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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~共通点に着目する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 ダイバーシティや異文化の考え方のベースにあるのは「違い」だ。P2Mで私が講師をしている異文化コミュニケーションの中でも、文化が違えば価値観や常識や考え方や行動が異なること、そして、それらを排除するのではなく、「違っていてもいいんだ」と捉えることが大事だと伝えている。ダイバーシティの考え方は、これより1歩進んでいて、「違っているからこそ得られるメリット」に着目している。「多様な物の見方や考え方がぶつかり合うからこそ、新しいものが生まれる」として、多様性がイノベーションに寄与するとしている。「違い」に、まずは注目している。
 一方で、共通点を見つけることも大事なのではないか、そう考えるように最近なった。
きっかけその1。ある講演会で、来場者同士二人ひと組になり、お互いの共通点を見つけるワークをやった。私は夫とやったのだが、与えられた1分程度の時間の中で、5-6個位しか見つけられなかった。周りの人も、似たりよったりだった。そんな我々に、講師の先生はこう言った。「子供たちがやると、たくさん共通点を見つけるんです。なぜかわかります?彼らは、同じ人間だ・目がある・髪がある、そんな点に着目するからなんです」目から鱗だった。「確かに、言われてみるとそうだ。なんで思いつかなかったんだろう。」何か高尚なことを考えなきゃ、という気持ちが無意識に働いたのに違いない。しかし、そんな私にも、白人の可愛い女の子と仲良く並んで立って写っている3歳の頃の写真がある。アメリカに住んでいた当時は、違いなんて全く気にしていなかったのだろう。
 きっかけその2。フェイスブックのシェリル・サンドバーグさんが立ちあげたリーン・インというサイトにあるアメリカ女性人が寄稿した記事を用いて、キャリアに関して考える研修を実施した時のこと。「アメリカ人女性は、ひるむことなく仕事にチャレンジするものだと思っていたのだけれど、彼女たちも我々日本人と同様、悩んだり断ったりすることもあるのですね。ほっとしました。結構同じ悩みがあるんですね。」20名位いた女性の一人が言った感想に、何人もの人がうなづいた。その記事には、チャレンジングな仕事のオファーを受け、子育てをしている自分には荷が重すぎて無理だと思い断ろうとしたものの、夫と両親から背中を押されて、結局その仕事を引き受けたこと。想定していなかったが、夫が全面的にバックアップしてくれ、今では仕事が上手くいき、引き受けて満足していることが書かれていた。こういった一般の人の事例が、数多く掲載されている。
 同様な想いを私も抱いたことがある。研修の一環で、アメリカ人やオーストラリア人女性のいわゆるロールモデルと呼ばれる人達の話を何度か聞くことがあった。その際に、成長に大事な心構えとして繰り返し聞いた言葉、それが、”Go out of your comfort zone.”だった。「自分が心地よく感じる領域からでてみる」といった意味だ。慣れた環境―例えば同じ職場や仕事範囲の中―で仕事をしていると、心地よいかもしれないが、大きな成長にはつながりにくい。多少不安を感じるかもしれないが、そこから一歩外に出る勇気を持って行動することで、大きな成長につながる、ということらしい。日本では、上司が部下に与えるストレッチアサインメントという言葉がある。これに対して、”Go out of your comfort zone.”は、「自分から積極的に動く」といった意味合いが強く、この積極性自体は、欧米の女性のほうが強いように思う。しかし、程度の差はあれ、「不安を感じる」というベースは同じだ。
 仕事でも、「大局観を持つように」や、「俯瞰して物事を見るように」ということが、よく言われるが、人と接する際も同様なのだと思う。細かいところばかり見ていると、違いが目につきやすい。しかし、一歩ひいて大きく捉えてみると、共通点が見つけやすい。無理やりにでも共通点が見つけられると、嬉しいものだ。会話もはずむ。「同じ出身地なんですね。」「私もその近くに住んでました。」「xxさんと知り合いなんですね。私も彼と仕事をしていたことがあります。」「xxが好きなんですね!私もです!」そんな会話の後に、「世間は狭いですね。」が続き、話がはずみやすくなる。これは相手が日本人だろうが、外国人だろうが同じだ。
 フェイスブックも、共通点に着目して、「ひょっとして知り合いかも?」というメッセージを送ってくれる。「よく探してくるな~」と感心することもしばしばだ。このメッセージで久しぶりにつながった人の近況を見て、更に親しみを感じることも多い。共通点に着目する力を磨いて、人間関係に磨きをかけたい。

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