PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (24)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 今月号はプロジェクトマネジメントの要素としてのスケジュール、コストに続く品質管理に入ります。
 “品質管理“と言うと、何となく工場における製品のでき具合の管理、設計品質の管理、納入品の品質管理そして建設中又は後の出来栄え管理といった技術中心の管理手法のように見られます。確かにこれを”検査・試験“といった狭義の意味に捉える人もいます。
 プロジェクトマネジメントにおける品質管理は以下の図24-1に示す「品質の有効性」を対象としたもので、上記よりは若干広義な意味での品質管理です。すなわち、プロジェクトにおける品質管理は以下に示す品質を対象としたプロジェクトを対象とした品質マネージメントの一部である狭義の品質管理であり、要件定義、設計、製造、据付または建設などの各段階で如何に製品の不適合を管理するかと言った、予防機能としての計画とコントロールである。

図24-1 品質マネージメントシステム
図24-1 品質マネージメントシステム

 これによく似た管理プロセスにISO9001があります。
 昨今、この手法を採用する企業も多く、一種の企業の品質資格のように名刺や企業の表玄関にISO9001のロゴを採用しているものも見られます。
 この手法は、近年日本で発展した総合的品質管理に近いものです。すなわち、単に製造部門またはプロジェクト部門での製品の品質を対象にするものではなく、最終の製品が顧客の満足を得るための会社の組織や業務全般を管理の対象としているもので図24-1に示す品質マネージメント全般を言います。

1) 品質計画
 プロジェクトでの品質管理は品質計画に基づき、設計から目標達成までのプロジェクトライフサイクルの各段階で行われるたゆまぬ品質に関する活動を基本としています。
 品質管理の中でも最も根幹となる活動が初期段階での徹底した品質計画であり、この活動が後段階での品質に大きく影響する。このとから、品質計画の作成そして次に続く開発段階または設計段階からの品質の作り込みが重要なものとなります。
 このことを源流管理と称するが、いわゆる“もとを断たねばだめ”の概念です。しかし、実際は、計画や設計品質に注力をそそぐことよりも、完成品への検査やテストなどに注力をおく事が多かったようです。
 そして、これを品質管理と見る人も多く、結果として初期における品質を作りこむ為の計画をおろそかにする事により、個々の製品の出来栄えは良くても全体がだめという結果が多々発生しています。
 このように製品品質は単に検査やテストによるものだけではなく、プロジェクト品質は前記では狭義の品質管理と定義したが、プロジェクトにおける品質計画は品質を作りこむという視点から見ると、結局は部門間、技術間のインターフェース調整の有り方、経営リソースの力量、仕事の内容とその役割分担と責任と言った組織体制、プロジェクト方針やそれに基づく設計、検査方針等々プロジェクトトータルの計画に近くなります。
 このように品質計画は下記に示すような項目を考慮して企業の品質マネージメントシステムと統合して、その計画を作成する事を薦めます。

顧客要求事項と会社または部門の品質目標に合致した品質目標
プロジェクト実行組織と各機能の役割
プロジェクト各工程でのインプットとその活動および結果のアウトプット
レビュー、検査、監視、試験および測定の計画
変更および不適合発生の対応および改善処置の手順
要求されている品質記録の明確化

 なお、上記の項目は品質に関しての項目に重点を置いているが、実際はプロジェクト計画において示される項目は上記だけで充分ではなく、プロジェクトの内容によってはさらに多くの項目が記載される事になります。

