PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (40)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 先月号は認知力についての話をしました。今月はいよいよPMコンピテンシーの最後のカテゴリーであるプロフェッショナリズムとなります。
 プロフェッショナリズムについても同じくゼネラルなプロ (35) の表35-1に示していますが、ここで示す下記の3つの要素はあくまでもプロとして持っていなければならない基本的な個人的な特性のことを言っています。

責任感 (達成志向)
倫理観・誠実性
多様性の尊重

 プロフェッショナルというとプロ意識を持って仕事を行い相手を満足させることのできる人材という事になります。
 すなわち、自分の技能や技術で身を立てることのでき、その分野で達越した能力を持つ者を言います。
 例えば、専門職種にある専門技術者、そしてその分野で達越した能力を発揮する人達で高度な技術はもとより高い使命感により過酷な業務に耐えている職種と考えられます。
 そのためには、自らの成長へ責任のための達越性の追及とその結果としての社会・対人に対する責任を達成するための積極的な自分自身の思考と感情、意思決定、そして行動をとり、それを、自らコントロール・管理するといった自己規律が重要となります。
 プロジェクトをマネジメントするPMについても同じことが言われますが、PMはプロと言われる野球選手、医者、弁護士そして専門技術者とは異なり集団を扱うところで違いがあります。
 プロのPMの活動ははいかなるプロジェクトにおいてもプロジェクト内容に従い適切な体制とチーム員の配置を行い、プロジェクトを目標に向かって適正にリードし、顧客が感動を覚えるような最高のチームパーフォーマンスをだすことです。
 そしてチーム員の自己実現を促し、達越した結果を出し顧客満足を得るといった使命を全うできる人材という事になります。
 その他、これまで説明してきたPMコンピテンシーを状況に応じて適切に発揮することが重要なことになります。
 そこで必要になるのが個人の持っている特性、資質や態度という事になりますが、生まれながらに持つ、または育った環境によってはぐくまれたその人の個人的な性格による部分もあります。
 たとえば、積極性、緻密さと大胆さ、意志の強さ、厳しい中にも優しさ、そして強い意志と心、等々といった抽象的な表現になってしまいますがこのような部分が大きく影響します。
 その他、比較的人の行動にて容易に見分けることのできる責任感(達成志向)、倫理観・誠実性そして多様性の尊重などがあります。
 いずれにしてもこれらはその人の意識に基づくところが大きく、“その気になって行動する意識”という事になります。よって、これらは仕事の中で、これまで述べてきたPMコンピテンシーの発揮度合とも絡めて判断することであり、育成の範疇からは外れます。よって、普段の態度や行動から判断する方法しかないと考えます。

1 ) 責任感 (達成思考)
 責任感とは、自分に与えられた仕事や役割、達成すべきゴールに向けて強い使命感・こだわりをもって最後まで成し遂げる
 すなわち、自分のすべきことを怠りなく実行しようとする意識です。義務感という言葉にも似ています。しかし、義務感には、自分に課されている仕事なので、たとえ無意味なことや嫌なことであっても仕方なく行なう、というニュアンスが強く感じられます。
 一方、責任感は、自分が当然すべきことという自覚があり、自発的な意志でそれを確実に実行したいという意味合いが強く、そこには意欲(やる気)がともなっています。そこには積極性といったものも内在しています。
 責任であれ義務であれ、それを果たしたときには同様の達成感があるかもしれませんが、責任感をもって何かを行なうときには、かならず成し遂げようという自発的なやる気があり、それ故に、成し遂げたことの喜びも大きくなります

2 ) 倫理観・誠実性
 善悪・正邪の判断において普遍的な規準をもっているとともに企業活動において法律を熟知し、自分自身が責任ある仕事を遂行する際にも、いかなるときでも厳格に遵守する姿勢を示す。
 この意味は人によっていろいろ解釈はありますが、仕事は良くやりできる人と言われても不正を働いたり、悪いことをすればその人には倫理観の無い人と言われたりします。
 しかし仕事上ではプロ意識を持って素晴らしい仕事をしています。
 テレビによく出た有名な評論家で大学教授が高校生のスカートの中を写真で撮ったり、警察官が女性の下着を盗んだりこの倫理観については例を挙げればきりがありません。
 また、誠実性の観点から見ても、たとえば、約束したことを守らず、不遜な態度をとるといった人も仕事ができてもプロとは言えません。
 小さなことですがお金を貸しても返さなかったり、書類の提出期限を頻繁に守らなかったりするのも誠実性にかかわるものです。
 このような人にはどんなに立派なことをしても、また実績があってもプロフェッショナリズムは適用されません。

