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「エンタテイメント論」(71)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
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エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●企業の再生と発展
 日本の大企業だけでなく、全企業の約99%を占める中小企業が再生し、発展しない限り、日本は、構造的危機から脱出し、輝かしい日本を再生することは極めて困難であろう。しかしその再生と発展には、リストラ、コスト切り下げ、生産方法の改良、販売方法の効率化など、所謂「改善の経営」では効果が限定的で再生は難しく、はっきり言って発展には至らない。

 名実共に再生と発展を成し遂げるには、全く新しい商品、製品、サービスなどを生み出す「新事業」を実現させ、成功させるなど、所謂「改革の経営(ビジネス・イノベーション)」を不退転の決意で断行しないと効果はない。しかも国や自治体の経済成長戦略などに依存した他律的な経営は、本物の「改革の経営」ではない。

●ビジネス・イノベーション
 さてビジネス・イノベーションとは何か? 多くの学者や専門家は様々な定義をしている。その議論は彼らに任せるとして、筆者は、上記の通り、「改革の経営」こそが、ビジネス・イノベーションと考える。

出典:イノベーション Depositphotos com   出典:イノベーション
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 それは、従来の固定概念、先入観を脱却し、商慣習、既成の人事・組織などの考え方や仕組みを打ち破り、全く新しい観点から「新しい発想」を行うこと、その発想されたものを具体的に「実現(発汗)させる活動」をビジネス・イノベーションと定義している。

 その様な発想と発汗の考え方と行動が効果をもたらすには、「汗と涙と血」を流す「覚悟」を持って実践することが求められる。もっと効果をもたらすのは、「覚悟」よりも「喜んで流す」という「情熱と行動」が伴うことが不可欠である。

●「汗と涙と血」を流す人物とは?
 この様な情熱と行動こそが企業を再生させ、発展させるが、実際にはどの様な人物が「喜んで流す」のだろうか?

 その答えは、古今東西の多くの先人達が異口同音に主張している言葉の中に実存する。その様な人物は、ビジネス・イノベーション活動に限らず、あらゆる分野の、あらゆる種類の、あらゆる国の、あらゆる人種の「人間活動」に於いて、「夢」を持ち、その「夢」の実現と成功に挑戦する人物のことである。

出典 夢と決意 1bog Org Com
出典 夢と決意 1bog Org Com

 「夢」を持った人物は、失敗に挫けず、失敗を乗り越え、成功するまで頑張り抜くパワーを持つ。その人物は、「本気と本音」で「夢」の実現と成功に挑戦するため、考え抜いて行動し、行動して考え抜く。その結果は自ずと明白である。優れた発見、発明、発想が必ず生まれてくる。

 しかしこの人物が持つ「夢」が他者からの与えられた使命感、期待感、課題などによって裏付けされている場合、その「夢」の実現は難しくなる。また実現しても、成功するまでそのパワーを持続することが難しい。

 何故なら本人は、使命、期待、課題などを掛けられたため、それに応え様と自らを鼓舞し、頑張ろうと努力する。その対応が本人の「本気と本音」に基づいていても、「そうしたい」、「そうすることが好きだ」という自発的動機を欠くため、努力に限界が生じるためである。

 筆者が主張する「夢」とは、それらと一線を画する。自らを「鼓舞」する必要はない。努力することを全く「苦」にならない。他者からの期待に応えよりも、自らの気持ちに応える。この様な「夢」には「悲壮感」を伴わない。「夢」を実現したい、成功させたいと心から願う感情、言い換えれば、本人が「夢」の実現と成功に挑戦することが「大好き」であるという「本気と本音」で裏付けされている。

 本稿第26号(2010年4月26日)で荒川静香選手の事を書いた。彼女は、周知の通り、2006年トリノ五輪で金メダルを獲得した人物である。

 彼女は、フリー演技使用楽曲をプッツチーニ作曲の歌劇トューランドットの「誰も寝てはならぬ」を採用し、演技直前までその曲をイヤフォンで聞き、集中力を高めた。

 本番の演技では、その曲が終わるクライマックス段階で、競技評価対象外の「レイバック・イナバウア」の演技を加え、しかも最も難しいジャンプを行った。そして彼女自身が競技を超えて、「大好き」なスケートを伸び伸びと楽しんだ。

 観客は、彼女の素晴らしい演技とそれを一体的に支えた曲の素晴らしさに完全に魅了され、興奮して演技が終了しないのに立ち上がり、物凄い歓声と拍手を送った。スポーツ競技の「技」を超えた「エンタテイメント」の魅力に観客は酔いしれた。

出典:荒川静香選手のトリノ五輪の金メダル&レイバック・イナバウア Asahi com articles photos
出典:荒川静香選手のトリノ五輪の金メダル & レイバック・イナバウア
Asahi com articles photos

●エンタテイメント論と創造論
 読者の多くは、エンタテイメント論の中で何故、創造論を議論するか? 不思議に思ったであろう。その答えは、「大好き」に在る。

 エンタテイメントは、人々を楽しくさせ、ワクワクさせる。しかしエンタテイメントを軽視し、軽蔑し、蔑視する日本人は結構多い。しかし本物のエンタテイメントに接すれば、その様な彼らも「本気と本音」のベースでは楽しみ、実は「大好き」なのである。

 人間は「好きな事」は、ほっておいても一生懸命にその実現と成功に挑戦し、努力する。子供達が寝食を忘れて「遊び」に興じる姿を見れば、一目瞭然である。一方「嫌いな事」は、何とか避ける努力をする。どうしても避けられないなら、先送りし、怠けて対応する。これが人間の「本性」である。

