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P2M視点から見たマスターズ水泳

日本ユニシス株式会社 吉野 良成 [プロフィール] :8月号

1.マスターズ水泳とは?
 皆さんは,「マスターズ水泳」をご存知だろうか?   一般社団法人日本マスターズ水泳協会のホームページには,マスターズ水泳とは「『健康・友情・相互理解・競技』をモットーにして,幅広い年齢層の人達に水泳を通じて多くの仲間の人達と健康で明るい人生を楽しんで貰うためのもの」とある。
 マスターズ水泳と通常の競泳競技との主要な相違点は,次のとおりである。
25m種目からあるので,競泳経験のない初心者でも気軽に競技会に出場できる
25歳から5歳刻みの年齢区分(日本ではこれに18~24歳区分が加わる)別の競技であり,競技会ではこの区分単位で順位が付く。日本記録・世界記録も年齢区分別である。
リレー種目には,男子・女子の他に男女混合種目(混合リレー)がある。
 マスターズ水泳が日本に紹介されたのは今から約30年前と古く,その普及に向けては日本マスターズ水泳協会が大きな役割を果たしてきているが,同法人の目的は「マスターズ水泳の普及・振興に関する事業を行い,もって国民の心身の健全な発達に寄与すること」にある。 日本におけるマスターズ登録者数は現在約5万人弱で,競技人口は年々増加傾向にある。

2.マスターズ水泳の「価値」
 P2M標準ガイドブックでは,プログラムの「価値」として「固有の資産価値」(資産)・「イノベーション価値」(機能)・「ステークホルダーの調和価値」(満足)・「知的資産価値」(再利用)の4項を上げるとともに,「プログラムの価値を考えるうえでは,顧客の受ける価値の拡大という原則が重要な前提である」としている。

 「ステークホルダーの調和価値」の観点から見たマスターズ水泳の最大の価値は,競技者の満足度であろう。冒頭のマスターズ水泳の定義にある「水泳を通じて多くの仲間の人達と健康で明るい人生を楽しむ」ための中心に競技会の存在があげられるが,日本マスターズ水泳協会が主催・公認する競技会が年間で80~90試合あり,それ以外にも地方自治体や地域の水泳協会・公営プール等が主催するローカル大会が多数あって,競技者はそれぞれのレベルや予定に応じた競技会に参加することができる。競技会やスポーツクラブ等での練習会を通じ,同じ趣味をもつ人との交流の輪が広がるし,大きな競技会では時としてかつての日本代表・五輪経験者と同じ組で泳ぐ機会もある。
 また,競技会に出場するには日頃の鍛錬が不可欠であるが,マスターズ水泳には,日常的に練習に取り組むためのモチベーションに繋がる,次のようなメカニズム・特性が存在する。
競技会では,男女別・種目別・年齢区分別の上位者には賞状やメダルが贈られる。
日本マスターズ水泳協会から,前年度の公式大会の記録を集めた「50傑ランキング」(男女別・短水路長水路別・種目・年齢区分別の上位50位までが掲載される)が発行されており,これに少しでも上位に,1つでも多くの種目でランクインすることがマスターズ水泳競技者のステータスとなっている
練習環境の充実(今日では室内プールの普及により一年中いつでも泳げる)や近年の泳法・トレーニング理論の進化もあって,学生時代の競泳経験者でも50歳代はおろか60歳・70歳台でも自己ベスト更新が可能である。
練習により今の泳力を維持したまま数年後に1つ上の年齢区分に上がれば,競技会での順位が相対的に上がり上位入賞が狙える。が,練習しなければ加齢とともに泳力は衰える一方である。

 私事になるが,私は学生時代に多少の競泳経験はあるものの,社会人になってから約26年間,スポーツから完全に遠ざかっていた結果,体重は20kg近く増え,定期健診における血圧や血液検査の各種数値も正常範囲を逸脱する状態が続いていた。が,今から3年前(2009年8月)に一念発起して自転車を始め,更にその1ヶ月後から水泳練習を再開したところ,1年半で18kgの減量に成功した。2010年からは出身高校の水泳部OB会有志からなるマスターズ水泳チームに加わり,競技会にも出場するようになった。瞬発力が必要な短距離種目はいまだ学生時代の記録には及ばぬものの,水泳練習を再開した2年後には持久力が求められる200m/400m自由形の記録が学生時代を上回り,昨年は3種目で50傑ランキング入りできた。

3.プロジェクトマネジメント視点から見た競技会
1つの競技会を開催するために必要となる主要作業には,おおよそ次のようなものがある。
開催日時の決定と場所の確保
競技種目・競技順の決定と実施要項の策定,公開
エントリーの受付・入金チェックとプログラム(スタートリスト)の作成
申し込みチームへの二次要項の発送
運営スタッフの確保・運営体制の策定と役割分担指示
競技会前日の会場設営,当日の大会運営と撤収
競技結果の整理と公開
 こうしてみると,競技会の企画・実施は,それだけで一つの「プロジェクト」であり,P2Mにおける「個別マネジメント」の全ての領域(戦略・ファイナンス・システムズ・組織・目標・資源・リスク・情報・関係性・バリュー・コミュニケーション)を包含している。 競技会を成功裏に導くためには,プロジェクトマネジメントが不可欠である。

4.プログラムマネジメント視点から見たマスターズ水泳普及・振興事業
 P2Mにおける「プログラム」の定義(=「全体使命を実現する複数のプロジェクトが有機的に結合された事業」)から見れば,マスターズ水泳の普及・振興事業は1つの「プログラム」と見ることができ,その活動成果の最大化を図る上では,P2Mの「プログラム統合マネジメント」の各構成要素が欠かせない。
 この「プログラム」のステークホルダーのうち,競技者から見た調和価値については前述のとおりであるが,競技者以外のステークホルダーとしては,大会会場の運営管理者,民間スポーツクラブ,スポーツ用品メーカー,スポーツ用品販売店(ネット販売を含む),水泳関連の雑誌・書籍出版社,食品・医薬品製造業(スポーツドリンク,栄養剤,サプリメント等),飲食業(競技会終了後の打上げ懇親会)等が上げられる。 マスターズ水泳の普及推進事業は,競技者の満足度に加えて,複数の業界に跨る市場創出・拡大や,国民の健康増進による国の医療費負担の低減.,等の副次的価値も生み出しているのである。

5.おわりに
 マスターズ水泳の価値や競技会運営,普及・振興事業に対するP2M的視点からの私的考察を試みた。一般的にP2Mの導入・適用組織の多くは民間企業であるが,公益法人や公共性の高い一般社団法人の活動をP2M視点で分析・評価するとともに,その組織活動にP2Mを導入することが更なる価値創出に繋がることを期待したい。
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