図書紹介
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「KAGEROU」
(齋藤智裕著、ポプラ社、2010年12月15日発行、第1刷、236ページ、1,400円+税)

デニマルさん:2月号

今回の紹介は、昨年末の出版前から何かと話題を呼び、初版でベストセラーとなった本である。その話題の一つが、ポプラ社の第5回小説大賞を受賞したが、著者がその賞金2000万円受領の辞退である。更に、その著者は、齋藤智裕という無名の新人だったのだが、出版社が調べたら俳優の「水嶋ヒロ」であることが判明したとメディアに報じられた。その後、この本の出版となり記録的な100万部のヒットとなった。一方、出版社は、この小説大賞は今回で終わりとして、新人賞(賞金200万円)だけが残ると発表した。詳しい理由は明らかにされていないが、芥川賞や直木賞等の賞金が100万円で、他の文学賞でも300万円前後である点を配慮しているのか。因みに、小説大賞の第1回の受賞者は、方波見大志著『3分26秒の削除ボーイズ―ぼくと春とコウモリと―』で、第2回から4回の受賞者はなかった。こうした経緯からこの本は、今年も話題を呼ぶかも知れない。著者の水嶋ヒロは、モデル、TVや映画の俳優であるが、この本がデビュー作である。

話題性(その1)   ―― KAGEROUは「陽炎」か「蜻蛉」か ――
題名がKAGEROUとローマ字表記なので、日本語としての意味が判明しない。著者はそれを狙っての命名であろうが、一般的に本の題名と内容は大きく関係する。先に書いた諸々の話題は、出版に至る経緯であり著者の知名度等で本の中身とは全く関係ないことである。そこでこの本の題名問題であるが、主人公ヤスオの「蜻蛉」のような儚い人生を感じるのか、「陽炎」のような不確かなストーリから小説の本質を読むのかは、読者の判断である。

話題性(その2)  ―― 青十字は「赤十字」か「白十字」か ――
この本の表紙に青い十字のマークがある。この十字マークが何を意味するのか題名と同様に本に興味がわき、本を手にしたくなる雰囲気が漂う。内容確認のため、目次や「あとがき」を探しても、それらの表記がない。だが最後に「Report」と題し、ドナー(臓器移植提供者)の臓器移植に関する報告が書かれてある。医療関係の「赤十字」と関係する本かと想像できるのだが、白十字も医療関係の会社であり、中味に関心を抱かせる本である。

話題性(その3)  ―― 全ド協は「慈善事業」か「医療法人」か ――
一般的に本の購入は、関心ある分野やその本の前評判や著者の話題等に大きく影響される。それ以外では、インターネット書評や書店での独自宣伝や陳列等から本が選択される。今回は、前評判から実際に本を手にして購入した。その際、文中に「協会」とか「全ド協」の文字が頻繁に出てきて、本への関心が高まったことは事実である。現在の閉塞感ある世相から「自殺」という暗いテーマに対して、人の繋がりと温もりを感じさせる小説である。

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