理事長コーナー
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社会貢献へ向かう若者の新たな動きとP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :7月号

 うつに悩む人が増えたとマスコミで盛んに取り上げられている。うつに対する精神医学の発達で病理的な判断基準が変わり、病気として認識すべきだという科学的な事実が広がってきていることが大きい。ゴシップ記事的な話題で恐縮だが、一方では、会社を休んで海外旅行に行っている部下にあきれる上司の発言記事を目にした。依然として、根性主義的なやる気の問題として捉える人が多いのも事実である。季節や気候などの環境因子に影響され、興味や喜びの喪失や憂うつな気分に落ち込むことは誰にでもあることだ。しかし、熱が出るとか咳が止まらないという判り易い物理的な症状や基準がうつには未だないため、病気であるという判断がむずかしい。この分野の研究の更なる進展がのぞまれるところである。

 この種の記事からしばしば思い出すことがある。ダグラス・マクレガーの「XY理論」である。ご承知の方も多いと思うが、X理論とは、「『人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる』という考え方。この場合、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰といった、「アメとムチ」による経営手法となる」。一方、Y理論とは、「『人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする』という考え方。この場合、労働者の自主性を尊重する経営手法となり、労働者が高次元欲求を持っている場合有効である」。更に、「低次元の欲求が満たされている人に対してはX理論による経営手法の効果は期待できない。低次元の欲求が満たされている1960年代ではY理論に基づいた経営方法が望ましい、と主張した」。この「XY理論」は、有名なアブラハム・マズローの「欲求の5段階説」の低次元と高次元の欲求を前提として展開されている。(ウキペディアによる)

 この「XY理論」に初めて接したのは、管理職研修であった。幾つかの小さな建設プロジェクトのプロジェクトマネジャーを経験していた頃だったので、自らの少ないマネジャー経験から、「XY理論」は単純な2区分の分類では現実には使い物にならないが、考え方の参考になるかと、自分なりに納得していたのを思い出す。当時は、1980年代半ばで、高度成長期が終わった頃であり、「新・三種の神器」である3C(カラーテレビ、クーラー、カー)を既に手にしてはいたが、心理的にはまだまだ欲しいモノ・買いたいモノが山の様にあった。少しでも稼ぎを増やし、更に良い生活をしたいという欲求が一所懸命に仕事をする原動力となり、知識獲得にも貪欲であったと思う。周辺でも大勢の人がそう思って働いていたと思う。一直線な目標を持って働くことが出来た時期であった。今から振り返ると、丁度、「X理論」タイプが多い社会から「Y理論」のタイプへと変わる端境期であったのであろう。

 「Japan as No.1」の経済的なピークとバブル崩壊を経て、21世紀に入っても日本は経済成長のない「失われた20年」を過ごした。いつの頃からか、若者は車を欲しがらず、高齢者も新たに欲しいモノ、買うモノがないという社会に突入していた。平均年収が低下する中、未来に大きな夢を描けない、希望が持ちにくい、それでいてリスクを取らず挑戦しないと指摘されている若者達の先頭が、既に壮年に差し掛かり日本社会の中心を占める年代となってきている。うつを病む人が増えていることも、この時代背景と関連付けられて説明されている。しかし、最近の新聞に依れば、東日本大震災以来、若者達の中には「社会貢献にカッコよさを感じている人」が確実に増えているそうであり、30才台前半のNPO法人の代表らが確かに盛んに記事として取り上げられている。自ら目標を設定して、自ら駆り立ててその分野に飛び込み、成功している例である。既にこの様な人達は「X理論」タイプから脱却し、自律的である「Y理論」タイプになっていると思われる。

 そのような世界で活躍している人は未だ一部であろうが、多くのその同世代の会社勤めの人は、管理職の手前の管理される対象としての世代であるが、確実にこの影響を受けていることがうかがえる。日本は、一時の勢いがないとはいえ新たなビジネスモデルを造り続け成長を続ける米国と日の出の勢いの新興国との間に挟まれ、イノベーションによる生産性の向上と新たな成長分野の開拓が喫緊の課題である。社会や組織内にあっても、彼らが日本に対して貢献すべき課題は山積みである。かつては先輩の背中を見て育って来たが、その様な時間的な余裕が日本にはない。過去の成功体験では対処できない状況を切り開くには、この新たな感覚を持った若者が増え、先輩達と違う目標をもって未知の道を開拓することに希望を見出すことが良いと思う。既に先に述べた社会貢献で成功している若者がいる。その更に先輩にはITバブル崩壊があっても生き残り成功している世代がいる。彼達は、手本がない道を歩いてきて今に至った。この若い彼らの世代には徐々に進むべき目標が見えてきている感じがするのである。

 P2Mのコンセプトは、この様な新たな使命を携える若者たちの道案内となると確信しているが、彼らにとって手に届き判り易い状況にはなっていなかった。現在、遅まきながら大学生向けのP2M教材開発が進行中であるが、その目的の一つは、P2Mという日本の知的財産を大学教育の中できちんとした形で理解してもらい、将来の課題解決にP2Mを適用してもらう素地を作ることが大切であるからである。

以 上
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