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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~異文化対応力を高める力~

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 私は異文化対応について、かなり知っている方だと自負してきた。アメリカと豪州に住んだ経験に加え、プライベートや仕事で訪れた国は何十カ国にもおよぶ。異文化コミュニケーションに関する講義もしているので、関連する書籍を読み、見聞きした情報を自分なりに解釈することもしてきた。新聞や雑誌等に記載されている内容等については、多くの場合既に見聞きしている。ところが、先日『最近異文化理解とコミュニケーション』という本を読んで、まだまだ知らないことがあるというのを実感した。大学教授を始め、各分野の専門家の方々が各章を担当して書いた本で、異文化についても専門的な解説がなされている。
 この本の中から、私が新たに知り面白いと思った点をいくつか紹介しよう。
1. 同じ諺が反対の意味を持つケース
 「転石、苔を生ぜず」A rolling stone gathers no moss.
転がる石には苔が生えないという意味から、日本では、一か所に落ち着いていない人は大成しないことを示す。一方アメリカでは、石に苔やかびが生えることを良しとしておらず、活発に動くことを奨励する文化を表している。確かに育成に関するアメリカ発の英語の文章を読むと、Go out of your comfort zone.といった表現を用いて、自分が安全と感じる場所から一歩踏み出すことを奨励しているものが多い。

2. 価値観の違い
 日本人は、「ある」「なる」や「相互依存」を大事にし、概してユーモア感覚が欠如している一方、アメリカ人は、「する」「つくる」や「独自性」を大事にし、ユーモア感覚を尊重するという。これも確かにそうだ、と思う経験を何度もしてきた。キャリアを大事にするアメリカ人が好んで口にする言葉が、Make it happen. (それを起こさせる)だ。オバマ大統領が選挙で聴衆に呼び掛けた言葉も、Yes, we can. (我々はできる)だった。You have a choice. (あなたには選択肢がある)やMake a difference. (変化をもたらす)という元気を与えてくれる表現もよく聞く。日本で女性がなかなか上位職に昇進しないという話をしていた際に言われたのも、「ならば、なぜ現状を変えようとしないのか?」だった。自らの意思で選び周りを変えていくことを大事にしているのだ。
 会社の仕事で知り合ったアメリカ人で要職についている方も、ユーモア感覚を持っていることを採用の条件の一つにしていた。しかし、ユーモア感覚が欠如していると言われる日本人には、私を含めて、ユーモアをどう出せばいいのか、悩む人が多い。そんな人たちには、この本に記載されている、「ユーモアは決して相手を笑わせる目的で挿入するものではない。聞いている人がリラックスする瞬間をつくれればそれでいい。それは話のペースを変える工夫、息継ぎ、間を取ることでできる」(パート2 109pg)という考え方が役に立つ。息が詰まったように相手に感じさせない工夫なら、私もできそうな気がする。

3. 寓話とスポーツの効用
ある国の文化を理解しようとする際に大事なのが、その国の寓話、童話、諺とスポーツを理解することという指摘が本の中であった。子供の頃に学んだことの中に、「文化的背景として共有している世界についての基本的な理想や価値や前提が全て含まれている」ということらしい。私がアメリカ人的な考え方を理解できるのは、幼少期をアメリカで過ごしたからと考えると腹落ちする。スポーツに基づいたメタファー(比喩)もよく使われているという話も納得できる。アメリカ人同士がアメリカンフットボールの話をし始めると、ついていけなくなる。女性がビジネスの世界で昇進するためにも、男性が好んで使うスポーツに基づいたメタファーを理解するよう指南する本もある。

 今回は、読書を通じて異文化対応力を高める力について、私が最近読んだ本をもとに説明した。「読む」と言う点に関していうと、他にもネット、リンクドインのディスカッショングループ、YouTubeの映像等から有益な情報を得ることができる。私はフェイスブックで外国の知人が書いた情報に対し、他の外国人がどんなコメントを書いているのかを時々チェックしている。自分が直接異文化を体験することも大事だが、読むことにより、経験を振り返り意味付けや整理することもできるようになる。
 直接人と話をして得る情報の価値は高い。聞いたことに対してその場で質問をしたりして、深堀ができるからだ。自分がプロジェクトで関係する国の出身者や駐在経験者から話を聞くことにより、有益な情報を得ることができる。継続して相談をする必要がある場合には、適任者にメンターになってもらうことができると尚良い。先日新聞である大学が、全ての学生に社会人メンターを付けるという広告を出していた。これは良い試みだと思う。ある状況でどう行動したらいいかという知恵は暗黙知になっていることが多く、通常ではちゃんと教えてくれる人はいないからだ。
 さて、あなたはどんな方法で異文化対応力を高めますか?

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