今月のひとこと
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系を超える

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :9月号

 現代社会は、「系(組織又はシステム)」が入れ子構造状に幾重にも張り巡らされて、個人はその中に囲い込まれている。このために個人は自らの世界観としての「観の想(プログラム)」を描くことなく、その部分は組織に委ねたまま、謂わば、魂を売った状態で日々の「見の想(プロジェクト)」のみで組織と一体化してやってきた。
系を超える しかし今や、終身雇用・年功序列制も崩壊し、組織に委ねた「観の想」も喪失した個人が漂流し始めた。それに替わる規範をどこに求めるかとなると、自らの人生をプログラムと認識し、自らの世界観・人生観を描き、自らのプロジェクトを実践するしかないであろう。見観マネジメントがパーソナルマネジメントで実践されると、既存の系を超え、自立を促す作用が強く働く。何故なら、「特定使命のための見(プロジェクト)から、全体使命のための観(プログラム)へ」という視点・視野の拡張が求められるからである。パーソナルマネジメントにおける見観マネジメントでは、観の想は「ビジョン指向(Vision oriented)」で自らが描かなければならない。ここでは自らがマイプログラムのオーナーとなる。詰まりは人生を自分のものとする。
 戦後教育では「観の想」を養う指導をやってこなかった。「見の想」としての知識の詰め込みや受験競争のみに駆り立て、大局観を持つ人材育成を怠ってきた。結果として、問題解決には秀でるが、課題設定は苦手な人材を多く輩出してきた。グローバル化時代の知識情報社会においては、自立した価値観を持つ人材でなければ、情報の選択も評価も活用もできない時代だ。今や、日本人は自らの世界観を言葉に表すべきものとして確立しなければならない。いつまでも外国の思想や技術を輸入するだけではすまなくなっている。諸外国も自分たちの世界観を持って、日本人に思想的態度の表明を要求している。「見観の想」を、われわれは今日の方法で再構築する必要がある。グローバル化時代こそ自己の確立が大切だ。
 顧客ニーズの変化、マーケットの変化、技術の変化などの環境変化が、政治、経済、社会に複雑な問題の解決を迫っている。個人も組織も思い切って、大胆に新しい発想で新しい仕組みを考えて、環境の変化に対応した改革を推進していかなければならない。現代組織が抱える病「部分最適」を克服し、「全体最適」向けた改革の実現が、日本にとっての喫緊の課題であり、新たな競争力の源泉として見直されつつある。そのためには先ず、個人ベースでの自己革新が必要である。既存の系を超え、自立した個人の世界観(観)と使命感(見)を持ち、そのデュアル構造のダイナミズムを体得した、強靭で柔軟な個人が前提になる。そのためには、自らの「見観の想」を描くところから始めなければならない。
 「隗より始めよ!」である。
以上
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