先月号 次号 松尾谷徹 :12月号

反応・強化理論 〜持続するメカニズム〜

 先月のお話は、「アドベンチャーには人を育てる不思議な力がある」ことを紹介しました。メンバー同士が助け合いよい関係を作ることは、意外に簡単にできます。良い関係がさらに発展し、チームの文化として定着し維持できれば、チームビルディングは大成功です。定着し維持するとは、人の行動から考えるとどんなことなのでしょうか? この特性は反応理論、強化理論と呼ばれ研究されています。
 逆に、メンバー同士の対立感情が生ずる「騒乱期」が続くのも、定着し維持する特性と考えられます。そうすると、維持しないような対策(消去)が必要になります。この場合も、強化理論を使って考えることができます。梅干しのことを考えただけで、唾液が出る、喫煙や飲酒などの嗜好、癖なども心理学では、反応理論あるいは強化理論によって研究されています。

 モティベーション理論の中では、ポーターの期待理論が良く知られています。人事評価など企業のインセンティブシステムは、この理論に基づいて作られています。将来のご褒美(ボーナスや昇給や昇格や他者から認められること)を期待して人は頑張る(モティベーションを抱く)システムです。期待理論では、努力すれば高い報酬が得られるという、将来の期待が人を行動に導くと考えているのとは逆に、反応・強化理論は、過去が行動を規定していると考えます。

 どちらが正しいかではなく、期待理論も反応・強化理論も共に成立しており、人の行動は多様です。反応・強化理論は人間だけでなく動物においても成立します。梅干しと唾液のような反応は、古典的なパブロフの条件付け実験(犬が音叉に反応して唾液が出る)が知られています。

 子供の頃、犬に咬まれるなど、突然思いがけなく痛いめに会うと、一回だけの出来事で条件付けが成立し、トラウマとして長期にわたり、強い影響を残します。一方、良いことをして両親から賞賛されることは、弱い刺激ですが、これが繰り返されると、どんどん強化され、同じように強い影響を与えるようになります。

 このような簡単な刺激と反応の蓄積性特性を越えて、深い考察を加えたのがジョン・ダラーとニール・ミラーです。彼らは、人の発育過程にこの理論を用い、「動因」「手がかり」「反応」「強化(報酬)」と呼ぶ一連のプロセスを使って説明しました。空腹の赤ん坊が泣く(反応)のは、空腹(動因)を解決するプロセスとして、手がかり(泣いたときの感覚)→泣く(反応)→ミルクをもらう(強化・報酬)が確立していることです。泣かなくても別の反応で、たとえば口を動かすなどによって(手がかり)ミルクを得られれば、口を動かす反応と報酬が結びつき強化されます。

 ジョン・ダラーとニール・ミラーは一連の研究の中で、人間の発達過程と社会行動において、人は「手がかり」を模倣言語を用いて学習することを明らかにしました。さらに強化理論は「良心」「あまえ」「独立心」「タブー」「攻撃行動」などさまざまな人の行動規範や民族の差を説明しました。

 前置きが長くなりましたが、チームの良い状態、良い文化とは、メンバーが共有する「手がかり」に相当します。チームの中でメンバーは、共有された「手がかり」を通して行動(反応)すれば、チームの秩序が保たれます。チームの文化として維持できるのとは、その「手がかり」が良い結果(報酬)と結びつき強化された場合です。報酬は、ちょっとした挨拶であったり、メンバー同士の助け合いや賞賛など気持ちよく仕事ができることです。

 冒険学習は、初対面のチームであっても、冒険体験を通して、共有された「手がかり」のトリガーを与えてくれます。その後、「手がかり」→反応→報酬と廻れば強化され、チームビルディングは維持されます。これは、気持ちよいチームの成功体験を持つことを意味します。チームビルディングのトリガーとして、冒険学習のような手法は大きな意味があると考えております。