例会部会
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第162回 例会報告

例会部会 生越 直人 [プロフィール] :7月号

【データ】
開催日: 2012年5月25日(金) 19:00~20:30
テーマ: 顧客のワガママを体験するプロジェクト
~ 学生による学内業務支援システム構築の取組みと効果 ~
講師: 東京都市大学 環境情報学部 准教授 大谷紀子氏

~ はじめに ~
 今回の例会では、東京都市大学の大谷先生より、学生による学内業務支援システム構築の取組みと効果についてご講演頂きました。
 大谷先生が学内の業務の中でシステム化が有効であり、且つ教え子たちの学習になるシステム開発、つまりプロジェクトとなる課題を決定し、学部4年生が仕様を設計し、学部3年生がシステムを構築するという取組みについてお話を伺いましたので、以下にご紹介致します。

~ 講演概要 ~
【大谷研プロジェクト】
 東京都市大学の環境情報学部には、環境情報学科と情報メディア学科があり、「職員」「教員」「学生」という構成員がいる。
 この学部は、新しい取組みへ意欲的であり、キャンパスの立地が遠隔地のため教職員が密接な関係である。そのような環境の中、大谷研では2004年度より以下の目的のため
大学
  「職員」「教員」「学生」の作業の効率化
  省資源
大谷研
  プログラミング能力の向上
  コミュニケーション能力の向上
  システムエンジニアの疑似体験
  職員との交流
学内サービスシステムの構築を行うプロジェクトを発足させた。

【プロジェクトの関係者の役割と進め方】
 「職員」「教員」が発注者でありシステムの利用者、つまりお客様となる。
 就職先が決まった学部4年生がボランティアで仕様を設計し、学部3年生が必修科目である「事例研究」の一環としてシステム構築を行う。
 大谷先生は、課題を発掘すると共に、学生たちが卒業した後のシステムの後処理を全て行っている。

 大谷先生が発掘した案件を4つのモジュールに分割し、学生たちは自分の担当モジュール+αを作成する。作成された各モジュールを集め、コンペで最良のモジュールを選抜、統合してシステムを完成させる。
 このプロジェクトの中で、学部3年生は「情報の又聞きによる内容の変化」「顧客のわがままさ」「コンピュータに長けていない人への話し方」等を体験し、コミュニケーションマネジメントについて学習する。

【プロジェクトの実績】
●事例1. 図書館Webページにおけるオンラインシステム:運用終了

●事例2. 夜間休業日研究室教室等使用願申請システム:運用中
紙ベースでの申請手順:今までの申請手順
「学生」 窓口に申請書用紙を取りに行く
  必要事項を記入する(事務保管用と警備員用に同じような内容を記入)
  指導教員の印鑑をもらう
  窓口に提出する
「職員」 申請書をコピーして申請者に渡す
  申請書の下半分を警備員に提出する
システムでの申請手順
「学生」 システムに必要事項を入力して送信する
  職員宛、指導教員宛にメールが届く
「教員」 メール(②)に返信する
「職員」 職員宛に教員の許可/不許可のメールが届く
  メールに記載されたURLにアクセスする
  申請者に申請受付完了メールが届く
  印刷用申請書の下半分を警備員に提出する

 紙ベースでの申請手順も残し、システムでの申請手順と両方で運営している。現在の利用状況は、ほぼ半々である。
 季節ごとに異なる背景を表示するという、教職員からの依頼ではなく、学生が自ら考えて提案したアイディアが組み込まれている。

●事例3. 総務課のためのアルバイト情報管理システム:運用終了

●事例4. 事例研究配属志望調査:運用中
紙ベースでの手順:今までの申請手順
「職員」 予備調査用紙を配布する
「学生」 志望研究室を記入して窓口に提出する
「職員」 結果を集計して提示する
  本調査用紙を配布する
「学生」 第1~5志望の研究室を記入して窓口に提出する
「職員」 結果を集計し、調査の結果を掲示する
システムを利用した手順
「学生」 予備調査システムで志望研究室を送信する
「職員」 システムによる集計結果を印刷し、掲示する
「学生」 本調査システムで第1~5志望の研究室を送信する
「職員」 システムによる集計結果を印刷し、調整を行う
  システムによる調整結果を印刷し、掲示する

 学生にとっては、予備調査や本調査の期間内の訂正が可能になる、他の学生の志望状況の把握が可能になるというメリットがあった。
 職員は、集計作業の負担が大幅に軽減され、今後も不可欠なシステムである。

●事例5. 進路/内定状況登録・閲覧システム:運用終了
 職員にとっては、資料作成の手間が軽減される、紙の使用量が削減されるというメリットがあった。
 学生は、「記入欄が多く面倒くさい」「内定を知らせる義務はない」ことから、あまり使用されなかった。

●事例6. イベント企画・応募システム:正式採用に至らず
教員からの「地域コミュニティの活動に使用したい」という依頼により新規開発
「イベント企画者」 イベント情報を登録
「イベント参加者」 自分の興味に関するキーワードを登録
  イベント情報をメールで受信

 システムは完成したが、依頼した教員の気持ちの変化からシステムは稼動していない。

●事例7. 共通予算管理システム:正式運用に至らず

●事例8. 企業研究会運営支援システム:運用準備中

【プロジェクトの効果 ~学生~】
知識と技術の習得は、もちろん行えた
グループ作業を配慮したプログラミングを行うようになる
グループ作業に必要な能力を獲得した
コミュニケーション能力、プレゼン能力が向上した
「満足してもらう」ということの難しさを経験した

【まとめ】
 学生たちは、初めのころ「仕様書への固執」「顧客への不満」を持っていたが、顧客(教職員)とやり取りしているうちに、「こうした方がいいと思うのですがいかがですか」と改善点の提案をするように意識が変化した。

 運用に関わるさまざまな障害も有益な教材となり、学生の教育に非常に効果的であった。
 成功のカギは、システムを必ず使ってくれる顧客をみつけること!である。

~ 感想 ~
 講演終了後のディスカッションでは、プロジェクトマネジメント実践者である受講者からは、
システム構築時には、セキュリティの対応を行った方が良い
他人が作ったプログラムを読ませる訓練を行った方が良い
といった具体的な改善点のアドバイスを頂けました。
 受講者は、学生がどのような経験や教育を受けて社会人になるのか知ることができ、講師は、プロジェクトマネジメント実践者から直接アドバイスを受けることができました。
 通常の例会ではあまり行われていない、講師と受講者の双方向での意見交換もあり、お互いにメリットのある例会であったと思います。

 また、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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