今月のひとこと
先号  次号

ホタル讃歌
The Lost World…?

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :7月号

 どうしてホタルに惹かれるのでしょう・・? ホタルについては原初的体験があります。
生まれ育った田舎は、復活を願って止まない、人里そのものでした。山麓の原野と自然林を裏山にして、眼前には青々とした水田が広がり、その中を豊かな清流が流れています。何百年もの間、自然を損なわずゴミも出さず、営々とした自給自足的な人里の営みがありました。日がな一日、虫や魚を追い求めて過ごした幼年期の想い出は、年と共に却って鮮やかに蘇ってくるようです。
初夏には、人里のシンボルであるホタルが乱舞します。それも半端な数ではありません。
夜を待つと辺り一帯が無数の淡い光におおわれ、無音のシグナルが秩序なく交錯し、やがて点滅が揃うようになります。自然界のこの不思議は幼心を魅了します。この光が恋のシグナルと知る由もありません。さらに命尽くした火は子供を包み込み、幻想の世界へ誘います。どこへ導かれるか解らぬ怖れを抱きつつ、来迎の誘惑に駆られしばし夢中になると、いつしか水の中にいる自分に気づくのです。そこに涅槃の火を垣間見たようにさえ思います。

その後帰省する度に、変わりゆく故郷は寂しい限りでした。原野山麓に道路が入り、水田や川は人工的なものに作りかえられてゆきます。機械化が進み、農薬で蛍を始め多くの生き物は姿を消してしまいました。豊かさと共に、人間はゴミを出す動物へと変質してゆきます。人里としての故郷は失われ、想い出は風化し始めました。たかだか50年の間の出来事です。そして今又、自然への回帰、自然との共生が問われ始めています。忘れていたものを思い出しながら、時にたたずみ模索するのは、ゆるやかな眺め穏やかに深まる世界のかたちです。

 現代という時代は、その誕生以来、拡大につぐ拡大を続けてきた人間圏が巨大になりすぎたため、人間圏を成立維持させている地球システムに負のフィードバック作用がかかり始めた時代といえると思います。自然と対峙することで、この拡大を追及してきた欧米文明的アプローチへのアンチテーゼとして、自然と人間を一体不可分なものとして、大自然の中で「共に生きる」という日本的アプローチが見直されつつあります。そのような意味で、環境と共に生きる21世紀は、日本の世紀にではないでしょうか? 一度壊したものを修復するには、その数倍のエネルギーと時間が必要だと言われますが、我々には未だ人里やホタルの記憶が残っています。

       彼岸にて
          見えたる光
              消えぬ間に

 東日本大震災から3ヶ月が過ぎました。被災された方々は、家を失い、家族を失い、仕事を失い、・・・全てを失いながらも、必死の復興作業に取り組まれています。その復興が「自然との共生」に根ざした、人里創りであって欲しいと思います。一方、支援する側の政治行政のドタバタ振りには目を覆うものがあります。この日本の意思決定、ガバナンスの劣化はどのように回復すれば良いのでしょうか。 結局、社会の土台はそれを構成する人間次第ということになります。その意味で、被災地には21世紀的「人里の復興」を、支援する側には日本的「心の復興」が求められているようです。ここにP2Mは貢献できると期待しています。
ページトップに戻る