3 ) 多様性の尊重
 多様性は社会の変化と発展に、欠く事の出来ない要素だと見る事が出来ます。
 プロジェクトも求められる対象は多様化、複雑化、区域化、そしてグローバル化しているため、プロジェクトの質、内容、場所、複雑さ、困難さ、国籍、文化、取り巻く環境そして性格的な違いからくる様々な考え方やスタイルでのプロジェクトマネジメントが必要になります。
 “郷に入れば郷に従え”の例えがあるようにPMはプロジェクトを取り囲む状況をこれまで述べてきたPMコンピテンシーをフル活用して、プロ意識を持ってどのような状況、環境下においても顧客満足と目標を達成することが必要です。

 以上ここまで6つのPMコンピテンシーの要素をあげてみました。それは、コミュニケーティングとリーディングとマネージングとエフェクティブネスと認知力とプロフェッショナリズムです。コミュニケーティング、リーディング、マネージングについてはINGの進行形で表現されています。これはなぜかと言うと、プロジェクト実行中に必要な行動特性、常に動いていなくてはいけないという意味でINGと表現しています。
 その次がエフェクティブネスと認知力ですが、これは問題が発生した時の課題解決に必要なPMコンピテンシーです。
 最後のプロフェッショナリズムはまったくその人の個人的特性・資質そして態度だとか考え方、いわゆる右脳的な発想で物事を考える項目です。
 いずれにしてもこれらPMコンピテンシーは個別に起動させる能力ではなく、プロジェクトが面対する状況によって起動させるPMコンピテンシーがある。そしてそれぞれ単独に起動させるものではなく状況により複合的に知識や経験を加味して起動せる必要があります。

 以上PMコンピテンシーについて説明してきましたが、より高位のプロジェクトをやってみたいと思う人にはこのPMコンピテンシーが自然に醸し出されるようでなければなりません。
 しかし、読者諸君の中にはプロジェクトの実践経験と知識があればその遂行は十分可能と言う人もいるでしょう。
 確かに、対象となるプロジェクトが同じ組織の中での活動が中心であり、かつプロジェクトに関連する技術の多くが自分の専門分野の技術であり、それほどプロジェクト規模が大きくないものが対象であれば答えは“YES”です。
 しかし、プロジェクトの内容や質そしてそれを取り巻く環境が現在属している組織や人員だけでは対応できない場合は“NO”という事になります。

 例えば、もしあなたがこれまでかかわったことの無い、比較的規模の大きい、広域対象エリアを現場とする海外でのプロジェトをPMとして指名された場合を考えてみてください。
 その一例を以下に上げます。

 このプロジェクトは電気通信事業を行う外国公社とのPFI事業で電気通信設備の新設を含む多国籍企業との合同事業でした。
 参加企業の国籍は日本、豪州そして新興国の3か国からなるコンソーシアムで、顧客は新興国の電気通信公社であり、このコンソーシアムの中にオペレーション要員としても参加していました。
 本プロジェクトは新興国の既存電気通信公社での既設回線の修復と新設であり、線路システム、光伝送回線システムの新設、交換局の新設、無線システムの新設、そして総合コントロールシステムの新設からなる大型プロジェクトでした。
 プロジェクト組織も多国籍という事で人材の多様性を考慮し、設計・設備建設は日本人をPMに本プロジェクトを行うことになりそれぞれプロジェクトの計画がされました。

 さて、このプロジェクトはどのように実行されたか、またどのような問題が生じて、どのように“昔取った杵柄とPMコンピテンシー”の総合力で解決されていったかを、次月号で説明していきたいと思います。

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