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異分野・他業種との共同プロジェクトを成功させるための要件定義とは?
~東北大学における計算化学ソフトウエアの利用相談を例に~

東北大学大学院 山崎 馨 [プロフィール] :9月号

 本稿の読者の皆さんは,化学の研究に関してどの様なイメージをお持ちでしょうか.試験管やフラスコに試薬を何種類も加えて反応させて新しい薬品や素材を創り出すというイメージをお持ちの方が多いかと思います.その一方で,化学反応の仕組みや素材の物性(色や電気伝導性など)を理論計算によって解明する計算化学というスタイル(筆者の専門分野)が近年の計算機の性能向上やソフトウエアの改良に伴って形成され,実験化学者にも急速に普及してきました.しかし初心者でも計算化学を気軽に始められる様になった副作用として,次の2つの問題が出てきました.

1. 目的の物理量を正しく評価するためにはどの様な計算手法を用いればよいのか,実験化学者(計算化学初心者)には全く見当が付かない.
2. 相談しようにも適切な相談相手が身近にいない.

それでは,これらの問題を解決して実験化学と計算化学を結びつけ,新たなイノベーションにつなげるためにはどの様な仕組み作りをすればよいのでしょうか.
 筆者が所属する東北大学では,実験化学者が計算化学者に理論計算の基礎から実験と計算をうまく連携させるための具体的なノウハウを気軽に相談できる利用相談会を週1回のペースで設けております.筆者は,利用相談会の相談員として実験化学者の方々と面談し,彼らの問題の解決のお手伝いをしてきました.その過程で,相談者の方々の抱えている問題を根本から解決するためには,相談内容をきちんと要件定義する必要性があることに気づきました.そこで今年度から,P2Mのミッションプロファイリングの内容を元に考案した以下の4つの質問項目についてA4で2ページ程度の資料を事前に相談者の方々に作成してもらい,それを踏まえた予備調査を私が行ってから面談を行うようにしました.

1. 研究の背景と目的 : 今回の計算対象はどの様な物質なのか(Which).なぜその物質が重要なのか(Why とWhom),目的の物質のどの様な反応や物性を解明したいのか(What)など,6W1H(特にWhatとWhy)を的確に押さえる.門外漢の人を納得させられるよう,平明に書く.
2. 相談を通じて何を知りたいか : 研究の背景と目的を踏まえて具体的に(相談自体の要件定義).
3. 制約条件 : いつまでに計算結果がほしいのか?使用する計算機の性能はどれぐらいなのか?使用する計算機の性能により計算手法(How)と所要時間(When)が大きく変化するため.
4. 相談者の予備知識 : 相談者が計算化学についてどれだけの知識や技能を持っているのか.予備知識や技能に応じた,説明や解決策提示を行うため(顧客本位のソリューション提供).

 以上の取り組みを行うようになってから,相談件数は2013年度8月時点で前年度比約2倍に増加し,相談者から感謝のメールをいただくことも出てきました.また,1回の相談にかかる時間も約半分になりました.この様に要件定義を明確かつ平明に行うことによって,共同研究を行う異分野の研究者間の相互理解が深まり,インパクトの強い研究成果を効率良く出せるようになると考えられます.また,本例で挙げた4点の要件定義のポイントは,大学での研究に留まらずITシステム開発の要件定義(特にユーザーからベンダーに対する仕様定義)等の産業界における案件にも応用可能なのではないでしょうか.読者の皆様のご意見・ご感想をお待ちしております.

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