図書紹介
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告白
(湊かなえ著、双葉社発行、2009年3月19日、第23刷、268ページ、1,400円+税)

デニマルさん:6月号

今回紹介の本は、色々な賞を受賞していることで話題となっている。先ず、2009年第6回本屋大賞で一位を獲得している。これは全国の本屋さんが一番売りたい本として選考したものである。因みに、第1回目の受賞作品は、「博士の愛した数式」(小川洋子著)である。次が、2008年週間文春ミステリーベストで国内作品第1位を新人ながら受賞している。この賞は、1977年から続く話題性が高い賞である。受賞作品の中に、「毒猿−新宿鮫U」(大沢在昌著、1991年)や直木賞を受賞した「マークスの山」(高村薫著、1993年)がある。もう一つに小説推理新人賞の受賞がある。これは数ある推理小説大賞の中でも新人を対象としたもので、オール読物推理小説新人賞(43年の歴史がある)に匹敵するものである。著者は、第29回目(2007年)の受賞者となる。この賞の第1回受賞作品は、「感傷の街角」(大沢在昌著、1991年)である。こうして見ると、今回の本は期待高まる推理小説である。

告白(その1)   ―― ことの発端(学校での出来事) ――
推理小説は、事件を横軸に置き、その背景や人間関係を縦軸に絡ませてストーリを展開させて、問題解決に向けて読者を引き付ける。著者は、事件に絡んだ当事者やその関係者に「告白」をさせることで、犯罪者や被害者関係の人々の背景や人間関係の複雑さを浮き彫りにしている。ことの発端は、学校で先生のお子さんが事件に巻き込まれて亡くなったことから始まる。先生は、お子さん誕生の過去を「告白」し、事件の真相解明に迫っていく。

告白(その2)  ―― 共謀者A(引きこもる心境) ――
共謀者Aは、成績が中くらいで、部活でも目立った活躍のないごく普通の中学生である。こうした生徒は、クラス内の成績優秀な生徒や部活でのヒーローに憧れを持っている。そこで成績優秀なクラスメイトから友達になろうと誘われれば、喜んで行動を共にするのは、自然な流れである。共謀者となったAは、事件後自宅に引篭もり新たな事件を起すのだが、その事件の経緯を、Aの母親が「ある告白」をする。その展開が物語を面白くしている。

告白(その3)  ―― 共謀者B(根深い心の怨み) ――
事件の背景が学校であるから、先生と生徒、生徒同士、生徒とその家族の関係が話の軸である。現在の学校での問題といえば、生徒間のイジメや学校と父兄(モンスター)が話題となっている。この本にも事件絡みで書いてある。共謀者Bの告白は、家庭内での問題の心の奥深いものがある。この本は、「告白」する人の心理描写と各章の文章構成も綿密な計算が成されている。これがストーリとどう関係しているのかは、読んでのお楽しみである。

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