先号 次号 白井久美子 :11月号

変革型PM(第7回)
変革型PMでお受験にチャレンジ(続編)


前回までで小学校お受験プロジェクトにおける変革型PM体奮戦記ということで、戦略マネジメントに始まり、プロファイリングマネジメント、アーキテクチャマネジメント、プラットフォームマネジメント、プログラムライフサイクルマネジメントについてご紹介した。
今月は、お受験プロジェクトの実績を記し、価値指標マネジメントの観点から評価する。プロジェクト実施がもたらした価値創造についても振り返ってみたい。

★お受験プロジェクトの実績
 私立2校と国立3校、計5校の小学校を受験し、結果は3勝1敗1不戦。詳細は後述の通りである。受験した学校のほとんどは、いずれも学校側の教育方針や校風が自分の家庭の方針とほぼ合致していて、子供を健やかに伸ばしてくれそうな学校、そして何しろ一緒に通勤・通学ができる立地にある学校であった。しかしながら、会社がある方面とは全く逆方向にある学校なのにタラレバで受験した例外校も中にはあった。子供には余計なトライをさせてしまい、今も申し訳なく思っている(苦笑)。

1)私立 F小学校
難関とされる名門女子校で、母親が卒業生でないと99%合格は不可能と噂されている学校。本人曰く、考査で失敗はなかったと言っていたが案の定不合格。一発目の不合格校だったのでショックは大きかったが、できれば共学のほうがいいなあ、と思っていたのですぐに気持ちを切り替えた。後でわかったことだが、噂は限りなく真実に近かった。

2)私立 W小学校
 W大学の附属校ではないと言いながらも大多数の卒業生は系列の中・高・大学に推薦入学する?!という話が広まり、この年新設されたW小学校への受験人気は異常に高かった。通勤方面とは全く逆の立地にあるのに、大学まで続いている?のなら・・・とつい親バカで受験したくなって受けてしまった。現在の倍率は13倍と記されていたが開校元年の筆記試験は20倍(1650人受験)だった。信じられないことに、みごと合格はしたのだが・・・結果的にはやはり自分のお受験ポリシーと反するこの学校を選択することはなかった。お受験プロジェクトの最終目標は『母子で一緒に通勤・通学して毎日短時間でもいいから娘と共有できる時間と空間を手に入れる。』であった。

 今でも鮮明に覚えている。この学校の考査ではこんなことがあった。考査から戻ってきた娘は、誇らしげにこう言った。
 「すごく楽しかった!鬼ごっこやったの。私、一生懸命走って最後まで捕まんなかったの!」
ふと見ると、きちんとした身なりで出て行ったはずのわが子・・ポロシャツのすそが全部キュロットの上に出ている。いくら鬼ごっこをして全速力で走ったとはいえ、こんな格好になるはずがない。やっちゃったなぁ〜と思いながら私は聞いた。
 「ねぇ、どうしてシャツが上に出ているの?ちゃんとシャツをしまっとかないとだめじゃない。」
「途中でお手洗い行って・・・早くお教室に戻りたかったから・・・。」と、出ているシャツを見ながらわが子は少し反省した様子。次の瞬間「でもね!私、ちゃんと手を挙げてお手洗いに行ってもいいですか?って聞いたし、手だってちゃんと洗ったのよ!鬼ごっこで最後まで捕まんなかったのは私だけなんだから!それに○□△・・・」
 と、身なりがくずれているという指摘をかわし、自分はベストを尽くしたのだと言わんばかりだった。鬼ごっこで最後まで捕まらなかったことを勲章にしたいわが子の高揚した気持ちをへこませてはいけないと思った私は、その後はとがめず微笑んで聞いていた。シャツをしまい忘れたことよりも、素直に意思表示し、全速力で走り、遊びに集中した彼女の子供らしさを評価してもらえたらいいなぁ、と思いながら・・・。

3) 国立 G大附属O小学校
 一次抽選ではずれ、あっけなく終わってしまった。どの国立もまず一次抽選を通過しないことには考査に進めないというシステムになっている。この学校も本来なら受験対象とすべきではなかった。通勤方面とは逆方向にあったからだ。しかしながら、自宅の最寄駅から一駅しか離れていない近場にあったのでつい・・・。

