PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(50)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

3 笑い
●笑いの研究
 「笑い」に関する研究は、古今東西、数多く存在する。社会学の分野では「笑い」がもたらす社会的影響の研究、歴史学では人類の創世記から現在に至るまでの「笑い」の歴史的意義の研究、心理学や医学では「笑い」がもたらす効果の研究が行われてきた。現在もそれらの研究は続けられている。

 また芸術分野では、「笑い」をコアーにした数々の小説、演劇、彫刻、音楽などが存在する。この分野では、上記の様な「笑い」への研究という形をとっていない。しかし「笑い」の本質を追及し、そのもたらす効果を探究(研究)し、それを最大化した芸術の形にする行動は、まさしく実践的研究の範疇に入るものである。

出典:笑顔 Rakeshnpatel com 出典:笑顔
Rakeshnpatel com

●笑いの肉体的且つ精神的な効果(医学的研究)
 「笑い」は、人間の感性のポジティブな働きの結果、生まれるモノである。またエンタテイメントの極めて重要な「核」になるモノでもある。一方感性のネガティブな働きの結果生まれるモノは、「泣く」ことや恐怖で「震える」ことなどがある。これもエンタテイメントの極めて重要な「核」となるモノである。

 「笑い」に関する社会学、歴史学、心理学、芸術に於ける研究成果を本稿で紹介したい。しかし紙面の制約があるため「笑い」に関する医学の研究成果の一部を以下に紹介した。

 腹の底から、涙が出るほど「よく笑う」と以下の効果が生まれることが分かっている。
(1)病気予防&治療効果
腹筋や横隔膜が「笑い」で激しく動き、それが鍛えられて便通が良くなる。
血糖値が低下し、糖尿病に効果がある。
モルヒネの数倍の鎮痛作用があるベーターエンドルフィン(ホルモン)が大量に分泌され、痛みを緩和する。
腹式呼吸の一種である「笑い」によって老廃物を体外へ排出し、血液の循環を良くする。その結果、脳梗塞などのリスクが軽減される。
リウマチの回復に効果がある。
男性&女性ホルモンのバランスを良くする。その結果、肌がキレイになる。

(2)癌抑制効果
癌細胞、腫瘍細胞を殺傷し、その発生を防ぐ「ナチュラルキラー(NK)細胞」を活性化するため癌や腫瘍を抑制する。
免疫機能ホルモンをより多く分泌するため癌の予防になる。

(3)精神的効果
ストレスが解消され、精神的に楽になる。それだけでなく、血圧を低下させ、心臓病などのリスクを軽減する一方、胃腸などの痛みを改善する。
精神的な癒しの効果を生む。
体の筋肉を予想以上に使う「笑い」は、心地よい疲れを生み、精神的なリラックスをもたらす。それだけでなく、よく眠れるようになる。
相手に笑いを波及させるため、相互のコミュニケーションを潤滑化し、仕事の能率をアップさせる 。
脳波にアルファ波が多く現れ、集中力、記憶力が活性化し、仕事の能率をアップさせる。

●笑う門に福来たる
 「笑い」に関する今後の更なる研究によって、「笑い」が持つ絶大なる効果は、より一層明らかにされるだろう。従って我々は、毎日の仕事や生活の「場」で少しでも多くの「笑い」を得る機会を得る様に努力すべきではないか。
出典:笑いステッカー Zimbo Com 出典:笑いステッカー
Zimbo Com

 しかし「努力」というと、「しんどい話」になる。しかし「エンタテイメント」をより多く楽しむ様にすると言えば、誰でも「努力」でなく、楽に実行できるだろう。TVでも、映画でも、自分の楽しい趣味でも、友人との語らいでも、夫婦や子供や孫などとの交流でも、何でもよい。とにかく「笑う機会」をより一層増やすことである。要は「よく遊び、よく笑う」ことである。

 「笑う」だけなら、余程のことをしない限り、殆ど「金」は掛からない。健康増進のため高い金を払って健康食品を買うより、高い金を払ってジムに通うより、遥かに手っ取り早く、安く笑いを実現できる。笑えが健康になり、病気を防ぎ、病気を直せる。そして仕事も、生活も、人生まで充実させる。

