関西P2M研究会コーナー
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⑤ 徒然なるままに、“日中関係”は“アジアの視点”で考えよう

坂口 幸雄 [プロフィール] 
  メールアドレス : こちら :6月号

1. 中国の政治と歴史

 北京オリンピック開催前の2008年3月、私は中国の“広東省”に滞在していた。中国の特徴は“単一民族の日本”と異なり、多民族国家であることである。地域ごとにそれぞれ性格に独自性があり、宗教も異なり様々で多様である。“広東人の特徴”は、「性格は大らかでいい加減なところがあるが、働き者で金儲けが好き。ビジネスチャンスがあれば積極的に手を出し、海外にもリスクを恐れずに進出する」とされている。世界で活躍している華僑は広東人が多い。世界各地で生きていけると言うことは広東人は外部環境の変化への適応能力が優れている証しである。隣接する香港ではジャッキーチェンやブルースリー等のカンフースターを生み出している。
 “食は広州に在り(食在広州)”ともいわれ、広東人は何でも食べてしまう。「空を飛ぶものは“飛行機以外”、四足は“椅子と机以外”は何でも食べる (听说广东人 有四条脚的东西的话 桌子和椅子以外 飞的东西的话 飞机以外)」と言われている。犬、猫はもちろん蛇、カエル、サソリ、昆虫まで何でも食べてしまう。
言語は中心部では普通話 pǔtōnghuàが話されているが、日常会話は広東語 guǎngdōngyǔ等たくさんの方言も使われている。
広東省で日本人は衣食住では特に困ることはない。日本食は日系デパートで何でも揃うが、但し価格は“日本の2倍”する時もある。そのために日本製カップラーメンは日本からのお土産として意外と喜ばれる。



2008年3月当時、日系企業の中国現地法人でERPパッケージを展開することになり、広東省で私はそのプロジェクトマネジメントの研修支援をしていた。プロジェクトメンバーは日本人2名、中国人4名で 合計6名で、構成されていた。
日本人は2人は、日本語と英語が出来たが、“中国語”は出来ない。
中国人の2人は、中国語と英語が出来たが、“日本語”は出来ない。
残りの中国人2人は、中国語と日本語が出来たが、“英語”は出来ない。
お分かりのように、6人全員に同時に通用する共通言語がなかったので初めはぎこちなくて戸惑っていた。しかしお互いに気心が知れてくると、“同文同種”でもあり相手の顔の表情で判断しながら、筆談なども利用して、次第にコミュニケーションが出来るようになった。

日本と違い中国には飛びぬけて優秀な人材がいる。中国人プロジェクトマネジャーは、P2Mでいうリーダーの3要件「能力・性格・技量」ともに素晴らしい人材であった。コミュニケーション能力もあり日本本社との意思疎通も闊達であった。

広東省でのプロジェクト自体は問題なく進捗していたが、北京オリンピック開催を前にして、突然、政治問題が発生した。ある日、私はくつろいだ気分で広東省のレストランでプロジェクトメンバーと、夕食を楽しんでいたら、どうも周りの雰囲気がおかしい。北京オリンピック開催を前にして、チベット自治区でチベット独立を求めるデモによる暴動が起きた。前日まで町にたくさんいたチベット人が町から一斉に姿を消した。チベット人は容姿や服装で容易に他の中国人と識別できる。彼らが“自発的に逃亡した”のか“公安警察に拘束された”のかは判らない。すぐに町の要所のあちこちに公安警察が立ち並んで、物々しい厳戒態勢が敷かれた。町は緊張した異様な雰囲気となり、事情がよく分からない私は不安な気持ちに襲われた。中国では治安維持のためには、“少数民族の人権”などは無視される事を身をもって知らされた。

2. 中国の政治は「共産党一党独裁と五族共和の多民族国家」



「日本人の常識」で中国の政治を考えてはいけない。中国は日本のように“大和民族の単一民族”から成り立っている訳ではない。中国は、“五族共和”(漢族、満州族、蒙古族、回族、チベット族)で成り立っている多民族国家で、それぞれの民族の宗教、言語だけでなくナショナリズムまで異っている。下手に民主化して民族の独立や自由を許してしまうと、国がバラバラに分裂してしまうから、安易に民主化を進められないのである。



毛沢東時代の“政治の現実”も知るべきである。大躍進運動と文化大革命の間に中国では“5千万人”もの方が亡くなったと言われている。文化大革命では紅衛兵が思想統制を行い、徹底的な毛沢東への個人崇拝を強制した。中国全土が内戦状態となり、全ての中国人民は恐怖におののいた。キリスト教だけでなく仏教や儒教に対しても「宗教は阿片である」として排斥した。現在でも「法輪功」や「一部のキリスト教」は邪悪な宗教として規制されている。

それだけではなく、中国人が“一番大事にしたもの”は「家族」だったはずである。しかし文化大革命は大切な「家族の結束」までも崩壊させたのである。この“共産主義の政治の現実”を知らないと中国人の複雑な深層心理も理解できない。その狂気じみた出来事は日本人の想像力を超えている。近代の中国の歴史を振り返るとたった100年余りの間に、「清朝⇒国民政府(孫文)⇒国民党政府(蒋介石)⇒中華人民共和国(毛沢東)」と次々と凄惨な権力闘争により政府は次々と倒され、国民の暮らしを翻弄してきたのである。中国では通常は「戦争状態」であり、その合間に「平和」があった。