4)国立 O女子大附属小学校
 一次抽選は、女子だけでも2000名?近くの志願者がいて、たったの150人しか通過できないというまさに宝くじ級の"運"が試された。一次抽選大当たり!二次考査の筆記や実技試験では、さらに150人から50人のみが選考される。結果、合格。夢のような結果に娘と飛び上がって喜んだ。

 この学校の考査の後にも忘れがたいこんな出来事があった。
娘「先生はみんなやさしくて、とっても楽しかった!お昼寝ごっこもしたの!あ、そうそう。袋の中身はなんですか?って聞かれたから、玉ねきの赤ちゃんです!って答えたの。そしたら、先生が『そっかぁ・・ちょっとこれは小さめだったからな・・。じゃ、こっちはどうかな?大人だよ!?』って、もう少し大きいのを出して見せてくれたの・・。」
私「で、どうしたの?」
娘「思いっきり大きな声で、玉ねぎの大人です!って、答えた。」
私「先生、どんな顔してた?」
娘「ニコニコしてた!」
私「その後どうなったの?」
娘「次のコーナーに行って、さっきのものを育てる道具を選びましょう、って言われたから、植木鉢とシャベルと・・あとジョウロも選んだ。あってる?!」
私「・・・。」
気絶しそうだった。娘が見たものはチューリップの球根だったに違いない。ついこの間、庭でチューリップの球根を一緒に植えたばかりだったというのに・・・。

5)国立 T大付属小学校
 共学で勉強も運動も非常に熱心な小学校ということだった。考査の時、スピーカー片手にいかにも体育会系という感じの先生が『運動場には革靴ではいらないでください!』と父兄に向かって厳しく注意していたのが印象的だった。とてもきびきびした感じがあった。

 考査時間中、母親は講堂で待機する。そこでふと目にした先生と在校生とのちょっとしたやりとりを見ていて、私はこの学校の雰囲気をとても懐かしく感じた。いったいどんな様子を目撃したかというと・・・
「これはどこに置いたらよいですか?」
と、質問する在校生に対して先生が、
「あそこに置いておきなさい。」
と指示。在校生は、
「はい、わかりました。」
と返事をして、すぐさま指示通りに行動をした・・・という、ほんのちょっとしたやりとりである。
そんな日常的な先生と生徒との短いやりとりではあったが、私はとっさに次のことを感じとった。

先生と生徒との間に高い信頼関係があり、生徒が先生を心から慕っている、尊敬しているという姿勢がある。
返事の仕方や立ち振る舞い、迅速な動作からして、普段からのしつけが行き届いている。この学校は、礼節をわきまえた行動ができる生徒を育んでいる。
先生も生徒も動作がきびきびしている。時間に厳しそうである。

 学生時代はずっと体育会系育ちであり、今や企業の経営者である私は知っていた。そうした一瞬の日常動作であっても普段から厳しくしつけられ、常にきちんと振舞っていないと、人間ある時だけ急にきびきびとした動作では振舞えないものだということを。
 拝見した場面は一瞬の出来事であって、それが総てではないということは重々承知の上で、そんな体育会系っぽい厳しそうな雰囲気をとても懐かしく感じ、惹かれてしまったのだった。

 幸運なことに1次抽選通過、考査も合格、2次抽選も通過・・・ということで、現在娘はこの小学校に通わせて頂いている。あの時の私の直感は当っていた。一言では言い表せない多くの素晴らしい伝統と学びの場がある小学校に入学することができて本当に幸運だった。子供と共有する時空確保を実現する夢が叶った。

