優秀なITプロジェクト・マネジャーになるために
プロジェクトマネジャーの成功条件WG主査 株式会社ピーエム・アラインメント 佐藤 義男:7月号

 2006年10月に、シアトルで開催された「PMI2006北米大会」に参加しました。この時の分野別論文発表では、米国の著名なPMコンサルタントであるKent Crawford氏(米PM Solutions)の発表(Why Project Manager Fail - and How to Help Them Succeed)が印象に残りました。今回、この論文に述べられていた「優秀なプロジェクト・マネジャーの条件」について、当WG「ITプロジェクト・マネジャーの成功条件」で実施したアンケート調査結果(2007年実施、653人より回答)と比較して説明することにします。

1.優秀なプロジェクト・マネジャーとは
 いろいろな解釈がありますが、本論文では優秀なプロジェクト・マネジャーを次のように定義しています。
・ 人的スキル、ビジネス・スキル、技術スキルを兼ね備えている。
・ プロジェクトマネジメントの知識、スキル、行動特性を一貫して適用することで、要求事項に合致したプロジェクトを実現させる。

2.優秀なプロジェクト・マネジャーのPMコンピテンシー
 本論文では、優秀なプロジェクト・マネジャーの備えるべきPMコンピテンシー(プロジェクトマネジメントができるスキルと行動特性)として次の7項目を挙げています。
 ・リーダーシップ
 ・問題解決スキル
 ・自己査定
 ・影響力
 ・効率性
 ・コラボレーション技術
 ・プロジェクト実践スキル

 これらのPMコンピテンシーを、当WGが実施したアンケート結果に見る成功するITプロジェクト・マネジャー像と合わせて次に説明します。

(1)リーダーシップ
 リーダーシップには、関連する人間関係スキルである交渉、コミュニケーションを含みます。当WGのアンケート調査結果(成功要因)では、「人間関係のスキル」が1位(55%)で最も重要であったと支持されていました。この、「人間関係のスキル」領域には「コミュニケーション」、「組織への影響力」、「リーダーシップ」、「動機付け」、「交渉及び対立解消」、「問題解決力」(PMBOKガイド第3版)が含まれるが、「コミュニケーション」を挙げた人が多かったのです。これは、日米の国民性の違い(日本は高いコミュニケーション能力を重視)と、コミュニケーション不足が日本のITプロジェクト失敗原因の一つであるのが理由のようです。
(2)問題解決スキル
 これは、先見的な情報収集(ブレーンストーミングなど)、戦略的探究(MECEなど)、システム化思考(ロジックツリー)である。アンケート調査結果(成功要因)では、「人間関係のスキル」領域の3位でした。ここでは、日米の組織マネジメント風土の違い(米国は定量的な面の重視)が見られます。
(3)自己査定
 これは、様々な状況下で迅速なパフォーマンス評価が出来ることです。アンケート調査結果(実行力)でも、「WBS作成と要素成果物に対するレビューと承認プロセス(14%)」、「変更要求を明確化とスコープに対する変更判断(13%)」、「品質管理、品質保障、品質改善(12%)」などが挙げられており、日米に差異は見られません。
(4)影響力
 これは、組織における力関係を理解し、他人を説得し、影響を与えることです。アンケート調査結果(行動特性)では、人格コンピテンシーである「達成と行動」が特に支持が高く(27%)、次に認識力(17%)、インパクトと影響力(16%)を挙げています。この理由は、日本のITプロジェクト・マネジャーがプロジェクト目標達成とプロジェクト・チーム統率の能力を重視しており、当然と言えます。
(5)効率性
 これは、効率的にプロジェクト実行に必要なことを達成することです。アンケート調査結果(実行力)では上位に挙げる人は少なく、日米の差異が見受けられます。
(6)コラボレーション技術
 PM支援ツールに堪能であること。日本でも重視されているが、精通している人は少ないのではないか。
(7)プロジェクト実践スキル
  論文ではプロジェクトマネジメント・スキルとして、次のことが挙げられています。
  ・体系的なPM方法論、手順の活用経験が豊富なこと。
  ・個性、リーダーシップ、チーム・パフォーマンス最適化スキルの適用方法に精通。
  ・プロジェクト目標達成と企業戦略との連携に精通。
  ・重要な個人的特質(自己)の要素は公正、熱意、知性、信頼。
 アンケート調査結果(成功要因)では、第2位に「適用分野の知識・標準・規制」(30%)が重要であったと支持されていました。これは、日米の組織マネジメント風土の違い(日本は技術重視)と国民性の違い(米国は明確な役割分担)であると考えられ、当WGの仮説のとおりです。さらに、日米の組織マネジメント風土の違い(米国は計画重視、戦略重視)により、日本では戦略と離れたプロジェクト運営が見られます。組織戦略とのリンケージ強化アプローチが望まれます。
さらに、日本は「調整」、「状況を阿吽の呼吸で把握」を挙げる人が多く、個人的特質のコンピテンシーでは日本型組織の優位性があると言えます。

 さて、PMI標準PMBOKガイド第4版の付録Gには、「人間関係のスキル」について記述しています。これには上述の「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「影響力」、「交渉」が含まれます。また、優秀なプロジェクト・マネジャーは、技術スキルと人間関係スキル等をバランスよく身に付けている、と述べています。
 米国の著名なPMコンサルタントRita Mulcahy氏が実施したアンケート調査結果にて成功条件をまとめたところ、PMソフトスキル(人間関係スキルやヒューマンスキル等)が82%でした。「日本の組織マネジメント風土では技術重視であり、この成功条件と異なるのではないか?」というのが、当WGの研究背景にありました。当WGのアンケート調査結果では、PMソフトスキルが55%で残りがPMハードスキルでした。また成功要因の質問で、「通信・制御関連システム開発」と「ネットワーク関連サービス」プロジェクト分野の結果に「適用分野の知識・標準・規制」の領域が多いのは、日米の組織マネジメント風土の違い(日本は技術重視)と国民性の違い(米国は明確な役割分担)であると考えられます。結果として、当WGの仮説が裏付けられたことになります。現在、当WGでは結果を報告書にまとめる作業を行っています。

 ところで、私のPMコンサルティング経験では、ITプロジェクト・マネジャーが「プロジェクトマネジメント・スキル不足」や「コミュニケーション不足」(社内/社外を仕切れない等)で失敗するのが見受けられます。
 優秀なITプロジェクト・マネジャーになるには、どうすればよいのでしょうか?まず、「プロジェクトマネジメント・スキル」獲得には、「実効的プロジェクト計画の作成・運用」や「ベンダー管理」等のPMコンピテンシー(PM知識、実践力、行動特性)が欠かせません。このためには、メソドロジー(実践的なシステム構築手法)、ツール(適用標準や支援ツール)、トレーニング(導入研修や体系的PM研修)を一体化した組織レベルのプロジェクトマネジメント力強化が成功のキーと言えます。次に、PMソフトスキルであるコミュニケーショやリーダーシップ・スキルを身に付けた実践者レベルになるには、現場プロジェクトの経験を通じて学ぶこと(プロジェクトは学習する場である)が一番です。それには、実力ITプロジェクト・マネジャーのコーチング実践、部門長の支援、またはPMOの指導が欠かせません。
 プロジェクト成功のためには、これら組織レベル成熟度と個人レベル成熟度の向上が必要です。よって、優秀なITプロジェクト・マネジャーになるためには、プロジェクトマネジメント力強化をこの2つの視点から行うことが望ましい。

以 上