PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (43)

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 前月号で説明した失敗したプロジェクトの実例を失敗せずに終わらせるには「ゼネラルなプロ」だったらどのような工夫をして成功につなげたかを今月号で話をしてみたいと思います。
 この物語の前段については前月号を参照してください。すなわち、中央銀行との交渉時に会議場所の近傍で大きな爆発音と煙が立ち上がり、それが数度も発生し、どのような行動をPMは起こし、対応したか?から始まります。
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 デモは次の日も相変わらず中央銀行の側でやっていました。
 会議は引き続き行われ、最後にプロジェクトコストの交渉に入り、この頃には問題のSMSの提案と顧客要望との間に大きな食い違いが発生していることが明確になっていた。そのため、その条件についての打ち合わせに入ることになった。
 関連の話し合いが始まって少したってから会議場所の近傍で大きな爆発音と黒煙が立ち上がり、それが数度も発生した。
 この時、PMは冷静になって外の状況を見ると、まだデモはかなり離れたところであり、顧客の態度も一時より浮き足立っているような素ぶりはなかった。
 しかし、当方のチーム員はこのようなことは初めてのことであり、かつ昨日からの状況を見ているので不安も倍加し、冷静さを失っていた。
 PMはこのままだとまともな交渉はできないと判断し、顧客に対してこの会議を一時中断とし、デモの状況により再開と言う約束でホテルに戻った。
 幸いにも翌日には中央銀行からデモの鎮静化と会議の再開の連絡があり、チーム員の同意を取り付け中央銀行に出かけた。
 なお、提案時での競合相手については、この時、PMはすでに我々との競争相手の存在はすでにいないか、中央銀行側のブラフ作戦と確信し、少し強気の交渉に出ても良いと考えていた。
 結局は提案時の条件を満額回答ではないが飲んでもらい、Win-Winの関係で交渉は終わった。
 PMを中心とした交渉団は交渉終了後、中央銀行に丁寧なあいさつをし、日本に帰り、交渉の結果を待つことになった。
 そして、数日たたってから、中央銀行から契約したいとの連絡が入り、再度TH国に赴き契約調印を行い、そのまま基本設計に入ることになった。

 基本設計に入り数日たってから、顧客側の業務運用チームのトップが会議に初めて出てきた。そして、彼からは難題な要求が次々と出てきた。その中でも以下のような思いもよらないものもあった。

 例えば、
本システムは世界一のものにするため、アメリカFRBやイギリス中央銀行のシステムの調査をやってください
小切手システムの20年先を見据えた完全に電子化されたシステムの将来像も描いてください
本システムの最適性を検証してください
等々の要求が出てきました。

 我々としては寝耳に水の要求であり、スケジュールやコストにも影響がある、とこの基本設計が始まった段階でこの要求を呑むこと難しいと一旦は断りました。
 しかし、顧客との関係も今後の作業に影響もあると思い、「なぜ今になってこのような要求が出てきたか、またどのような目的なのか」をその場において確認した。
 中央銀行の説明内容を完全に理解し、それに対してチーム内で検討した結果、PMは以下のように中央銀行に説明し、納得してもらった。

の件は、我々としては全く連絡する手段も知己もないのでむしろ中央銀行側がそれぞれの中央銀行と関係を持っているので、我々の基本設計終了後にその基本仕様を送ってみてもらった方が良い。そして、基本設計終了後にそれを送りレビューしてもらい、我々にそのコメントを知らせる。一方、我々も世界一と言われている日本銀行のシステムも今開発中のものと同一なので日本銀行とも接触する。
という事で了解された。
については誰もが将来像はわからないし、全銀協やメーカとも相談し、彼らの意見も聞き、想像たくましくその将来像を何とか作成し、まとめ了解を得ることができた。
についてのシステムの最適性の意味の考えを聞いてみるとシステム導入前と後の経済最適性の意味を言っていることがわかりました。しかし、よく考えてみると基本設計を終了しないとメーンフレームを含むハードウエアー関係のコストもわからない。
また、中央銀行側の当該システムの導入前後の所要コストも早急にまとめることも難しいことの説明をし、必要な資料がそろったところでお互い協力の上行う事で了解された。