3. 中国人の複雑な対日感情・・「嫌いな国でもあり、かつ好きな国でもある」

1989年に天安門事件が発生した。民主化運動を警戒した中国政府はその国民の不満の矛先を外国(日本)に向けるために愛国主義教育を始めた。中国の歴史教育は日中戦争を大きく取り上げるが、自国の統治に都合の悪い「文化大革命や天安門事件」の事実については国民には隠ぺいしている。

中国人の日本に対する印象については,「10歳代の中国人」は、日本のアニメ文化やファッションに馴染んでおり割と“親日的” 傾向がある。しかし「30歳代の中国人」は、抗日戦争を教材にした愛国教育を若い時に受けており“反日的”傾向がある。そのため中国人から見た日本に対する印象は「嫌いな国でもあり、かつ好きな国でもある」というように矛盾して屈折している。

日本と中国の政治と経済

明治時代以降、日本と中国は日中戦争をしていた暗い歴史がある。日清戦争、満州事変、南京事件、中華人民共和国成立、文化大革命、日中国交正常化・・日本と中国の間には様々な出来事が起きている。これらの歴史を中国の学校教育ではしっかり教えているのに、何故か日本の学校教育では「明治時代以降の日中の政治・経済・歴史」を殆ど教えていない。そのために日本人は中国人の反日感情をよく理解できないでいる。隣国である中国とは長い歴史の中に様々な出来事がある。鎌倉時代には元寇の時は対馬や九州は日本は中国に侵略された事もある。特に“日中の歴史”について日本は学校で時間をかけてしっかり教えるべきである。そうすれば議論によりお互いに理解が深まり、建設的な意見も出てくると思われる。

4. 5000年の悠久の歴史や文化を持つ中国は独特で個性が強い

ここまで、中国について「負の部分」ばかりを触れてきたが、5000年の悠久の歴史や文化を持つ中国の壮大なダイナミズムを手本にして、日本はこれまで発展してきた。京都や奈良を訪ねると中国を由来とするものが多い。「論語」は、江戸時代から武士の教養であり、明治維新以降は教育のバックボーンであった。そのために“中国は古代から日本の教師であり、信義と礼節を重んじる国である”という先入観から、昔の中国に対して多くの日本人は“畏敬と憧憬の念”を抱いている。しかし現実の中国は“個人主義、コネ社会、官僚の汚職・贈賄、貧富の格差・・”等の別の暗い面もある。

私は日本生まれであるが、私の家族は上海からの戦後の引揚者である。泥沼の日中戦争があり、終戦後蒋介石の軍により収容所に集められて、着の身着のまま上海から日本に復員輸送船でやっと帰国したそうである。何故か私の家族は中国が‘大好き派’と‘大嫌い派’に二分される。中国の文化・風土は独特で個性が強いために、日本人を‘大好き’か‘大嫌い’かの、どちらか両極端にさせる傾向がある。但し中華料理だけは家族全員が好きである。

5. “日中関係”は“アジアの視点”で考えよう

平成20年度製造業向け「プロジェクト & プログラムマネジメント標準ガイドブック(P2M)」活用に関する調査研究報告書によれば、「民間企業の外部環境変化」によるリスクとして、(1) 政治情勢・法律等の影響、 (2) 経済情勢の影響、 (3) 社会情勢の影響、 (4) 技術動向の影響」を挙げている。

これを現在の中国問題のリスクに当てはめて見ると (1) (2) (3) (4)は以下の様になる
(1) 「尖閣諸島問題」により日中間の政治情勢が大変険悪な状況となっている。
(2) 中国はGDPで世界第2位となり、経済的には中国企業の経営資源(人、モノ、金)は日本企業を凌駕してきている。
(3) 国力に自信を持ってきた中国政府は最近「中華民族の復興」を目指している気配がある。政治・経済ともに停滞してきた日本はこのように台頭する中国のダイナミズムとこれからどう向き合うかむつかしい局面となっている。更に中国には根深い反日感情が残っている。
(4) 日本の電機業界の技術力は世界をリードしてきたが、現在では急成長の中国や韓国勢の後塵を拝している。

どの項目も深刻なリスクである。しかし日本と中国はアジアのリーダーであり、地理的に一衣帯水の隣国である。アジア地域の安定した発展のために長年築いてきた中国との友好関係を回復しない訳にはいかない。



日本と中国は一衣帯水の関係であるが、政府間の“建前”の交渉では現状の事態は改善しない。ここは民間人が“本音”で、“同じアジア人の視点”でface to faceで話し合えばおのずと道は開いていかないといけない。

“仏教徒が多い”アジアの特徴は、多様性を持つ国々を利害を超えて“包み込む雰囲気”があることである。日本人や中国人としてではなく、お互いに“同じアジア人”であることを認識して、P2M的に“ありのままの姿とあるべき姿”を考えたらよい。アジアでは、中国だけでなくシンガポールや台湾など成長する東南アジアを中心に“14億人”もが「中国語」を話している。“14億人”の懐に日本から飛び込んで、 “同じアジア人”として積極的にコミュニケーション輪を広げていけば、新しい別の世界が開ける。ここでは言葉が重要になる。

日本語 :  私達は世界第2の公用言語である中国語を一緒に学習しよう。
中国語 :  让  我们  一起 学习  世界第2的  公用   语言  中文  吧!
ピンイン :  ràng wǒmén yīqǐ xuexí shìjiè dìèrde gōngyòng yǔyán zhōngwén ba

以上

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