 最近の日本の新聞、TVなどメディアに登場する日本の政治家、経済人、学者、ジャーナリストなどの顔から「笑い」が殆ど消えている。このことに気付いている人は何人いるだろうか。これでは日本は明るくならない。また発展もしない。

 一方TV番組、映画などには「笑い」が沢山登場する。しかしその「笑い」の中身は、詰まらなく、質も悪い。これでは本当に笑えない。表層的な「笑い」、薄っぺらな「笑い」では、「笑い」の効果は生まれない。最近の日本のエンタテイメント・ビジネスの主体者(エンタテイナーやそれらを支えている全ての関係者)は、腹の底から涙が出る様な「笑い」を日本国民に提供できなくなって久しい。日本が敗戦で貧しい生活を強いられていた時代、その後の目覚ましい経済成長を遂げつつある時代の方が日本中に本当の「笑い」が満ち溢れていた。何故なのか?
 
 我々の先人達は、昔から「笑う門には福来る」と後輩に教えていた。この教えは、現在の日本の小・中・高の学校、家庭、そして職場などで教えられているだろうか。腹の底から涙が出る様な「笑い」はそうそう体験できないだろう。しかし明るい、楽しい、納得できる「笑い」やユーモア―のある「笑い」は、十分体験できる。しかし受け身で体験するだけでなく、家族、友人、知人、上司、同僚、部下、そして世の中の多くの人々を楽しませ、笑わせる積極的な行動もやろうではないか。そうすれば、日本に多くの「福」をもたらす。

●帝京平成大学・竹本浩三教授の「お笑い学」講座
 10数年前、伊丹仁郎医学博士(岡山大学医学部、神経精神医学専攻、内科臨床医など)は、吉本興業の協力を基に、吉本の観劇を見た患者の血液検査を行った。その結果「笑い」は医学的に画期的な効果をもたらすことを見つけ、その内容を発表した。これを契機に吉本興業はいろいろな大学との提携が始めた様である。

 上記の竹本教授も同大学と吉本興業との提携を基に「お笑い学」という講座を開設した。その内容が公開されているので紹介したい。是非、読んで欲しい。  リンクはこちら

 同教授は、吉本新喜劇の創設にかかわり、その演出の基礎を創ったと言われている。またNSC吉本芸能学院の開校時より講師を務めた。現在は吉本興業文芸顧問、帝塚山学院大学文学部講師、関西を中心に作家活動を行っているとのことである。

「お笑い」講座の概要
「お笑い」講座の概要 出典:帝京平成大学・竹本浩三教授  帝京平成大学HP

出典:
帝京平成大学・竹本浩三教授
帝京平成大学HP

●2012年・マスターズ・トーナメント
 本稿では、エンタテイメント論に関係する新しい興味ある情報が入った場合、各号で取り上げているテーマに関わりなく、その情報を基に本論で説くことを以前から予告していた。

 ついては、2012年4月6日から4日間、米国ジョージア州オーガスタ・ナショナル・ブルフ・カントリークラブで「マスターズ・トーナメント」が開催された。それについて論じたい。
出典:昨年の優勝者C.シュワイツエル(南アフリカ)から勝利ジャケットを着せられたB.ワトソン(USA)The Masters Com 出典:昨年の優勝者C.シュワイツエル(南アフリカ)から
勝利ジャケットを着せられた
B.ワトソン(USA)
The Masters Com


 今年の優勝者は、米国フロリダ州出身、ジョージア大学卒、34歳のバッバ・ワトソン(Bubba Watson)である。彼は米国で4勝、海外メジャー1勝のゴルフ歴の持ち主(身長192cm、体重82kg)である。彼は、世界では無名に近いが、今回一挙に世界のプロ・ゴルフ・トーナメントで別格の存在である「マスターズ」で優勝したため、その名を世界に知らしめた。新しいヒーロの誕生である。

●注目の石川 遼選手
 20歳の石川選手は、2011年を除き、2009年、2010年、今回と3度の予選落ちをした。日本のゴルフ界の彼への評論は、「特別招待選手のため日本の代表選手としての重圧から負けた」、「練習ラウンドでは最難関の1番ホールはフェアウエー・キープした。しかし本番では緊張感から二日間ともドライバーを曲げてトラブルとなった」、「経験を重ねたためゴルフの怖さが分かってきた」など、殆ど好意的な内容であった。