★価値指標マネジメント
 価値指標マネジメントとは、ミッションが要求する価値というものを指標化して、プログラム全体の活動を通じて、計画時、変更時、中間時、終結時など定期的にプログラムの価値指標による計測を行い、プログラム価値の維持、向上を図るアセスメントの実践能力のことである。
 お受験プロジェクトによる価値形成を、私は次のように捉えている。
1.有効性
 知育、徳育、体育をバランスよく行うことができた。思考力、数量概念、判断力、比較力、推理力、洞察力、記憶力、創造力、言語力、巧緻性、常識、絵画力、模倣力、規則性発見力、観察力、音楽リズムなど非常に多くの分野で可能性を引き出すことができた。
2.効率性
 仕事、育児、家事の3方面での自分の時間の使い方を見直し、改善し、それぞれの領域での作業効率を向上することができた。どの領域でどの程度の効率向上があったのか、数値表現することは難しい。しかしながら、それぞれの領域で残した結果が、自分の時間の使い方の効率性、パフォーマンスを実証したと考える。
3.獲得価値
 お受験プロジェクトの最終目標である"小学校入学以後、毎日、母子で一定の時間と空間の共有をはかり、会話を通したコミュニケーションを確立する"を達成できたことである。母子のコミュニケーションのことばかり書いてきたが、父子はどうかといえば、父方の方は世間のお父さん並みの帰宅時間なので、夜寝る前や週末など子供とふれあう時間はあるようだった。実際のところ、自分は深夜まで家にいないことが多いので、父子の仲良しぶりは週末しか見ることができないのだが・・。
4.成果責任
 3勝1敗、1不戦。最終的には1校に入学することができればよいわけなので、成果責任は100%果したことになる。
5.収益責任
 ビジネスではないので収益はゼロ。コスト責任ということで費用面を振り返るに350万前後を投資したと言える。同じように小学校受験をした友人は、500万は費やしたと言っていた。こうした額を高いとみるか安いとみるかは人それぞれの価値観にもよるので、その良し悪しについては言及しない。私にとっては、何にもかえがたい娘との共有時間を毎日確保することに、そうした額の投資が多すぎたとは思っていない。
6.再利用性
 お受験ノウハウの再利用という点では、第二子がいないため再利用性ゼロである。しかしながら、母子で体験学習してきた様々な経験は、日常的なことも非日常的なことも総てが人間/人格形成の土台となるようなものばかりであって再利用性に富んだものばかりであったと考える。人生で再利用できる知識や知恵の基礎の基礎を獲得したことに意味がある。
7.倫理
 電車やバスなど公共の乗り物に乗る場合も、エスカレータやエレベータ、階段を利用する場合も、保育園の先生や隣近所の目上の人に挨拶する場合も・・・いつ何時でも親の姿勢は子供の良きお手本となっていなければならなかった。子は親の背を見て育つ、とはよく言ったもので、幼児には親の感性や言動が直接反映される。自分の社会倫理観が果たしてどのぐらい適正かは計り知れないが、人として生きていくのに必要な道徳・倫理を伝えることはできたと考えている。
8.環境
 食器の後かたづけや家の掃除、ゴミの分別やゴミだし、引き出しや戸棚の整理、庭の草花の手入れや、自宅前の公道の掃き掃除なども一緒にやった。環境保全や維持について考える機会をもつことは、お受験のためということではなく現代社会で生きていく上で必須の事項ではあるまいか。自分も他人も気持ちよく過ごすためにどんな事がされているとよいのかを、幼児の時期から普段の生活の中で体感することは、住み心地よい未来を創るために必要なことである。
 8つの観点からお受験プロジェクトを通じて形成した価値を記した。この他にもいろいろな無形価値の形成があったがこの程度の記載にとどめる。

 変革型PMは、最大使命を自ら定義し、ありのままの姿からあるべき姿へとシナリオを描き、戦略をたて、実現にむけその戦略を着実に実行する。変革に向けたしくみ作り、価値作り、人作りをドライブする。誰よりも元気で明るく、強靭なリーダーシップを発揮し、周囲をリードする。
お受験プロジェクトに変革型PM力を適用してみた筆者。変革型PM力はビジネスにおける価値創造だけでなく、お話してきたような人づくり、人生設計の局面でも活用できるものなのだ。


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●白井久美子プロフィール
●変革型PMが企業の活性化を実現する
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