2) 品質計画のツールと技法
 品質計画のツールと技法についてはPMBOKでは以下のように解説しています。
費用対効果分析
 設定された要求品質を達成するためには、やりなおし、手直し、繰り返しミス等を減らすこと事が大事でありかつ顧客満足を得る上で重要なことです。このように品質要求を満たすための活動費用と品質向上による節減コストまたは便益との対比がどの程度になるかです。
 例えば、ISO9001規定に従った品質マネージメントシステムを採用するコストとその便益の場合とそうでない場合の比較などが良い例です。
ベンチマーク手法
 品質活動の結果がどの程度成果が上がったかを評価するため、標準尺度を設定し、前に比べ品質がどの程度良くなったかの優劣比較をする方法です。
 例えば、類似プロジェクトのデータを取りその平均値により、不適合の数が妥当な数値かどうか判断したりする。なお、比較する対象は内外および分野は問いません。
フローチャート法
 これは問題が発生時にシステマティックに原因、対策、結果を見ながら順次真の原因に迫り、潜在する問題点の原因そして何処に品質上の問題があるかを予想したりする方法です。(特性要員図もこの範疇に含ます)
パレート図
不良、欠陥、故障などの発生件数を原因や事象別に分類して、その頻度の大きさの順に棒グラフで示し、それらの累積を棒グラフの上方に折れ線グラフで示したものをパレート図と称します。
この図を作ることにより、どのような事象がどのような原因で発生しているかが一目で分り、その対策も立て易い。よって品質上の問題に関する傾向がわかるので、リスク対応策の一環として品質計画作成に利用することができます。
管理図
本図は標準となる品質上の管理限界を示した図で、検査結果の値がこの限界を超えたら異常とし、その原因究明、対策実施行動の指標とします。

 上記のツールや手法のほか多くのものがあるが、これらのツールや手法により明らかになった事実を、品質計画に盛り込み、より良い品質作りの基礎資料とします。
 なお、どのツールを使うかは業務分野の特性とその利用方法を考え選択すればよいでしょう。

  いずれにしても、上記にて示す品質管理のツールと技法は品質管理部門のようなところがやることですが、プロジェクトの現場では①に示す費用対効果に絞られるのが大半です。
 品質にかかわることは必ずコスト、スケジュールに直接関係します。ほとんどのプロジェクト遂行上での問題はここに尽きると言っていいでしょう。
 そこで重要となるのが変更・課題管理ということになり、ここであげられた問題がスケジュールの変更やコストの変更に関係してくるのです。
 変更・課題管理についてはすでにすでに“ゼネラルなプロ(21)” で説明していますが、ここで示す「問題発生」の対象となります。
 ただし、品質の関してのプロジェクト遂行上でのコントロールトは問題発生を予防することを前提とし、各段階でのミーティングや会議の場において、品質計画に沿って行わなければなりません。
 コントロールの考え方はすでにスケジュールやコストにおけるコントロールの考え方と基本は同じなのでここでの説明は省略します。

 なお、品質(技術)上の問題で、それを課題として取り上げ、顧客に対してコストの変更を要求することはなかなか難しいものがあります。
 この場合は、すでに何度も言っていますが、ここで重要なのが契約で顧客と約束した技術仕様の内容ということになります。しかし、そうはい言っても契約時点では技術仕様を細かく示すことは困難です。
 そこで契約上のテクニックとなりますが、技術仕様の詳細化ではなく品質に大きく影響を及ぼす基本的な事項について
 「以下に示す基本的事項および仕様についての変更があったらコスト変更の対象とします。~~~」
 と言ったような「見積もり基本条件(Basis Of Quotation)」に品質に影響するような技術的内容を示し、契約時に顧客との合意を得ておく必要があります。
 このようにしておくことによって、顧客にはなかなか言い出せないことも堂々と変更交渉の材料として出すことができるようになります。

 以上が品質管理に関する話ですが、プロジェクト遂行において異事事項が発生することは必ずあります。特に複雑で大規模または異分野のプロジェクトにおいてはその数も多くなり、かつわからないことばかりで非常に戸惑うこともあります。
 しかし、この時は、技術屋的側面での発想ではなく、プロジェクトマネジャの役割としての側面で物事をよく考えることが大事です。 これまで本エッセーで述べてきた“ゼネラルなプロ”の在り方を思い出せばそれがわかります。
 もう一度最初から読み返してみればそれがわかります。

 さて、次回は人、物に関係するリソースマネジメントすなわちマンパワーおよび資材管理について話をします。
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