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「変化するリスクマネジメント (7)」

河合 一夫 [プロフィール] :11月号

 リスクマネジメントを実施する際,標準や規格に従うことが要求される場合がある.また,世の中のデファクトとなっている規格に従わざる負えないこともある.その標準や規格は,世の中の要求に応じて変化をしていている.そういった変化を捉えることは,プロジェクトのマネジメントにとって重要なことである.本稿では,リスクマネジメントの用語の基礎となっているISO/IEC GUIDE 73 "Risk management - Vocabulary - Guidelines for use in standards (リスクマネジメント − 用語 − 規格における使用のための指針)"の規定の変化をもとにリスクマネジメントを眺めたい.(前回の最後でITILなどの様々なフレームワークにおけるリスクマネジメントを取り上げると記述したが,GUIDE 73の変更を知ったので,こちらに変更する)

 2002年版のISO/IEC GUIDE 73では,「事象の発生確率と事象の結果の組合せ」と定義されているが,改訂中(2009年12月発行予定)の定義では,「目的に対して不確さが与える影響」に変更される.これは何を意味しているのか.これまでの定義では,事象とは「一連の状況の発生」であり,そこでは,ある事象からある結果が生じる,その因果関係に基づいたマネジメントがリスクマネジメントの前提としてあるように思う.確かに,原因と結果が比較的単純な因果関係で定義できるプロジェクトやシステムもある.しかし,大抵のプロジェクトでは,事象間の因果関係が単純であることは稀であり,1つの事象が複数の事象の原因となっていたり,事象の発生による影響が時間遅れを伴ったりしているため,単純に事象の発生と結果の組合せで考えることには危険がある(これはシステムダイナミクスを必要とするが,本稿の範囲外であり今回は割愛する).既に述べたことであるが,そもそも私たちは,全ての事象を認識できることはできない.したがって,ある限定された状況の中での事象を原因と結果の関係で捉えているに過ぎない.私たちは,このことを知ってはいるが,実際のプロジェクトにおけるリスクマネジメントでは,単純な因果関係でものごとを捉えがちである.このことを次の図に示す.


 このことを踏まえてプロジェクトにおけるリスクマネジメントを考えると,従来はプロジェクトを実施することでリスクが減少していく(不確実性が減少する)という仮定をもとにしていたと思う.しかし,実際にはどうであろうか.プロジェクトの計画時点における状況が変わらないとすると,図aに示すようにプロジェクトの進捗に伴いリスクは減少する.実際のプロジェクトにおいては,リスクは監視・コントロールプロセスによりプロジェクトの進捗に伴い見直しがされる.図bに示すように,監視ポイントで新たなリスクが発見される.プロジェクトが進捗することでリスク(不確実性)が単純に減少していくことは稀であることは周知のことである.実際には,図cに示すように,プロジェクトの状況が刻々と変化することでリスクも変化している.監視・コントロールのタイミングにより見つけるリスクも変化をする.これは見逃すリスク(の因子)があるということである.変化が小さなプロジェクトでは,プロジェクト状況によるリスクの変化を見逃していても,プロジェクトを終えることは可能である.しかし,昨今の状況は,それを許さなくなっている.GUIDE 73の定義の見直しは,プロジェクトにおけるリスクマネジメントが変化をしている現われと捉えることもできる.次回は,この連載のまとめとして,これからのリスクマネジメントのあり方を考えてみたい.


補足:
 PMBOK3rdや4thにおけるリスクの定義は,『リスクとは,もしそれが発生すれば,少なくとも1つのプロジェクト目標に影響を与える不確実な事象あるいは状態のことである』と定義されている.P2Mも同様な定義である.しかし,リスクマネジメントの際には,事象の発生確率と影響度の組合せによるマネジメントをすることとなっている.これは事象と影響との因果関係を単純化したマネジメントを行うことを意味している.リスクの定義にあるような目標に影響を与える不確実な事象や状態を,別の視点から捉えることを考えることも必要なのではないかと思う.
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