PMP試験部会
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「組織体の環境要因」を理解するには

研修第2部会 松浦 活盛    詳しいプロフィールは: こちら [プロフィール] :9月号

『文明と文化の違いは何でしょうか?』

筆者は上記のような質問を先日受けたが即答できなかった。
まず答えを言おう。
文明とはデジタル的、論理的、意識的、定量的で学び、真似ることができる事,大量生産可能で広がりやすいこと。
文化とはアナログ的、経験的、無意識的、定性的、職人技で真似ることが難しいこと、広がりにくく障壁になりやすいこと。
であるそうだ。

PMBOKは乱暴に言うと「文化」ではなく「文明」だ。体系的に整理されており学び真似ることができる。PMBOKを理解したプロジェクト・マネジャーは大量生産されている。
一方で、プロジェクト・マネジャーはプロジェクトの現場で組織の文化と対峙しなければならない。これは場合によっては体系的な知識に対立的だ。組織の文化は異文化で育ったプロジェクト・マネジャーの障壁になりうる。プロジェクトマネジメントは文明を以て文化と対峙する作業、とも言えるのではないか。

実際にPMBOKでは文化との対峙をどのように表現しているだろうか?
PMBOKを読んでいると多くのプロセスで「組織体の環境要因」がインプットとなっていることに気づかれたことがあるだろう。筆者はこの「組織体の環境要因」をインプットとしていることが、文明的なPMBOKが文化に対峙する姿勢の現れだと理解している。

PMBOKは文明的なものであるから、スケジュール管理やコスト管理といった論理的、定量的なものは詳しく記述されているが、「組織体の環境要因」といった文化的なことは記述が薄いようだ。今回はPMBOKにはあまり詳しく書かれていない「組織体の環境要因」の理解の方法について二つの具体的な考え方を紹介したい。

1. ヘールト・ホフステードの文化の多様性
最初は「ヘールト・ホフステードの文化の多様性」である。ホフステードは、組織の文化を2つの要素から成り立つものと定義した。1つは中枢にある目に見えない価値観、もう1つは表層にあってある程度目に見える有形の要素で、一般に慣習と呼ばれるものとした。この文化を具体的に測る尺度として以下の5つの「次元」という考え方に整理した。

(1) Power Distance Index (PDI) 権力の格差指数
(2) Individualism (IDV) 個人主義対集団主義
(3) Masculinity (MAS) 男性型対女性型
(4) Uncertainty Avoidance Index (UAI) 不確実性の回避
(5) Long-Term Orientation (LTO) 長期的志向対短期的思考

判りやすい例を挙げよう。
昨今、不祥事でマスコミを賑わせている某スポーツ協会はどうだろうか?

・ PDI 高い
・ IDV やや低い
・ MAS 高い
・ UAI 低い
・ LTO 低い

上記は筆者の主観によるスコアである。

実際のホフステード次元のスコアは、組織に属する人に対して質問をすることで得るのであるが、実際にそれが出来るとは限らない。その場合は当事者が主観でスコアを付けるしかないのであるが、他の組織のスコアと比較することで当該の組織の文化の特徴を理解する助けにはなるだろう。

ホフステードは多国籍企業に所属していたので、世界各国の社員へのアンケートを収集することにより、国ごとに上記の各次元の大小を比較できるデータを収集した。ホフステードは国ごとの文化の違いを測ることを目的にこの考え方を考案したと思われるが、この考え方自体は国という大きな枠にだけ適用可能なものではなく、会社や個々のプロジェクト組織にも適用可能なものである。特に異なった企業に外注のプロジェクト・マネジャーとして参画される機会がある方は、その企業がどういう文化を持っているかを分析する際に、この5つの次元の考え方を適用すると良いと思われる。

なおこの考え方については1995年に出版された「 多文化世界−違いを学び共存への道を探る」を参照されたい。

2. 高橋克徳氏の組織感情
次は高橋克徳氏の提唱する「組織感情」という考え方である。

「組織感情」とは
・ 快感情と不快感情という感情の種類の軸
・ 活性と鎮静というその感情の高まり度合いを表す軸

という、2つの軸がある。これによって、
・ イキイキ感情
・ あたたか感情
・ ギスギス感情
・ 冷え冷え感情

という4つの組織感情に分けられるという考え方を高橋氏は提唱している。

この「組織感情」の考え方は、ホフステードの考え方と同様に「組織体の環境要因」を評価するのに有効であるが、より現場に近いチーム・マネジメントなどの実践において有効な考え方であろう。

より詳しくは高橋克徳氏の著書である「 職場は感情で変わる」を参照されたい。

ここで紹介した2つの手法は、PMBOKの「組織体の環境要因」を分析する手法と考えることができる。また高橋氏の提唱する「組織感情」の分析手法は、知識エリアでいうと第9章の「プロジェクト人的資源マネジメント」の9.2 プロジェクト・チーム編成、9.3 プロジェクト・チーム育成、9.4 プロジェクト・チームのマネジメントあたりのツールと技法としても活用できるのではないだろうか。

以上、PMBOKでは比較的詳しく記述がない部分について、具体的な手法を2つ紹介した。参考にして頂ければ幸いである。
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