関西P2M研究会コーナー
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WG(不確実性のマネジメント)に関連して

上原 賢明 [プロフィール] :5月号

 最近の新聞や雑誌の見出し等にも、プロジェクトの特徴のひとつである「不確実性」という文字をよく見かける。グローバル競争の激化・戦略的パートナーの多様化・想定しなかったような異業種からの参入等により、様々な局面で不確実な状況下での推進が求められている。不確実なものを成功に導くには、どうすればいいだろうか? ひとつの方法は「不確実性の低減」、つまり見えなかったものを見えるようにすることであり、そのためには「必要情報を入手する」ことである。もうひとつの方法は「不確実性にうまく対応すること」であり、不確実性を前提に対処するには「柔軟な対応がとれる」「周囲を巻き込める」などの組織能力が重要になってくると考えられる。

 前者の「情報が見えない」状態には、「内部に情報が無い」ケースと「内部に存在するが見えていない」ケースの2通り考えられる。内部に無ければ外部からということになるが、この場合「どの情報を入手するか」という知識ビジョンと外部とのネットワークが重要になってくる。内部に存在する情報に関しては情報共有することが重要であるが、表面的な理解だけでは深耕にレベル差が発生してしまうため、バックグランドの理解も含めた認識(知識)レベルまでが共有されて、組織としての行動につながる。

 後者の「柔軟な対応」や「周囲の巻き込み」には、ローカル(小さな単位の現場)で判断・行動できる自律や周囲の組織間の相互理解・目的への共振などが必要である。また、このローカルでの判断・行動は全体最適と一致していないと不確実なものにうまく対応することはできない。全体最適と一致させるためには、社会環境やトレンドに関する認識共有が、ここでも必要になってくる。

 以上のようなことを、関西P2M研究会のひとつのWGで議論・検討してきたが、ここで全体最適とは何かを考えてみる。一般的には企業収益が評価基準と考えるケースが多いかもしれないが、必ずしもそうでないケース・組織も少なくない。例えば市役所やNPOの全体最適は、収益ではないだろう。全体最適は、その組織が持つビジョン・価値観・考え方によって異なってくる、優先される評価基準が左右されてくると考えられる。
 
 「日本の持続的成長企業(2010.7.22 東洋経済新報社)」によると、持続的成長企業には3対の相反する価値基準(社会的使命の重視/経済的価値追及、共同体意識/健全な競争、長期指向/現実直視)が存在し、これらを両立・バランスさせている、と論じられている。うまく両立・バランスさせることで、どの項目も取り込んだ価値基準が形成され、組織風土となって行動につながる。その組織の価値基準がローカル(小さな単位の現場)まで浸透し、判断・行動に結びつくことで、その組織にとっての全体最適を作り出していく。

 この価値基準は、「企業理念」や「行動指針」という形で表現されることが多いが、文書化された理念や指針で価値観や考え方が形成されるだろうか? もちろん文書化されていないと形成されにくい面はあるが、文書化されていても上位や周りの行動が伴わなければ価値基準として形成されていかない。理念で社会的使命に重点があっても上位の誰もが収益重視となると、その組織の価値基準はその方向にぶれていく。特に日本の場合は周りとの関係を重視するために、この傾向になりやすく(法律より怖い「会社の掟」、2008.4.20 講談社)、勧められるままに受けると失礼になるといった文化まである。つまり、表面的な文書によってではなく、その組織の個々の行動や上位・周囲の人の考え方によって価値基準が形成されていくと考えられる。そして、その価値基準がその組織の全体最適を決めていく。

 従って、ローカルでの判断・行動が全体最適と一致するためには、どれが(何が)全体最適かを決める価値観・評価基準の認識共有が必要であり、その実現は一朝一夕のものではなく、価値基準を形成する日常の行動の積み重ねであると思う。また、この認識共有(積み重ね)の深さが、不確実性に対応する判断・行動の迅速性を左右していくのではないだろうか。

以上
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