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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (7)

渡辺 貢成: 10月号

1. 「企業は人なり」の日本、「企業は組織なり」の欧米(その2)
前回は次の質疑をして終わっている。
A. 今なぜ、日本企業は四苦八苦しているのかね。有能な組織を持っていながら経営がさえないのは何が原因かね。
B. それは簡単ですよ。「企業は人なり」です。日本企業に名社長が少なくなり、無難にすごす先送り社長が多くなったせいだと思いますよ。
A. この問題は身近な問題だから、来月に別な角度から議論しよう。

今月はここから出発しよう。
  (1) 日本企業の特徴と現代との係わり合い
A. 日本企業は今でも稟議制を採用しているが、今経営者が直面している問題は経験のない新しい仕事が多くなっている。経験のない人々でも数が集まると正しい判断ができるのだろうか。
B. 経験のない問題は結局先送りが無難ということになりますね。
A. それで、会社が機能するかね。
B. 機能しません。
A. では、どうしたらいいかな。
B. 困りましたね。
A. では、今の政府のように、民意を聞いて原発0政策を発表した。きみの会社も社員にアンケートをとって社員型企業にするかね。
B. それは無責任ですね。
A. 社会の変化が早いときは君だったらどうするかね。
B. 欧米社会のように、必要な能力を持つ人間がすぐ採用できる社会では、社会の変化に追従しやすい会社組織ができていると思いますが、日本では年功的階層組織で適所に、適材を配置することが今のままでは難しいのではないでしょうか。
A. 社員を教育したらどうかね。間に合うかね?
B. 難しいですね。日本ではMBA取得者が活躍できる社内体制ができていません。MBAとは個人の努力で成果を出すのではなく、MBAが考える戦略やマネジメントの方針を即座に対応できる組織的仕組みがないと難しいと思います。
A. それでは、日本企業が人材育成といいながら、組織育成を同時にしないと、育成された社員が思うように働けないというのだな。
B. そのとおりです。上司と意見の相違があっても、議論を交えるのではなく、権威の確保が優先するために、上司が反対することを誰も主張しません。
A. これは大きな問題だな。それでは日本社会と欧米社会の仕組みの相違を君に説明しよう。
  (2) 米国組織の特徴と現代との関わりあい

日米組織の相違点
1 ) 労働組合(ユニオン)
A. 図を見るとわかるが、労働組合が日本と違う。日本は企業内労働組合方式だ。これに対し米国の労働者はユニオンと契約し、ユニオンを通じて企業に派遣されることが多い。企業は人員が過剰となるとすぐ解雇する。しかし、解雇されてもユニオンが次の仕事の面倒を見てくれる。
B. なぜ、ユニオンがあるのですか。
2 ) スタンダードという概念
A. ユニオンの回答をする前にスタンダードという概念を説明しよう。日本でワープロが使われていた時期があった。「文豪」とか「オアシス」などの機種があった。それぞれ日本文をつくる仕組みができており、文章作成には不自由しなかった。しかし、インターネットが発達して文章が送られてきても、機種が違うとその文章を見ることができない。これは不便だな。そこでウィンドウ・インテル搭載のPCを買えば、世界中から来る文章を読むことができるという便利さがある。君ならどんなPCを買うかね。
B. 当然デファクトスタンダード化した製品を買います。
A. 欧州は小さな国の集合体だね。自動車でもテレビでもいいが、各企業が部品段階から独自の設計をしていては製品の大量生産が難しくなり、消費者もメンテナンスに多大の金がかかる。製品の型式、部品等がある基準の下で製造されると生産者も消費者も利益を受けることになる。欧米社会は基準化、規格の統一という問題を真剣に考え実施してきた。そしてこれらスタンダードは国が決めるもの、国傘下の協会が決めるもの、業界が決めるものがある。スタンダードが決まるとそのスタンダードを使って設計する人、製造する人が必要となる。このために国や協会はスタンダードをやさしく解説したテキストをつくり、これの受験者に資格を与えることで、スタンダードの普及ができ、またスタンダードの規則が守られるという社会的安心感を与えてきた。
そこで協会はスタンダードを社会の要請にあわせて常時改善する責任がある。資格者は資格者だけを集めたユニオンに所属する。ユニオンは資格者の品質を保証するための教育を行い、ユニオンの保証で企業に人材を送り込むことができ、ユニオンの経営が成り立っている。米国人の資格者はバリバリのプロフェッショナルとして認定されており、彼らは企業と契約すると1週間後にはプロとして活躍する責任を持っており。雇用する企業は1週間で働けるマニュアルの整備、ナレッジマネジメントの整備ができていることが求められている。
B. ユニオンの存在がわかりました。では、なぜ日本にはユニオンはなく、企業内組合なのですか?
A. この問題は日本企業の解説のときに話をしよう。
米国企業にもどろう。 彼らは大きな標準化は個々の企業の役割ではないと考えている。欧米では自分たちでつくるスタンダードで世界で通用されることを競っている。そこで下記のことを行っている。
スタンダードはその道の権威を集めて制作し、常に更新することで社会に貢献し、その権威を確立している。
企業はその道の専門家がほしい場合は、ユニオンに人材紹介を依頼する。ユニオンに所属していないと就職が困難である。なぜなら資格者は常に更新されたスタンダードをわずかな努力で新規分を補充して資格者としての権威が保てる。
社会に必要な業務に適する人材が豊富に存在する。同時に企業は人材を受け入れても資格者を即日から有効活用できる、組織基盤と仕組みが確立されている。
企業にナレッジ・マネジメントが確立されている。
意思決定の評価基準が確立されている。評価基準のないものは、FS(Feasibility Study)で等で検討される仕組みが、社会に定着している。

  (3) 日本組織の特徴と現代との関わり
A. 米国企業と対比して説明しよう。
日本企業にユニオンがない理由は、戦後企業の実力は低く、資格者の存在もなく、企業は終身雇用制で人材育成を自ら実施してきた。
日本政府は基本的に米国企業の日本上陸を恐れ、日本独自のスタンダードを採用し、米国の上陸を防いだ。
製造業は米国発の技術と彼らのスタンダードを採用することで、世界的にそのシェアを伸ばすことができた
B. 日本は賢く、ダブルスタンダードを採用したのですね。
A. その通りだな。だがな、マイナスもあるんだ。米国企業が上陸しない産業は、それが既得権益となり、努力をしなくて金儲けができる体質まで生み出してしまったんだな。日本では社会インフラは斜陽産業といっているが、グローバル社会では最大の成長産業なんだな。
日本の土木建築産業の技術力は素晴らしいものがあるが、高コスト体質のために、海外に出かけては、立派な橋や、トンネル工事で評価を高めているが、大方は大赤字で役員が責任を取らされている。
B. このタイトルは「グローバルで通用するビジネス常識を学ぼう」ですが、ゼネコンの何が問題なのでしょうか。
A. 利益構造が中小企業を下請け化した、賃金格差による収益構造が、海外では通用しないことだ。技術があっても、スマートなマネジメント能力を持つ。海外サブコンの育成なしには成功しないという理解不足なのだな。現代は契約関係がWin/Win関係が重要だという認識が求められている。
日本はグローバルで勝つためには欧米流の組織能力の構築とその上に立った日本的な能力の発揮が求められている。次回はグローバル企業といわれる会社組織の概念を説明しよう。

以上
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