リレー随想
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「もしドラ(もしもドラッカーが今の日本を見たら)」

石倭 行人 [プロフィール] :12月号

 今年は「もしも高校野球の女子マネジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」通称「もしドラ」が大ベストセラーとなりました。同書の刊行は昨年12月であり、未だ1年も経っていませんが、発行部数は既に150万部を超えたそうです。私は、あの何とも派手なカバーに気後れがして書店で手に取るのを躊躇っていたのですが、知人に「馬鹿にせず読むべし」と強く勧められて夏に購入しました。PMAJの皆様もお読みになった方が少なくないと思いますが、さすがにベストセラーになるだけあって良く出来た作品です。ドラッカー博士の金言を多数引用しながら、ストーリー自体もなかなか面白く、劇画のようにテンポ良く読めました。中学生から我々中高年まで読めるこんな不思議な本を書いた著者の岩崎夏海という方の企画力と筆力は見事なものです。
 昨年はちょうどドラッカー博士生誕100年だったようです。「もしドラ」もそれを記念して書かれたものなのかどうか私には分かりませんが、「もしドラ」の出版社であるダイヤモンド社からは、今年5月にハーバード・ビジネス・レビュー誌6月号として「P.F.ドラッカーHBR全論文」という特集も出版されていました。こちらは「もしドラ」と違ってテンポ良くは読めませんでしたが、1950年から2004年までに書かれた34本の論文が収録されており、ドラッカー博士の論ずる対象分野の広さや内容の先見性に改めて驚かされました。
 この論文集を読んで特に印象深かったことは、70年代、80年代に書かれた論文においてドラッカー博士が日本及び日本企業を非常に高く評価していることでした。ドラッカー博士が日本贔屓であることは有名な話ですし、80年頃はエズラ・ボーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が脚光を浴びた時代でしたから、驚くことではないのですが、日本への敬意に満ちたドラッカー博士の文を読むと、現在の日本に生きる身としては恥ずかしくなります。1971年に書かれた論文には「日本では、技術と工程が次々と変わることを従業員が喜んで受け入れ生産性向上が全ての人々にとって善だと見なされている。」、1981年に書かれた論文には「日本人はアメリカ人と違い、エネルギーや原料、食料を輸入に依存していることを非常に強く意識しているため、他国を軽視したり、頭から除外して考えたりはせず、世界における自らの競争力を常に意識する。」等と、米国が学ぶべき対象として述べられております。既に日本は「失われた20年」を過ごし、閣僚が「国を開かなければ日本は滅ぶ」と叫んでも、与党からも野党からも反対の声が上がる体たらくですから、もしドラッカー博士が今の日本を見たら嘆かれ、自らの論文を撤回されるのではないでしょうか。
ドラッカー博士は「マネジメントの教祖」とも言われていますから、PMAJもドラッカー教の信徒集団ということになるのかもしれません。とすると、ドラッカー博士に称賛された変化を喜んで受け入れる強い日本を取り戻すことは、我々PMAJ会員の当然の使命かもしれませんね。
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