出典:子供の遊び Wasatchi Family Com
出典:子供の遊び Wasatchi Family Com

 真の創造活動は、「大好き」に裏付けされていないと、とても長続きはしない。トーマス・エジソンが人類に「明るさ」をもたらそうという「志」で電球の発明に取り組んだと聞かされていない。彼は、新しいモノやコトガラを発明することが好きで、好きで堪らなかったからだ。そうでなければ、発熱電球のフィラメントの材料を探すための、あの様な年月と努力は続かなかったはずである。

 ある事に成功した時の喜びは何物にも代え難い。その喜びは、次の事を成功させたいという情熱と行動を湧き起させる。そして更なる発明のために考え、行動することが全く「苦」にならず、子供が大好きな「遊び」に興じる様に、寝食を忘れて「大好き」なその事に挑戦する。

 以上の様に科学研究、工学研究、そして事業化研究などが楽しい、ワクワクする挑戦活動に変質した時、それらの活動は、力強いパワーを持ち、その実現と成功に「本気と本音」で挑戦することになる。「遊び」の様に大好きな研究に打ち込む人物は、発見、発明、発想を自ずと産み出し、成功するのである。

 世の中に数多くの「発想法」が存在する事は既述の通りである。しかし「大好き」であること、そして「大好きな事」を実現させ、成功させたい「夢」があることが「発想」するために最も大きいパワーになる事を指摘した「発想法」があまりにも少ない。筆者には理解できない。

●夢工学式発想法
 本稿で何度か述べた通り、夢の実現と成功のための「基本的考え方」と「具体的方法論」を説いたものが「夢工学」である。夢工学の本質は、「大好きな夢こそすべて」であると説く工学である。

 如何に優れた「発想法」を、如何に優れた人物が、如何に巧みに活用しても、「大好き」でなければ、優れた発想を生み出せないこと、また生み出しても、それを実現させるために「汗と涙と血」を流す発汗(行動)は生まれないことを説くのが「夢工学的発想法」である。

 これは、夢工学に準拠し、「夢工学式」と命名されている真意は、以上の説明で分かるだろう。なお第71号の「エンタテイメント論」の英文タイトル名は「The Entertainment Theory based on The Dream Engineering」と変更されている。この真意も賢明なる読者は既に理解しているだろう。

 さて「発想法」を活用して優れた発見、発明、発想を効率良く生み出すことは有意義なことである。しかし発想法など「知らなくても」どうと言うことはなく、「発想法の奨め」など余計なお世話だと言われるかもしれない。「その通り」である。

 何故なら人類は、現在の「発想法」が生まれる数千年前から、数え切れないほどの発見、発明、発想を実現させ、「汗と涙と血」を喜んで流し、数多くの人類の「夢の偉業」を成功させてきたからである。更に言えば、発見、発明、発想などの創造活動は、「人間にしかできない」と考えていること「人間の思い上がり」である。この事に関しては、本稿の次号以降で議論する。

●日本企業のビジネス・イノベーションの成否
 既述の通り、日本は構造的危機に直面し、いまだに脱出できない。一方アジア諸国、中近東諸国、アフリカ諸国などの発展国は、国レベルだけでなく、企業レベルでも、次々と超大事業プロジェクトを立ち上げ、その実現に大胆に挑戦している。それに比べれば、日本政府の打ち出す国家成長戦略など、ちっぽけに見えて仕方がない。

 日本の大企業だけでなく、中小企業が「ビジネス・イノベーション」を成功させることが日本の経済、産業、事業を再生させ、発展させる「源」になることに異論はないであろう。しからば、如何にそれを成功させるか?

出典:ひらめきと人材 Codex Com   出典:ひらめきと人材
  Codex Com


 その答えは、「技術」でも、「モノ」でも、「金」でも、「情報」でもなく、「人」に在る。具体的には、企業の指導者である「社長」であり、ビジネス・イノベーションを計画し、建設し、運営し、成功までに導く「ビジネス・プロデューサー」であり、彼らを支える多くに関係者である。

 特に社長やビジネス・プロデューサーは、当該ビジネス・イノベーションとして取り組む新規事業が「大好き」であることは、理想論ではなく、現実論として極めて重要である。自分にとって「嫌いな事業」ではなく、「大好きな事業」に取り組むことである。

 「ビジネスを好き嫌いでで選別するなどもってのほかだ」と考える人は多いだろう。しかし「大好き」なビジネスだからこそ成功するのである。その選定は「大好き」かどうか、まさしく「理性」だけでなく、「感性」の働きで行うことが肝要である。

 またビジネス・イノベーションを実現させ、成功させるために部下を指導するは重要であるが、指導することが「大好き」であることも社長やビジネス・プロデューサーに求められることである。

出典:リーダーの部下指導 Business Strategy-Innovation com   出典:リーダーの部下指導
  Business Strategy-
  Innovation com


 「ビジネス・イノベーション・プロジェクト」を実現させるための社員の選任に関して重要なことは、社内で、ある事に従事することが「大好き」な人物を先ず見つけることである。次にある事が当該プロジェクトに合致するか否かを判断することである。もしそうであれば、当該人物への周囲の実力評価や人事評価に難点があっても、それらの評価を超える「情熱と行動力」をその人物が持っておれば、積極的に起用し、ビジネス・イノベーション・プロジェクトに参画させるべきである。

つづく

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