上前になろうか、当時私はプラントエンジ会社で社内にPMS普及、指導を担当する少人数のグープリーダーをしていた。今で言うPMOの走りである。そこで上司から"WBSの作り方は?"と聞かれて答えに窮した。確たる方法論を持たなかったからである。今なおその呪縛から完全には解きほぐされず日々研鑽の継続で、既に私のライフワークになってしまった。

 PMBOK®やP2Mなどが普及した今では「WBSを作るのは簡単だ」、「難しい」、「時と場合によってその難易は変わる」と唱える人など十人十色であるが、当時私は先輩が作った資料を元に見様見真似で、習(マネ)た知見を嵩にきて"自分はWBSを作ることができる"と自負していた。思い起こせば、WBS論を見える形で持っていなかった自分としては「方法論は無い」ものと半ば諦め"WBSの作り方は「経験知」だ(出来上がった姿は形式知だが、それが完成するまでの過程には多くの暗黙知が必要)"と唱えればことが済んだからである。

 WBS活用の目的・狙い
 WBSを利用するには具体的な絵を描くことから始めるため、プロジェクトスコープの具象化(作業をピラミット状に整理)を終えたらWBSの構築は終わったと考える人も多いが、WBS活用論となるとその目的・狙いはもっと奥深いところにある。その真髄はWBSのフレームワークを踏まえて、これを如何に要領よくパフォーマンスコントロールに活用するかに尽きる。その所以はプロジェクト遂行に関わる全てのデータや情報はこのフレームワークの中に抱え込まれ(WBSのどこかとリンクが張られ)ており、このリンクを用いてマネジメントの目的・狙いに叶う情報を如何様に取り出すかにあるためである。見方を変えればマネジメント当事者は自分の思いを実現するために必要な情報を作為的に埋め込み、あるいは効果的にリンクを張ることもできる。

 このような目的で使用するWBSはそれなりの品質が必要で、多くの暗黙知を盛り込んでおかねばならない。特にコントロール計画の開始からベースライン完成に至るまでの思考過程に考えたこと無視したこと、放棄したことなどを、プロジェクのコントロールに携わる人で共有することが重要である。

 WBSをその品質に仕上げるには形式知(マニュアル化された技術)だけでは事足りない。ベテランPMが独りで計画立案するのでも不満足。プロジェクトマネジメントをする人、される人、ベテランPM、新参者が同じ理解に立つことが必定。これにはベースライン構築の過程を"見える化"して関係者全員の思いを取り込むのが最も手っ取り早い。全員参加型のWBS構築を実現できる。ここで述べる“見える化”の例は参考文献で述べているので詳しくはそちらをご参照願う。

 WBS/WPはどんなもの?
 読者各位はWBSやWP(Work package)についてご承知と思うので、その説明は抜きにして、ここでは比喩的に解説しよう。
 WBS/WPの姿かたちは大きな風呂敷包みを想定していただければ宜しかろう。小包の中には美味しいもの、生くさいもの、中には腐れ掛けたものもある。外観は一見はれぼったそうにも見える。眼力がない管理者は赤みがかった肌色を見て(きれいな風呂敷のデザインに惑わされて)、むしろ元気で快調と判断するかも知れないが、実情は間もなく大病に陥る寸前である。状態の診断手段を持たない管理者は悲なしいかなそれを予知することができずに、病根が侵攻するがままで、そのプロジェクトの近未来の惨状は推して知るべし。このような時、ベースライン構築の段階でその構成を知り、その構築の過程(ケース、無視、放棄、作為の盛り込みなど)を共有していれば、プロジェクトの如何なる部位の事象でも容易に対応でき、関係者全員で自分のプロジェクトの近未来を予測することができる。PM専門用語で言うところのEVMを活用しての成果判断:予測である。

プロジェクトコントロールの計画はアナログ(暗黙知的)、ベースラインはデジタル(形式知的)、その活用はアナログ(見える化を介した暗黙知の伝授)
 私は、ベテランの脳の中には適切なWBS構成能とWP活用能が醸成されていると考える。これはその人がPMを学んだ否かは副次的なもので、多分に実務経験知があらしめることと判断する。従ってWBSの作り方を伝授するには暗黙知を取り込むことが必定と考える。暗黙知を伝授する効果的な方法に“手法の見える化”が重要である。

 プロジェクトコントロールを計画するに当たって誰しもWBSを作るが、「WBSを使って」と言ってもその意味するところは各人各様で、その中身は微妙に異なる。この微妙なズレがプロジェクトを実行する段階で次第に拡大し、修復できない問題へと発展して行く。その都度、その場その場の定義が,必要である(しないと危険)。これが四半世紀以上に亘ってPMに、特にPMSに携わっている私の信念である。

参考文献 1 ) 統合マネジメント談義    リンクはこちら
  2 ) プロジェクト パフォーマンス マネジメント    リンクはこちら
  3 ) (有)デム研究所ホームページ    リンクはこちら

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