PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(119) 「不適格なPM群像 10」

高根 宏士: 7月号

7 スター型の人
 このタイプのPMは周りの眼ばかり意識しているタイプである。「カッコよく見られたい」という意識が先走る。いわゆるスターになりたい人間である。
 ある会社に頭は切れるし、知識は豊富で、企画力もあり、弁もたつ素晴らしい人材がいた。彼は当初エリートとして、将来有能なPM、また、部門管理者になるだろうと期待された。そして比較的若くして、一つのプロジェクトを任された。PMは役割を果たそうと一所懸命頑張った。その活躍は外部から見ても目立つほどであった。しかしそのプロジェクトメンバーの多くはPMに対して、その努力を認めようとせず、よそよそしい態度を取っていた。なぜだろうか。
 PMは制約条件の確認や仕様の決定に当たって、プロジェクトの先頭に立って顧客との折衝に当たり、その結果をメンバーにきちんと伝え、必要な場合は上司にも連絡し、万事そつがないように進めていた。その努力は涙ぐましいものがあった。
 ところが彼にはコミュニケーションにおいて自分では気がつかない一つの欠点があった。それは、相手を積極的に認めようとはせず、自分を強引に認めさせようとすることである。
例えば顧客との間で仕様決定が順調に進んだ時、その要因が一人のメンバーが作った仕様書の品質が良かったからとか、顧客の窓口が全体的視点から物事を見てくれたなどということにあったとしても、彼は報告時、それを言わず、自分がいかに顧客を説得したかという手柄話にしてしまうことである。
 コミュニケーションを良くするためには、仕様書の品質が良い場合は、顧客に対してはそれを作成したメンバーを称揚し、自分が如何にいいメンバーに恵まれているかを語ることである。それが結果として、プロジェクトに対して顧客からの信頼を得ることに繋がる。
 顧客の御蔭であるときは、メンバーに対して顧客の視点の高さとバランス感覚を称揚する。そしてメンバーが顧客に対して信頼感を持つようなる雰囲気作りをすることである。
 ところが彼は、自分が如何に顧客を説得したかとか、如何に部下に指示してこの仕様書を作らせたかを強調する。
 このタイプのPMは極端な場合、自分では何もしないで、部下が挙げた成果であっても自分がやったものとして、関係ステークホルダーに報告や伝達をしてしまうことである。したがって局外者には目立って活躍しているように見えるが、関係者から見ると「またやっている」というしらけた目で見られるようになる。本質的な意味でリーダーシップを取ることはできなくなる。彼にとって残念なことは、自分が本当に挙げた成果を語った場合でも、周りから「またやっている」という評価しか与えられないことである。彼は実際よりも評価が低くなってしまう。
 このタイプのPMは本人が一所懸命やればやるほど周囲をしらけさせ、反って問題をこじらせてしまうことが多い。
 このタイプのPMの上司が注意しなければならにことがひとつある。それはスター型の人はこれまで(6までのタイプ)と違って、本来成果を上げようとする意欲もあるし、能力もある人が多いことである。
 したがって上司はこのところをきちんと認識し、活用する必要がある。できれば、「俺が俺が」という意識をなくすよう、折に触れて注意していけば、有能なPMになる可能性はある。
 上司がめくらの場合、彼の欠点は、より大きくなるであろう。上司の器量が問われる。

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