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「リスクマネジメント・ツールボックス (5)」

河合 一夫 [プロフィール] URL: こちら  Email: こちら :2月号

 前回は、ブレーンストーミングをリスク特定に利用する際、リスク・ブレークダウン・ストラクチャー(以降、RBS)を触媒として使用することで様々な視点からリスク特定を行うことの効用を述べた。今回は、RBSやプロンプト・リストの利用について述べてみたい。
 RBSは、『あるプロジェクトに対する潜在的なリスクの発生源を階層的に表すフレームワークである』と定義される[1]。組織横断的に利用するための一般的なRBSを作成することもあれば、プロジェクト固有のRBSを使用することもある[1]。プロンプト・リストは、『リスク特定を促進するために使うことができる一連のリスク区分である』と説明される[1]。また、RBSの見出し集として表現することもある[1]。このようにRBSとプロンプト・リストは関連が深い。ブレーンストーミングなどの発散的なツールにおいてリスク特定に利用される。
 RBSの例を次に示す。ここでは、簡略化した2階層のRBSを示している。実際のプロジェクトでは、より具体化したRBSが必要となる。

 プロンプト・リストの例を次に示す[1]
1. PESTLEプロンプト・リスト
   政治(Political)
   経済(Economic)
   社会(Social)
   技術(Technological)
   法律(Legal)
   環境(Environmental)
2. TECOPプロンプト・リスト
   技術(Technical)
   環境(Environmental)
   商業(Commercial)
   業務(Operational)
   政治(Political)
3. SPECTRUMプロンプト・リスト
   社会文化(Socio-cultural)
   政治(Political)
   経済(Economic)
   競争(Competitive)
   技術(Technology)
   規則や法律(Regulatory/Legal)
   不確実性やリスク(Uncertainty/Risk)
   市場(Market)

 上記に示したRBSやプロンプト・リストを利用する勘所はどこにあるのか、プロジェクトのリスクマネジメントについて改めて考えてみる。『プロジェクトのリスクは、常に将来において起こるものが対象』[2]であり、事象が発生する可能性を整理する、「リスクを整理されている状態」にすることがリスクマネジメントでは重要なことである。
 「整理されている状態」は、『それぞれが意味しているものとそれが置かれている場所に違和感がない状態』[3]といえる。「違和感がない状態」という点がリスクを整理する際のポイントとなる。もともと不確実な事象をリスクとして扱っているため、チームのメンタルモデルがリスクの特定や評価に影響を及ぼす。一般化されたRBSやプロンプト・リストを用いることは、メンタルモデルによりバイアスがかかっている状態を認識しバイアスの排除に効果がある。
 RBSやプロンプト・リストを単に整理されたリスク区分として使うのではなく、チームのメンタルモデルを排除するツールだと考えて利用することが重要である。そうすることにより、プロジェクトに適した内容に修正することも可能となる。さらに一歩踏み込むことで、リスクに対するチームのメンタルモデルを改善するツールとしても利用できる。その点については別の機会に譲りたいと思う。今回は、RBS、プロンプト・リストの利用について述べた。次回は、根本原因分析について述べたいと思う。

参考文献
[1] PMI日本支部監訳,プロジェクト・リスクマネジメント実務標準,鹿島出版会,2010
[2] PMI,プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)第4版,PMI,2008
[3] デビッド・アレン,ストレスフリーの整理術,二見書房,2010
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