 このようにいろいろ曲折があったが、基本設計も無事完了し、その後は上記に示す問題もそれぞれ話された内容で中央銀行の協力のもと基本設計終了前に完了することになり、残った課題は詳細設計の段階で並行して検討することになった。
 このことでスケジュールやコスト面での問題も極小に抑えることができた。
 そして、以降に続く詳細設計、プログラミング、各種検査、運用試験と進み、プロジェクトの終結を迎えることになりました。

<コンピテンシーの発揮において失敗ケースと成功ケースの違い>
 このプロジェクトの失敗原因はPMの状況判断の稚拙さがすべての原因となっている。すなわち、失敗ケースの場合はデモの状況を自分の目で確かめ会議に大きな影響があるか、また、顧客の様子はどうか、そして一緒にいるチームメンバーの状況はどうかを見てPMは適切な行動をとる必要があった。
 しかし、失敗ケースの場合は状況確認もしないで、みんなと一緒に爆発音に浮き足立ち、この交渉を早く終えて安全な場所に逃げることに集中し、交渉を中途半端にして、まともな交渉もできずに終了してしまった。
 成功ケースの場合は失敗ケースの逆であり、冷静沈着に状況の把握を行い、会議の一時中断と後日再開の約束を顧客と行うといった行動をとり、課題の交渉の続行を可能にした。
 そしてこの交渉の時に重要な交渉項目としていたSMSの件も失敗ケースの場合は十分な議論もできず終了となったが、成功ケースの場合は顧客の弱点を感知して強気の交渉を行い、かなりの提案時の条件を飲ませることができた。すなわち、当初の競合相手がいないこともなんとなくわかってきていたのでSMSの交渉もじっくりと交渉し、すべての条件を満たすように強気で交渉できた。
 さらに、経済最適検討の件については失敗ケースの場合は思い込みによる先走りがあり、余計な検討で時間ばかりが過ぎてしまい結局はコストもかかってしまった。
 最適性検討においても中央銀行の思いを聞く時間は十分あったはずである。それを、PMの勝手な思い込みから最適性をシステムの最適性と判断し、余計な技術的検討に入ってしまい、時間とコストを消費し、かつ中央銀行の不評を買ってしまった。

 すなわち、PMの経験や知識不足もさることながら、付和雷同的なPMの行動は物事を冷静に効果的に解決していくといったエフェクティブネス(コンフリクトマネジメント、関係調整力、判断力)の欠陥によると思う。
 また、中央銀行とのコミュニケーティング(コミュニケーション、ネゴシエーション)にも問題がある。

 よって、失敗ケースと成功ケースでのPMコンピテンシーの違いは:
デモ時の爆発音での交渉時でのエフェクティブネス(コンフリクトマネジメント、関係調整力、判断力)の欠如
契約交渉時及び難題要求時での顧客対応におけるコミュニケーティング(コミュニケーション、ネゴシエーション)の欠如。
 以上が失敗ケースと成功ケースの例ですが、交渉時での安全を脅かすような事態での対応には成功ケースで示したような行動ではなく、その場で状況を確認・把握し、会議場に大きな危険が迫っていないようであれば会議をそのまま続けるという事も考えられます。
 しかし、そのような勇気ある行動をとって交渉に臨んでも、交渉事は安全かつ安心した場所でないと冷静な交渉はできないと思います。
 よって、一般的には上記に示したような一度退避して様子を見てから再交渉と言うのが一般的と思われるでしょう。しかし、実際はこのような状況に遭遇したら、あなたならどうしますか? 多分、失敗ケースで示した行動になってしまう事の方が多いと思います。

以上、「ゼネラルなプロ」についていろいろな視点から説明してきましたが、シリーズも43号となり約3年半も書いてきました。
そろそろ最初のシリーズからどのようなことを説明してきたか内容を精査し、まとめをしてみたいと思います。

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