「見える化」と「可視化」について
TPSに学ぶPM WG 主査:株式会社富士通アドバンストエンジニアリング 小原 由紀夫:9月号

 近年、キーワードとして「見える化」が使われることが多くなっている。同様な表現として「可視化」があるが、どこが違うのだろうか?「見える化」が生まれたトヨタ生産方式の考え方から、ITプロジェクトにおける問題の「見える化」を考察する。

 「見える化」と「可視化」は異なる。もし、同じであれば、より一般的な「可視化」のみが使われ、「見える化」を使わないはずである。「可視化」は人が情報を見えるようにすることであり、「見える化」は情報が人を駆動することである。見たい時は同一であるが、「見える化」は、見たくない時にも情報を見させる、見た後に行動させる、2点を強調していることが異なる。

 「トヨタ生産方式」の生みの親である、大野耐一氏は、著書の中で、「ムダは隠れてしまっている」と記している。ムダが自身で隠れる訳ではなく、人に隠されてしまうのである。「作り過ぎのムダ」では、「作り過ぎで生じた在庫(ムダ)を移動させることも仕事と見なされ、仕事とムダの見分けができなくなってしまう」のようにムダが隠されてしまうとしている。仕事とムダの見分けができるようにすることが「目で見る管理」である。ムダを見える化するために「かんばん」が生まれていったとしている。
 つまり、「見える化」とは、見たくない時にも隠れるムダが目に飛び込んで来るようにし、行動することを意味する。

 ITプロジェクトにおける問題の表現への「見える化」の適用を考える。問題は、単純化され、例えば、「要件が曖昧である」、「進捗が遅れている」など、「モノ+状態」の現象表現されることが多い。本来、ITプロジェクトの問題は、様々な要因のムダが絡み合っているはずであるが、単純化された現象表現の場合、それらのムダが隠されてしまっている場合が多い。問題を見える化するために、問題の詳細化と行動表現が必要になる。
 まず、問題を詳細化して、絡み合う様々な要因を紐解いていく。紐解く視点の2軸として、問題に至るプロセスを詳細化する時間軸と問題に関する専門性で詳細化する空間軸がある。そして、詳細化された問題から1つを選択して、分析を進める。残りの詳細化された問題全てが分析対象である。
 次に、現象を引き起こした私たちの行動が変えられる対象である。行動を焦点とするために、例えば、「私は、要件が曖昧のまま、設計してしまった」、「私たちは、計画より遅れて、テストをしてしまっている」など、「私たち+行動」の行動表現をする。行動表現により、「残念だった」、「悔しい」の思いが生まれる。この思いがムダを無くすための行動に繋がる。

 見えるようになった後の行動を焦点とするために、「可視化」ではなく、「見える化」が使われるようになってきたと考える。
 ただし、「見える化」を実践するためには、ツールだけでなく、ツールを支える人間系スキルが必須である。人間系スキルは、トヨタ生産方式で、「人づくり」と呼ばれている。私が主査をさせていただいている、TPSに学ぶPM WGでは、人間系スキルを焦点として研究を続けている。興味ある方は、以下を参照し、WGに参加されたい。
 日本プロジェクトマネジメント協会 ITベンチマークSIG内 TPSに学ぶWG
 また、近々のPMシンポジューム2009の2日目の「ITプロジェクトのためのなぜなぜ5回(階)」も参考にされたい。

以 上

<参考文献>
1.トヨタ生産方式  大野耐一著  ダイヤモンンド社
2.ザ・トヨタウェイ ジェフリー・K・ライカー著 稲垣公夫訳 日経BP社
3.トヨタウェイ 進化する最強の経営術  梶原一明著  ビジネス社