 一方昨年、ベスト・アマチャー賞に輝いた「松山英樹(東北福祉大学)選手」は、今年も予選通過して54位。ベスト・アマチャー賞は取れなかった。しかし来年が期待される。筆者が石川選手に説くアドバイスを、もし彼が実行すれば、彼は将来、日本だけでなく、世界のゴルファーに成長するだろう。

 ゴルフをしない人も含めて日本中の多くの人は、石川選手の名前も、国内での活躍ぶりも知っている。そして彼がマスターズで優勝することを期待した。本稿で既に述べた通り、日本のプロ・ゴルフ歴にその名前を残した歴代の超有名日本人選手は、「命がけ」で戦っても、誰一人としてマスターズに優勝できなかった。

 筆者は、以前、マスターズ最終日、アンダーパーで勝ち残った「青木 功選手」が「顔面蒼白」で震えながら「命がけ」で戦っている姿を目の前で目撃した。それほどマスターズは凄い競技なのである。

出典:左から石川 遼選手(彼のオフィシャルHP) 、宮里 藍(彼女のオフシャルHP)、松山英樹(GDOニュース)
出典:左から石川 遼選手(彼のオフィシャルHP) 、宮里 藍
(彼女のオフシャルHP)、松山英樹(GDOニュース)

 筆者は、ゴルフ評論家でも、専門家でもない。しかし石川選手は「今のまま」ではマスターズに優勝することは不可能と断言できる。しかし日本のプロの評論家や専門家は、何故、彼に好意的な評論ばかりするのであろうか。石川選手のマスターズでの競技ぶりを見ていた解説者も本当のことを言わなかった。

 彼が予選落ちしたのは「精神力」の弱さだけではない。極度の重圧、緊張、プレッシャーは、参加選手すべてが味わっていることである。だからこそ「マスターズ」なのである。彼のゴルフの「技術力」ではオーガスタ・ゴルフ・コースを制覇できないこと、世界の強豪選手の前では全く歯が立たないのである。要は彼に「実力」が無かったから予選落ちしたのである。

 彼が宣言していた通り、マスターズ優勝を「夢(目標)」としているならば、もし彼が3度の予選落ちを本気と本音で反省しているならば、強豪選手が殆ど存在しない現在の日本のメジャー・トーナメントに参加し、幾ら優勝しても「金儲け」以外には全く無意味である。そして日本のコマーシャルやメディアに登場することを即刻中止し、一刻も早く日本を去り、米国の地に住み、強豪プロとの戦いに参加すべきであろう。それくらいの「蓄え」は築いたはずである。また日本のプロ・ゴルフ業界人、評論家、先輩ゴルフ選手は、彼の「夢」の達成と彼の将来のために、筆者と同じアドバイスをすべきではないか。

 日本が奇跡の経済復興を成し遂げ、AS NUMBER ONEと評価されたのは、日本の企業が世界の競争の場で強豪企業と戦ったからである。また韓国、中国、インドなどの新興国が先進国を追い越す勢いを得たのも、彼らが「命賭け」で世界の競争の場で戦ったからである。経営の世界も、プロ・ゴルフの世界も、エンタテイメントの世界も、根源的競争力は、世界との戦いの過程で高められ、その戦いで勝利することで「真の実力」を手に入れられるのである。

 石川 遼選手と同年代の宮里 藍選手は、2012年4月21日、米女子ゴルフツアーのロッテ選手権(ハワイ州カボレイ・ゴルフカントリー・クラブ)で優勝した。4季連続の米ツアー優勝を果たした。立派である。彼女の活躍が大いに期待される。

 なお今回のマスターズの「報道と解説」は、昨年と同様、日本の視聴者を楽しませ、感動を与える様な「エンタテイメント性」を全く欠落させていた。平坦で単純で素人でも出来る様な報道と解説であった。これでは、TV放送局も含め、彼らにマスターズを中継し、必死で頑張っている選手の姿を伝える資格はない。この際、「エンタテイメント」の基本から学んで欲しいものだ。
つづく
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