PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (33)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 今月号から“ゼナラルなプロ”に必要な「資質」について説明することにします
 良く「資質」を生まれつきの性質や才能、資性、天性で「両親の・・・・を受け継ぐ」「・・・・に恵まれる」と言われています。
 PMI(Project Management Institute) のPMCD(Project Manager Competency Development)ではこれを人格コオンピテンシーと称しています。その意味は「個人がどのように行動するかといった態度や特性」と言っています。
 これをコンピテンスと称し、プロジェクトマネジメントに適用する場合には以下の3つのディメンションを持つとしています。

プロジェクトマネジャ自身がプロジェクトマネジメントに関する知識や理解をもとにそのアクティビティーを達成させる。
「そのためのプロジェクトマネジメント知識」
プロジェクトを成功裡にマネジメントしたり、関連するアクテュビティーを完了することのできる「プロジェクトマネジメント実践能力」
プロジェクトやその活動においてそれを実施する能力の基礎となる資質または性格を「人格コンピテンシー」という。つまり、プロジェクトの実施の際でのプロジェクトマネジャ個人がどのような行動をとるかといった態度や特性を言います。

よって、「この知識、実践、資質のコンピテンスのバランスが取れないと有能なプロジェクトマネジャとは言えない」とPMIでは説明している。

 これまで本書を読んできている読者諸氏はすでに “ゼナラルなプロ”にはどのような知識とスキル(実践能力)が必要か分かっていると思います。
 ゼナラルなプロ(1)~(32)までの内容を完全にマスターしてそれを実務につなげることができていれば、“ゼナラルなプロ”までは無理としても、それぞれの実践経験に即した社内におけるある程度の規模や難度の高いプロジェクトをマネージすることは可能であると思います。

 しかし、プロジェクトを実践できることと成功に導くこととは全く違います。
 もちろん、プロジェクトの成功、不成功にはいろいろなプロジェクトマネジャの私的事情から社内事情そしてプロジェクト環境等によって影響されますが、これらを最小限に抑えることもプロジェクトマネジャの役割です。
 ここで重要な役割となるのが③に示す人格コンピテンシーと称するもので、このコンピテンシーの高い人は意欲を持って物事に取り組んでいく力や対人関係を円滑に処理していく力を持っている人であり、組織に順応し、いかなる企業社会でも活躍することができます。
 これは知識や実践経験に基づくものではなく、その人の持つ「個人的資質」であり、たとえば経験のある先輩社員よりも若年でも先輩より営業成績の良い営業マンもいます。
 プロジェクト関連では著者が属したエンジニアリング会社でもプロジェクトマネジャ育成で入社当初からプロジェクト部門に投入するか専門部門から何年か経験してからにするかの議論もありました。
 その後、数十年たってみてもそれほど大きな違いは見られませんでした。しかし、なんとなく以下に示すような人に良い部下が集まり、その結果として大きなプロジェクトを成功裏に完遂していたようです。

あの人はちょっと厳しいけれど、言っていることに一貫性がある。
あの人は意見を言っても真面目に対応してくれ、そしてそれを受け入れてくれる。また、受けたことに対してその責任から逃げないで自分のものとして対処してくれていた。
あの人の人扱いはうまく、付き合いも良く、仲間意識で一緒に仕事をしてくれる。
そして、顧客や上司に対しての説得力もあり、安心感や信頼感があった。等々

 この事実から見ても仕事をうまく遂行するには、その仕事やプロジェクトのリーダとしての人格(資質)が大きく影響してくるよう感じられます。

 逆に「プロジェクトマネジャや管理職になってほしくない人」ということでアンケートをとったものがあるので、それを示すと以下のようになります。なんとなく、上記とは真逆の内容となることがわかります。

自分の好みだけで仕事をする人(メンバーを守れない人)
結論・方向を示さない人(話を聞くだけで決断しない人)
率先して仕事をしない人(困難な仕事から逃げる人)(ピンチの時、にげ腰になる人)
思い込みや先入観が強く人の話を聞かない人(人の話やアドバイスを謙虚に聞かない人)(固定観念の強い人)(自分の常識にこだわる人)(絶対に妥協しない人)(柔軟性の無い人)
コミュニケーションの出来ない人
部下の指導・育成の出来ない人
コスト意識の低い人
総合判断力の無い人(場当たり的な人)(現状分析の出来ない人)(技術的志向が強く、他の分野に目が向かない人)
上にへつらい下に厳しい人(権限をひけらかす人)
生意気な部下を嫌う人(偏見を持って人を見る人)
細かく・内向的で信用できない人
交渉力の無い人(洞察力の無い人)
自己過信の強い人(自分のエゴの強い人)
統率力の無い人
部下にモチベーションを持たせることの出来ない人
 ここまでマネジメントの「資質」について書いてくると著者自身も人格コンピテンシーというから内容から見ると全く自身がありません。
 しかし、ここの書かれたことを常に頭の隅に置き「心がける」ということが大事かと思います。格言にもあるように「人の振り見てわが振り直せ」であり、成功体験の多い先輩のまねをすることである程度は訓練できると思います。

 ある文献でのコンピテンシーに関する定義を以下のように言っています。
コンピテンシー(competency)の定義としては従来、単に行動ディメンション、基準、特性、行動傾向を指すにすぎなかったが、ボヤティズ(Boyatiz,1982)によって次のように定義された。「コンピテンシーとは、組織の置かれた環境と職務上の要請を埋め合わせる行動に結びつく個人特性としてのキャパシティ、あるいは、強く要請された結果をもたらすものである」。また、「コンピテンシーとは、職務や役割における効果的ないしは優れた行動に結果的に結びつく個人特性である」とするEvarts(1987)の定義もある。 1990年代にアメリカで人材活用の場に取り入れられた。日本では近年の能力成果主義の導入とともに取り入れられるようになった。

 一般的にスキルを構成する知識や実践経験に関する育成方法については座学やOn-the-Job や実戦訓練での指導により可能ですが、このコンピテンシーについては上記で説明したように自身の心がけ以外にはその効果的な育成方法は見つかっていません。

 そこでIPA(情報処理推進機構)におけるプロジェクトマネジャに関する委員会においてこのコンピテンシーについて研究することになりました。
 IPAはITに関するエンジニアの育成標準の作成を目的とする委員会でしたが、このコンピテンシーの検討はITにかかわらずあらゆる産業のマネジメント層にも共通するものと思います。
 ここで検討した内容も含めてコンピテンシーについて話を進めていきたいと思います。

 すでにコンピテンシーは知識や実践経験とは区別したものであることは説明したので読者諸氏にはわかっていただけたと思います。
 ただし、ここで注意することは仕事やプロジェクトを適切に実行するには知識や実践経験からくるスキルというものはマネジメントの必要条件となるが、さらにランク-アップした“ゼナラルなプロ”になるには十分な条件とはなりません。この十分条件となるものがコンピテンシーと考えてください。

 その知識/経験とコンピテンシーの違いを図33-1に示すと以下のようになります。
図33-1
33-1

 なお、人格コンピテンシーには具体的な行動に人を突き動かす行動特性といった目に見える行動から観察できるものと、その人の内面から出てくる態度行動の二つがあるような気がします。この行動や態度特性は脳の働きにも多いに関係するので次回は「脳の働きと人の行動」について話をしてみたいと思います。

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