今月のひとこと
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メタスキル(Meta Skills)

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :10月号

 日本語でスキルとは「熟練した技術、手練、上手」(広辞苑)となっていて、どちらかといえば「技能(technique)」的な意味合いで使われますが、本来の意味は“the ability to do something well”(OXFORD英英辞典)ということで、「能力全般」を意味するようです。
 ハードスキル(Hard Skills)とソフトスキル(Soft Skills)という言葉があります。ハードスキルとは「体系立った知識」のことであり、「理論や手法やツール」などを指します。一方、ソフトスキルとは「ヒューマンスキル」のことであり、「自己および対人関係に関するスキル」という定義です。例えば、MBAプログラムでは経済学、統計学、会計、ファイナンス、戦略という、体系立った知識はハードスキルと呼ばれます。これに対してコミニケーション力、交渉力、リーダーシップ、ストレス耐性を含めたメンタル力などの、自己および対人関係に関するスキルはソフトスキルと呼ばれます。米国政府機関の定義によれば「効果的なコミュニケーション、創造力、分析力、柔軟性、問題解決力、チームビルディング、傾聴力等の、他者と触れ合う際に影響を与える一連の能力」となっています。最近はこのソフトスキルが注目されていることはご承知の通りです。
 ここでもう一つ、「知っているスキル」と「使えるスキル」を区別するために、メタスキル(Meta Skills)というものを考えてみたいと思います。メタ(meta-)とはギリシア語で、「間に、繋ぐ、越える」の意味があります。従って、メタスキルとは、ハードスキルとソフトスキルを「繋ぎ、越える」という援用から、「スキルを使いこなすスキル」と定義します。
 ハードスキルは基本・型などの形式知(Science)ですから、座学や書籍などによって伝授可能です。一方、ソフトスキルは個性・天分などの非定形知(Art)に影響されますから、気づき、内省を通じて開化させる必要があります。更に、メタスキルは訓練・実践による繰り返しの経験知(Practice)ですから、修得するに時間が必要です。これら3つのスキルをバランスよく組み合わせることで、目的に応じた時と場所で、求められる能力を発揮することが重要です。例えば、学校教育では、受験という目的の下、偏差値教育というハードスキル偏重になっています。それがバランス欠いた結果、社会人としての基礎力に結びつかないということで、最近ではソフトスキル教育の必要性が指摘されています。一方、スポーツの世界ではハードスキルやソフトスキルよりは、繰り返し訓練・実践による経験知(体得知)であるメタスキルの増幅を図ることが中心になります。例えば、野球界のイチロウは一朝一夕に成るものではありません。子供のころから基本・型を毎日毎日、繰り返して実践することで、今日のイチロウがあります。

 この類型をPMスキルに当てはめてみますと、PMハードスキルとはP2MやPMBOK等の理論や知識体系、フレームワークや各種のモデルに相当し、通常、座学や書籍で伝達可能です。測定できるスキル、証明できるスキルですので、それぞれの資格を持っている人はたくさんいます。またこのようなスキルは陳腐化しますので、知識の更新が必要です。
 PMソフトスキルとは、コミュニケーション、ネゴシエーション、リーダーシップなどの非定形のスキルですから、ワークショップやロールプレイング等が併用されます。また性格判断や心理学の応用も盛んです。測れないし他人からも見えないスキルで、持って生まれたセンスをみがいていくしかないスキルです。部下を持ったら、誰でもその必要性に気づきます。PM的職種だろうが、そうでなかろうが、あまり関係がありません。だれもがこの問題について悩んでいます。取り分け、グローバル化に対応したクロスカルチャ下でのソフトスキルの向上は焦眉の急です。
 PMメタスキルとは、所謂「実践力」を意味します。課題(問題)発見力、課題(問題)形成力、課題(問題)解決力を伴う実践力です。スキルには「知っているスキル」と「使えるスキル」があります。そしてこの違いには雲泥の差があります。スキルを知っている人は沢山います。しかし、それを使っている人、使える人は意外と少ないのが実情です。スキルは「使ってなんぼ」のものです。使ってみれば、経験の中から何らかのフィードバックがあります。それが新たな知識(ハードスキル)や自信(ソフトスキル)を生み出すトリガーになります。この意味で、PMメタスキルはスポーツに於けるスキルに似ていると思います。一朝一夕に身に付けることは難しいという主旨です。ひとつのスキルを使えるようになるには、詰まりは「知っているスキル」を「使えるスキル」に昇華させるには、少なくとも30回ぐらいは自ら実践してみる必要があるように思います。知っているだけのスキルでは形だけに終わり、期待する成果を得ることができません。特にマネジメントにおいてこれが行われるようになると、形式的で杓子定規な機械的活用になり、スキル本来の目的が見失われます。例えば「コントロールツール」としてのみに使うようになり、メンバーに過重なストレスを与え疲弊させる結果になって、却って弊害の多いものになってしまいます。従って、マネジャーにとっては、「使えるスキル」すなわち「PMメタスキル」の修得は不可欠だと思います。

 PM界のイチロウを育成するためには、野球やサッカーと同じように、PMスキルの基本・型をできるだけ早い時期から教え、遊びや生活を通じて繰り返し実践することで、自らの型を体得していく時間を与える必要があるように思います。変化が常態化し、個人も組織も「変化をマネジメント」していく必要性に迫られている現在、PMスキルは全ての人が等しく身に付けるべき、自己マネジメント及びコミュニケーションのフレームワークであると考えます。これを教育の基本に据え、次世代人材育成を急ぐべきではないでしょうか・・・?
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