投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~イノベーションする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 1月にAOTS(財団法人海外技術者研修協会)で日本プロジェクトマネジメント協会の講師として講義をして以来、「イノベーション」というキーワードを意識するようになり、頻繁にこの言葉を見聞きするようになった。きっかけは、昨年の担当分に加え、今年担当することになったPM Principles(PMの原則)を準備する中で、「イノベーション」について改めて考える機会を得たことだった。P2Mでは、プロジェクトが「新しいInnovation Value(イノベーションの価値)を生み出す」ことに注目している。講義の中で、例として、スマートコミュニティと、BOP(Bottom of the pyramid)をあげた。スマートコミュニティは、コミュニティ全体でエネルギーの消費量の削減を目指す環境に優しい取り組み、一方のBOPは、従来消費の力が低いとされてきた低所得者層に対するビジネスを指す。例えば、既成概念を打ち破って、髪染めはユーザーが粉末状のものに液体を混ぜて使えばいいと考えることで、低価格の実現、そして、BOPとしての新しいビジネスチャンスが広がる。
 1月にオバマ大統領が行ったThe future is ours to win. (正確な英訳ではないが、私自身は、このフレーズを「我々は将来を勝ちとることができる」といった意味で捉えている)と題された2011年一般教書演説も、Innovationがキーワードの一つだった。やはりオバマ大統領は、言葉の使い方が上手だ。次のくだりも韻を踏み、言葉を畳みかけている。The future is not a gift. It is an achievement. We need to outinnovate, outeducate, and outbuild the rest of the world That’s how we will win the future. (前同様正確な英訳ではないが、私は、こんな意味だと理解している。「将来は誰からから与えられるものではない。将来は、達成することによって、手に入れるものだ。我々は他国よりも、より革新をし、教育をし、より様々な物をつくり上げていく必要がある。そうすることで、我々は将来を勝ち取ることができるのだ」)力強いメッセージで、聴いているだけで、元気が出てくる。一方で、オバマ大統領は、未来を勝ち取るための手段として、他国から学ぼうともしている。成長がなかなか見込めない中、米国民の想像力と創造性に火をつけ、「イノベーション」を起こし、アメリカを強化しようとしている。
 韓国では、国家を挙げてアジアで教育主導権を取り、アジアの知の拠点化を図る動きが本格化しているという。同国最大の島である済州島を「国際教育市」と決定し、世界を代表する12の小中高ボーディングスクールを誘致する計画らしい。第一陣として、済州島に、5年連続世界一のノース・ロンドン・カレッジエイト・スクールが初の姉妹校を設立し、2011年9月から始動するという。
 一般教書演説の中に韓国から学ぶことへの呼びかけはあっても、日本についての言及はなかった。日本にも、ナレッジマネジメントの世界的権威である野中郁次郎名誉教授のように、優れた人財はいる。野中氏は、「知識創造経営とイノベーション」の中で、企業がどのように知識を継続的に創造し、変化し続ける環境に合わせて変化し存続しようとしているのかを説いている、同氏によると、日本企業が優れている点の一つは「場」を通じて暗黙知を共有すること。日本経済新聞も、「未来面」という特集の中で、「世界一、イノベーションが進む国」になるために、日本は何をしたらいいのか、を読者や企業と共に考えている。1月31日の紙面は、「イノベーションを生み出す人材の育て方」についてまとめている。そこに書かれているのは、「多様性を重視する社会をめざそう。個性のぶつかり合いから、成長の源泉となる創造力が生まれる」ということだ。実際、寄せられたアイデアには、海外との交流を深めるような取り組みが多かったという。日本の中で、イノベーションをどう進めていったらいいのか、議論が沸き起こるのは歓迎だ。日本が世界に伝えることができることが、きっとあるはずだ。
 私が携わっている人財育成の仕事の関連で見たある人財育成のホームページのサイトに、How are learning and development organizations innovating through the social and collaborative learning methods? (学びと育成に携わる組織は、ソーシャルと協調学習の手法によってどのようにイノベーションをしているのか)という問いかけが記載されていた。さまざまな組織で、イノベーションが今求められていることを実感する。
 組織だけでなく、私たち一人ひとりのイノベーションも求められている。今やっている仕事、その仕事のやり方に甘んじるのではなく、環境の変化に応じて、そして、時には変化に先んじて、変えていかなければならない。昨日の延長線上で仕事をすることは、楽だ。しかしその誘惑に打ち勝ち、某マンションの広告で見かけたサッカー選手の「僕は毎日自分をリセットする」という言葉をトリガーに、自分自身をイノベーションしていくことができれば、違う景色も日々見えてくることだろう。「自分と組織をどうイノベーションさせていくか」この問いにきちんと向き合わなければいけない時代に今、私たちは生きているのだと思う。
ページトップに戻る