宇宙ステーション余話
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「国際宇宙ステーション余話」

長谷川 義幸:6月号

第 8 回

国際宇宙ステーションは、宇宙空間を飛行する閉鎖空間で上下感覚がなく、昼夜が90分おきにくる無重量状態で長期にわたり生活すると、生活リズムがくずれ心身に異常がでます。 24時間、逃げ場がない搭乗員にとって、騒音は精神的な落ち着きに影響を与え肉体的に影響を与えるため1999年より本格的に宇宙で組立てが始った段階で大きな問題となりました。これを避けるためには人間生活を営む環境が求めら、仕事空間とリラックスする空間とわけて生活のリズムを保つ設計と装備が必要になりました。居住性やアメニティーを引き出す空間の広さ、音の静かさ、照明や色の配慮等を宇宙ステーション全体の設計として配慮した人間工学の要求を参加国に課しています。国際宇宙ステーション船内は、ジャンボジェットの1.5倍程度もあり居住空間と仕事場が分かれたゆったりした宇宙空間です。しかし、残念ながら気分転換に外の空気をすって散歩と、いう訳にはいきません。外は真空なのですから。ですから、音の静かさは重要な課題なのです。

■ ロシアモジュールは騒音がひどかった
 国際宇宙ステーション建設初期のころ、ロシアの居住・実験棟は騒音がひどかった。放射線と騒音は医学的な問題である。放射線の防護ではロシアの居住/実験施設はいいが、騒音が酷く、ファンが音源である。多くの宇宙飛行士が一時的な難聴状態になっていた。空気を循環させるファンの音が主原因であった。暫定的な対策として耳栓やノイズキャンセルヘッドフォンが考えられたが、ノイズキャンセルヘッドフォンは静かになるはいいが、警告・警報音が聞こえなくなることから、睡眠中耳栓をしていた。 しかし、長時間耳栓をしていると、外耳炎等を起して感染源となることがあるのです。 これでは、宇宙ステーションの音響の技術要求を満たしていないので、NASAは騒音軽減対策をとるように要求したが、ロシアはそれを望まず、NASAがロシアに金をだすように望んでいる状況も事態を複雑にしていた。 船内の騒音は、飛行士のストレスになったり、モティベーションの低下や疲労となり、集中力が低下するので、交渉の末、ロシアは防音材を宇宙ステーションに打上げて、ロシア施設の防音工事を行うことにし対策を施することになった。そして、現在ではそれなりの状態になっています。

■ 米国実験棟も騒音が高いが、日本実験棟は静か。
宇宙で運用を開始したロシア施設で騒音レベルが相当高かったため、国際的な重要な問題として騒音要求を満足させるように他の施設に対して水平展開がなされた。国際宇宙ステーションの騒音レベルは、一般の静かな事務所と同程度のレベルにしなければならない。実験施設には、空調システムがあり、空気循環ファンやポンプのような回転機器があり、空気放射音や入口や出口ダクト内の空気伝播音および振動音が騒音源となっている。この空気循環ファンを作っているのはNASAの契約業者であるハミルトンスタンダード社であり、宇宙ステーション共通品として認定されているが、ファン自体の騒音が高いにも拘わらず、騒音が大きな問題である意識が薄く、宇宙施設の全体システムとして対応せざる終えない状況となった。空気循環ファン、除湿用水分離機や熱制御装置の冷却水循環ポンプに対しては、吸音材や遮音材張ることにより対応。また、入口や出口ダクト内の空気伝播音および振動音対策として、サイレンサを設置、さらに、キャビンエアダクトにハニカム構造と多く穴のあいた板を設け吸音構造にして伝播音の低減を行った
現在では、国際宇宙ステーションの中で一番静かなのは、日本実験棟となった。宇宙ステーション騒音技術要求をすべて満たしている。他国の宇宙施設では、米国実験棟は、2KHz付近で8dBほど仕様をオーバー、ロシア施設では、1KHz付近で9dBオーバーしている。米国実験棟の騒音は、空気循環ファンと冷却水循環ポンプの音が主な原因であることが分っているのだが、仕様をオーバーしたままの状態でウエーバー(要求事項の義務免除)を提出し承認されている。

■きぼう実験棟に寝床を仮設置予定
日本実験棟が静かであること、および、広いので、NASAから寝床を一時的に設置できないか、との依頼がきてNASAと調整している。国際宇宙ステーションは、現在3人が常駐しているが、来年春には6人常駐体制となるため、宇宙飛行士の寝床を追加で確保する必要があるのす。 最終的には第3結合モジュールに、空気再生装置と寝床が設置されるのですが、スペースシャトルの打上げの順番から2009年後半となるため、その間、分散して寝床を確保することになりました。その1つを、日本実験棟に暫定的に設置したいとの意向です。  国際宇宙ステーションでは、居住施設でも実験施設でも同じで安全要求仕様も人間工学要求も同じで、きびしい要求があります。日本実験棟は、騒音低減要求も、空調要求もすべてクリアしていますので、寝床を設置できる環境はすでにあります。しかし、寝床に特有のサービスコンセントや、内部照明等の準備はいりますが、軌道上で設置することでできるので、問題はありません。壁も床も白い塗装で非常にきれいだと、非常に静かな室内を含めて宇宙飛行士の評判も良いようです。

■まとめ
これまでの宇宙船は操縦する部分のみで、機能性や安全性に重点をあてた機能空間でした。人間は目的を達成するための機械の一部だったのです。スペースシャトル船室でも6畳程度の広さでした。宇宙ステーションでは、音は静かさでプライベートな個室でDVDをみたり、本を読んだりしてリラックスできるように配慮されています。そのうち、カラオケを地上と宇宙で接続しデュエットや合唱を行うことも技術的には可能です。あるいは、茶室や禅寺のような気持ちを落ち着かせる空間として、忙しい業務の合間にこの静かな空間を使用することも将来可能です。このように宇宙船には騒音の防止だけでなく宇宙飛行士の心理的な面を考慮した人間工学の設計が必要なのです。
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