例会部会
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第177回例会レポート

例会部会 中前 正: 10月号

 日頃、プロジェクトマネジメントに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、2013年8月に開催された第177回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日時: 2013年8月23日(金) 19:00~20:30
テーマ: PMのための「自衛隊式最強のリーダーシップ」活用のポイント
  ~組織を共振させて最大の成果を狙うには~
講師: 石田英司氏

  はじめに

 今回お招きしたのは、元・陸上自衛官という肩書を持つ石田英司氏(以下、講師)です。1984年に陸上自衛隊に入隊、需品科幹部として10年勤務し、民間企業に転職してからは、セールス・インストラクターやマネージャー、研修トレーナーとして活動。今年、自身の経験と方法論をまとめた『自衛隊式 最強のリーダーシップ』を出版しました。今回の例会は、元自衛官ならではのリーダーシップ理論を、いかにプロジェクトの現場でアレンジして活用するか。そして私たちがビジネスの世界で成功をおさめるために必要なことは何か。そのヒントを知る手がかりになればと思い、企画しました。

  自衛隊で学んだ「戦いの原則」

 講師は講演の冒頭で「お伝えしたいこと」として、以下の2点を挙げています。
 はじめに、書籍の内容が紹介されました。『自衛隊式 最強のリーダーシップ』には、各章において、以下のような「戦いの原則」が記されています。

第1章:任務分析の3原則
  「地位・役割の明確化」「状況の特質の理解」「達成すべき目標の設定」
第2章:戦いの9原則+α
  「目標の原則」「主導の原則」「集中の原則」「経済の原則」「統一の原則」「機動の原則」「奇襲の原則」「保全の原則」「簡明の原則」「柔軟・創意工夫の原則」
第3章:状況判断に役立つ3つの幕僚見積
  「地域見積」「情報見積」「作戦見積」
第4章:幕僚活動の5原則
  「適時性」「先行性」「並行性」「完全性」「全体最適の視点」

 これらは、講師が自衛官の経験で身に付けた、戦場で部隊が戦勝を獲得するための行動原則です。例会では、これらをビジネスの現場でアレンジする際のポイントが紹介されました。

1. 目的達成に向けて、適切な目標を設定する

 部隊を戦勝に導くために、まず大切なことは、リーダーである幹部が任務をしっかりと理解することです。そのためには、「目的」を明確にして、実現すべき「目標」を正しく設定する必要があります。「目標」が設定できたら、資源をどのように使ってそれを達成するか、その「手段」を考えます。
 自衛隊においては、戦勝を得るために行うのが任務分析ですが、民間企業では、以下のように置き換えることができるでしょう。
目的:経営課題
目標:事業部の抱える課題
手段:担当者レベルの課題
 このように、組織の目的をブレークダウンしていき、WBSなどに落とし込んで、部下やメンバーにシェアして目標達成を目指します。
 自衛隊では、上司の命令が絶対である「右向け右」の組織であるため、ある意味チーム力を発揮しやすいといえますが、今日の民間企業で「右向け右」は通用するでしょうか? 様々な価値観を持つメンバーが集まったチームでは、メンバーが本当に納得しないと、チーム力の発揮にはつながりません。WBSを超え、その仕事の本質的な意義を説明することができるかが重要なポイントになります。

2. 直面する現状を正しく認識する

 自衛隊では、敵に勝る戦闘力を発揮して勝利を得るために、「戦場はどこになりそうか」「その戦場でどのように戦うか」といったことを考え、いくつかの選択肢の中から最適なアクションプランを選択します。民間企業の意思決定の場面においても、直面している現状を分析し、「状況の特質」をとらえる必要があります。それには、「METTs+C」という判断基準の指針が有効です。
METTs+C
  Mission(任務)
  Enemy(敵)Time(利用可能な時間)
  Time(利用可能な時間)
  Terrain(地形、戦場)
  Customer Evaluation(顧客の評価)
 企業活動では、「Enemy(敵)」は「競合」、「Terrain(地形、戦場)」は「市場」と置き換えることができます。これらの要素を分析することで、今、すべきことは何か、そのスコープを明確にすることができます。

3. 成果を最大化するための考慮要因を押さえる

 戦況を読んでその時々で最適な判断を下し、戦果を最大化するために有効なのが「幕僚活動の5原則」です。「適時性」「先行性」「並行性」「完全性」の4つの軸を考慮しつつ、「全体最適の視点」を持って判断を下します。
 企業活動においては、現在置かれた状況を考慮したうえで、品質・コスト・納期のバランスをとり、組織の方針を決定する必要に迫られる場面があります。
 たとえば、競合よりも先手を取ることが必要ならば「先行性」が、限られた時間で効率よく仕事を進めるならば「並行性」が重要になります。スピードを追求する営業部門と、システムの品質を重視するSE部門の間で板挟みになったら、「適時性」と「完全性」のバランスを考えるといいでしょう。
 このとき重要なのは、決して局地戦に陥らず、組織の大目的を把握、理解して判断を下すことです。成果を最大化するためにも「全体最適の視点」を持つことが大切です。

4. 関係者を巻き込み、組織が共振できる基盤を作る

 ここまで述べてきた自衛隊式のリーダーシップをさらに発展させ、組織に大きな成功をもたらすためには、組織全体が協力的になるように変革していくことが大切です。
 そのためには、個人が受身の考えから脱却し、信念を持って自発的に考えて動くことができる「考動力」を養うことが大切です。マニュアルをベースに各人が動いている状態から、ビジョンに基づき、クレド(信条)に従って行動できる組織へ移行できるか。その際参考になるのが、昨今、アジャイル開発の手法としてよく紹介されている「スクラム」と、「チームファシリテーション」の手法です。
 これらの詳細はここでは割愛しますが、全員が主人公であるという意識が、関係者を巻き込み、共振しやすい基盤を築いていくのに役立ちます。そういう意識をはぐくむことができるか。そこにこれからの企業活動におけるリーダーシップはかかっているといえるでしょう。

  講義を聞き終えて

 講義のまとめとして、講師から、「リーダーシップのタイプは一つではない。自分なりのリーダーシップスタイルがあっていい」という言葉がありました。自らチームを引っ張っていく「古典的リーダーシップ」に、フォロワーを支えて奉仕する「サーバントリーダーシップ」、そしてコミュニケーションや気配りなど横の関係で人を動かす「ソフトリーダーシップ」などが紹介されましたが、自分はどのタイプなのか、一度じっくり考えてみたいと思いました。
 なお、講義ではあまり触れられませんでしたが、「戦いの10原則」には、相手より先に行動し主導権を得る「主導の原則」や、もっとも重要な目標へ戦力を集中する「集中の原則」、重要な場面以外は捨てる「経済の原則」など、興味深い方法が紹介されており、いくつかはすでに私も現場で実践しています。これらの内容は書籍で解説されているので、興味を持った方はお読みいただけたらと思います。

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